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8話:世話になったな、バーシュ村

すみませ、前話は7話のところを8話としていたので訂正させていただきました。本文に変更はありません。

また

ここで勝手ながら、次回から章付けさせてもらいます。

この話で「第一章:旅立ち編」の終わりということでお願いします。

8話:世話になったな、バーシュ村


バーシュ村で数日間過ごすうちに分かったことをまとめよう。

まず智春が一番驚いたのは、この世界は元の『地球』と太陽を基準とした東西南北がすべて反転しているのだ。

つまり、太陽は西からのぼり北を中継して東へ沈むのだ。

そのため、最初に森で智春たちが遭難したのは必然といえよう。

なぜなら、最初から北でなく南に進んでいたのだから.....

次に魔法の話をしよう。

この世界に存在する生き物は皆等しく魔力と気力というものを持っている。

魔力も気力も先天的に持っている量は個体によって異なるが努力で所持量を伸ばすことができる。

魔力と気力の違いは明確に分かっていないが『魔法』を使うときには魔力を消費する。

しかし、精霊やその契約者が『精霊魔法せいれいまほう』を使うときには気力が消費される。

また、世界には魔力が充満しているため魔力の回復は早いが気力は遅い。

その代り、『精霊魔法』のもたらす威力は凄まじい。

『魔法』や『精霊魔法』は魔法の4大元素の火、水、風、土をはじめ、炎、氷、雷、鉄、無、治癒、光、影の全部で12属性存在している。

また、〈火、炎、無〉〈水、氷、治癒〉〈風、雷、光〉〈土、鉄、影〉の4系統に分けられる。

『魔法』は一人1属性から6属性までが一般的であるが、大半は3属性以下であり、2属性、3属性使えても同系統魔法しか使えないことが多い。

まれに6属性以上の魔法を使うことができる。

そして、1系統持ちを『ソロ』、2系統持ちを『デュエット』、3系統持ちを『トリオ』、全系統持ちを『カルテット』と呼ぶ。

また、『精霊魔法』は精霊自身の属性に使用できる属性が限定される。

バーシュ村の住民も大半が『ソロ』で最高が3属性持ちであったが。

レイラは〈水、治癒、光〉の『デュエット』で、村の鍛冶屋をしているバルバの娘で見習い鍛冶屋のカノンは〈炎、鉄〉の『デュエット』であった。

ちなみに、自警隊は〈土〉の『ソロ』が大半で隊長のルークも〈土、鉄〉の『ソロ』だったため戦闘ではあまり魔法を使っていなかったようだ。


バーシュ村で智春は午前を自警隊と訓練をし、午後から荒れた田畑の整備を手伝い、夕方からはレイラの家でリリャーナとサリーニャに医学や薬学を教えて過ごしていた。

住むところは強く言い張るレイラに押し切られ、レイラの家に厄介になっていた。

そんな暮らしを始めて6日たった朝、智春はいつも通り自警隊の訓練へと向かう。

「おお、トモ坊じゃねえか。今日も早えな。」

「おう、ジェイド爺さん。もう歩いて大丈夫なのか。」

驚異的な回復を見せたジェイドは昨日は車いすで起きだしてき、田畑の草取りなどをやろうとしてレイラにこっぴどく叱られていた。

「おう、家にいた方が腐っちまう。それより、今日も手伝いに来てくれんか。」

「もちろんだ、あと何面残ってるんだっけ。」

「あと、2じゃ。」

「そっか、じゃあ午後に行くから。」

「おう、それまでに雑草だけでも抜いとくからな。」

「病み上がりに無理すんなって、今日も俺が全部やるよ。」

「なーに、動かんかったら逆にガタがくるわい。」

「レイラに言いつけるぞ。」

「おお、それは怖い怖い。じゃあ、待っとるぞ。」

「おう、またあとで。」

智春たちの活躍でホングルが元の住処に戻り田畑での作業が再開できるようになり、村では自警隊の一部と村の動ける者たちで田畑の整備を始め、今日でおそらく全ての田畑の整備が終わる。

智春たちは村から救世主として温かく迎え入れられ、もう村になじんでいた。

「あ、トモハルさん、おはようございます。今から訓練ですね。一緒に行きましょう。」

「おう、カノンか。おはよう。半分持つぜ。」

「ありがとうございます。何気に重いんですよねこれ。えへへ。」

鍛冶屋の娘であるカノンは自警隊の前日に整備が必要になって預けられた武器などを毎朝届けているのである。

「それで、どうだったんだルークの反応は。昨日持って行ったんだろう、弁当。」

「えへへ、トモハルさんのおかげです。とても喜んでくれました。」

この一つ年下の少女から恋愛相談を受けた智春は『地球』のどこかの小説で読んだ「男は胃袋をつかめばいちころ」という信憑性の低いアドバイスをしたところ昨日ルークに手作りのお弁当を持って行ったのである。

「そうか、それはよかったな。頑張れよ。」

「はい、ありがとうございます。」

そんな話をしている間に訓練場に到着した。

「おっす、みんなおはよー」

「あ、おはようございます。トモハルさん。」

「今日も早いっすね。」

訓練場にたどり着いた智春をすぐに隊員たちが囲む。

自警隊は村の若者から有志を募って編成される隊なのでみんな気さくで人の好いものばかりである。

「ああ、カノンいつもありがとうな。」

「いいえ、ルークさんこれがお仕事ですから。」

「そうか・・・その、昨日は弁当ありがとなうまかったぞ。」

「そうですか。うふふ、実は今日の分も用意してきました。」

「おっ、隊長愛妻弁当ですか?」

すかさず、隊員の冷やかしが入る。

「お熱いでぶへっ、トモハルさん何するんですか?」

「お前馬に蹴られて死ぬぞ。」

冷やかす隊員にすかさずチョップをかまし、智春は小声でささやく。

「それは、勘弁ですね。」

「そうだろ、俺らだけで訓練はじめとこうぜ。」

「そうしましょうか。」

そうして、智春たちは訓練にはいるのだった。


一方、その頃セリアはレイラに付いて薬草探しに来ていた。

一緒の屋根の下で暮らすうちに二人は打ち解けて仲良しになっていた。

「レイラ、レイラ、あっちに解毒草があったわよ。」

「ほんとですか、じゃあ、すぐ行きましょう。」

楽しそうに二人で森の中を駆け回る。

「セリア、この薬草採ったら帰りましょう。」

一時経つとレイラは空を見上げながら提案する。

「ちょっと待って、この薬草は確か睡眠誘発作用があったはず。」

「セリア、トモハルさんをお腹すかせて待たせることになりますよ。」

「む、それはいけないわね。ごめんなさい、帰りましょう。」

「ええ。」

このようにセリアは智春の名前を出すとたいていの事は納得するのだ。


村に着くと村長の家の方が騒がしかったのでレイラたちは気になって足を向けた。

村長の家の前では何人かの大人たちがワイワイと何かの話をしていた。

「村長何の騒ぎですか?」

「レイラにセリアか。お主たちはトモハルから聞いておらんのか?」

ちなみに、セリアや智春に対する村人たちの口調は智春たちの要望もありフランクなものになっている。

セリアもレイラも心当たりがなく首を傾げた。

「トモハルから何を聞いたんですか?」

「さっき、トモハルが来ての、今日で田畑の復旧整備が終わるから明日の朝にはこの村を発つそうなんじゃ。」

「へ?明日の朝ですか?」

「ああ、そう言っておった。じゃから、今夜は送別会をと思うてな、皆で準備しておったんじゃ。」

「それは、ありがとうございます。」

「なに、気にするでない。礼を言いたいのはこっちの方じゃ。いろいろと世話になったからの。」

「村長、トモハルさんはどこに?」

「ん?お主の家に帰って行ったぞ。」

村長の返事を聞くや否やレイラは駆けて行った。

「ちょっと、レイラ?もう、村長失礼します。」

「おお、この晩は楽しみにしておれ。」

セリアも村長に一礼してレイラの後を追った。


「トモハルさん!」

家の扉を開けるなりレイラは大声を上げる。

「うおお、レイラか。どうした?」

智春はこっそり何か紙のような物を隠したがレイラはそれに気づかない。

「どうしたじゃありません。なんでこんなに急に出て行っちゃうんですか。どうして前もって教えてくれなかったんですか。」

「お、おお。村長から聞いたんだな。こっそり出ていきたいって言ったのに・・・」

「こっそりって、はあはあ、パートナーの私にも言わずに?」

いつの間にかセリアも扉の所に立っていた。

「いや、セリアには今晩言うつもりだったんだが。」

「どうして、内緒で出ていく必要があるんですか。村の人たちきっと寂しがりますよ。」

「いや、あんまりしみじみするのは好きじゃなくてな。」

智春はレイラから視線をそらす。

「それにもっとこの村に居てもいいじゃないですか。いえ、ずっと居てください。ね、セリアもいいでしょう。」

「わ、私はトモハルと一緒じゃなきゃあまり遠くへは行けないから。トモハルに合わせるわ。」

レイラの勢いに押され、セリアはあいまいな答えを返す。

「ね、トモハルさんいいじゃないですか。ここにいてください。」

「悪いなレイラ。俺たちは旅がしたいんだ。俺だってこの村は好きだが、それ以上にもっと多くの場所に行って多くの物と出会いたいんだ。だから、悪いが村に残るつもりはない。」

智春はレイラの目を真っ直ぐに見つめ、言い切った。

「そう、ですか・・・、無理を言ってごめんなさい。すみません、ちょっと用事が。」

「レ、レイラ。」

「セリア、大丈夫です。」

そう言うと、レイアは顔を伏せながら家を出て行った。

「・・・・レイラがあんなに取り乱すとは思ってなかったな。」

「そう?私は予想通りだったのだけれど。はあ、でもしょうがないのでしょうね。」

セリアはため息をついてしみじみとつぶやくのだった。


ルークは人影を見たような気がして村のはずれにある古木の木陰に歩みを進めた。

幼少の頃から何度も耳に覚えのあるすすり泣きの声にルークは声をかけた。

「そんなところで泣いてていいのか、レイラ。もう、あんまり時間もないんだぞ。」

「る、ルーク?い、いいのかも何も。わ、私にあの人たちをと、止めることはできません。」

しゃくりあげながら返すレイラの頭をルークは優しく撫でる。

「止めなくてもいいんじゃないか。俺はそれ以外にも方法があると思うし、レイラがそれを望むなら俺は全力でそれをサポートするぞ。」

「へ?ほ、他に何がで、できるっていうんです。」

「そうだな、例えばトモハルたちに付いていくとかかな。」

「で、でもそれでは村の薬師はどうなるんですか。」

「リリャーナとサリーニャがいるじゃないか。身内びいきかもしれんが、二人はもう立派に薬師ができてると思うし、サリーニャは治癒魔法も使える。安心していっていいと思うぞ。」

「で、でも、トモハルさんたちが頷いてくれるか・・・・」

「安心しろ、大丈夫だ。それは俺が保証する。」

「え、ええ?でも、でも」

レイラは駄々っ子のように繰り返す。

「レイラ、善は急げだ。今から村長ところに行こう。」

「それには及ばんよ。」

「そ、村長?」

急に現れた村長にレイラは驚いて声を上げる。

ルークの顔も驚きに染まる。

「レイラ、わしはお主の旅立ちに反意は上げん。じゃが、お主が本当に行きたいならばの。どうじゃ、お主はトモハルたちと共に行きたいのか?」

村長の問いかけにレイラは一瞬のためらいもなく頷いた。

「そうか、ならいつまでもこうしておらんでさっさと準備をせんか。旅はそう甘くは無いぞ。」

「はい、村長、ルークありがとうございました。」

そう言うとレイラは勢いよく走って行った。

「お主はこれでよかったのか?ルーク。」

「ええ、俺には止める権利もありませんし、あんな顔したあいつをみたら止められませんよ。」

「お主も難儀なやつよのう。」

そう言う二人の背中はどこかさみしそうだった。


レイラが家に帰ると二人はいなかった。

どこかでお昼を食べているのだろう。

智春たちのおかげで再び村へ来れるようになった旅の行商人にホングルの角や爪を売ってできたお金は全部智春たちに渡されたのだが、智春たちはその半分以上を村の復興費に費やしていた。

しかし、それでも小銀貨5枚くらいは残っているので、それで旅の食料や道具を買い揃えていた。

レイラは衣服や食料簡単な調理器具や食器などの必要そうな物を家にあった大きめのリュックに詰め込む。

準備が終わると、レイラは村でお世話になった人たちに別れを告げに家を出た。


少し時間をさかのぼり

レイラが出て行ったあと、智春たちは昼ご飯を食べるために家を出た。

村の中心に着くなり智春たちは村人に囲まれた。

「トモ坊、明日行っちまうって本当か?」

「セリアちゃんもいつまでもここにいたっていいのよ。」

「そうよ、二人ともここで暮らせばいいじゃない。」

村人のお爺さんやおばさんたちは口々に智春たちを止めようとする。

困った智春は頬をかきながらセリアと苦笑する。

「その気持ちはありがたいし、魅力的な提案なんだけど、俺たちは旅をしたいんだ。だから、ごめんな。」

智春は頭を下げた。

「おいおい、トモ坊頭を下げるのはわしらのほうじゃ。その代り、今晩は盛大に送り出させてもらうからの。」

「っつ、全く、村長だろ。せっかく湿っぽいことしなくていいようにこっそり出て行こうと思ったのに。」

智春は苦笑しながらつぶやいた。

「なんの、こっそり出ていけるわけないじゃない。トモハル君たちは私たちの命の恩人なんだから。」

「はあ、まあ今晩は堪忍するとして、昼飯食ってから次は畑作業するか。」

智春はため息をつき、村の酒場に足を進めた。

「いらっしゃ、あら、トモハル君にセリアちゃんじゃないどうしたの。村を出るって言ったらレイラちゃんにでていかれちゃった?」

酒場の女将さんがなぜか楽しそうに話しかけてくる。

女将さんは息子は自警隊で警備と訓練で日中はおらず、旦那は狩人で少し前に他界しており今は女手一つでこの酒場を切り盛りしている。

そんな女将さんの意向で昼は定食屋夜は酒場となっていていつもたくさんの人でにぎわっているのだが、今日はまあ大体予想はつくが人がせわしなく出入りしている。

「やっぱり、女将さんも聞いてるんだな。」

「そりゃあ、村のまつりで食べるものは家で作るんだしな。」

「そりゃそうだが。でも、止めないんだな。」

「止めたって、聞きゃあしないでしょ。まあ、村のみんな同様あんたたちに居てほしくはあるけど。旅人は止めても無駄だしね。」

「まあな、で、女将さんの予想通りレイラに飛び出して行かれたんで昼飯頼む。」

「ええ、でも夜にいっぱい食べてもらいたいから軽くにしとくわね。セリアちゃんもそれでいい?」

「ええ、私はかまいません。」

女将さんは茶目っ気たっぷりにウインクをして厨房に入って行った。



夜の祭りは盛大だった。

村人は病気だった人もみんな出て来て、一人ずつ智春たちに感謝と別れを告げてきた。

みんな涙ぐんだり、元気に激励してくれたりいろいろな様子だったが、誰ももう智春たちを止めようとはしなかった。

村人のほとんどと話し終わったときに村長がやって来た。

「トモハルにセリア、お主らのおかげで本当に助かった。ありがとう。」

「気にするな、俺らも遭難したところを助けてもらった身だし。」

「それでもじゃ・・・まあ、よい。それよりも次の行き先は決めておるのか?」

「いや、特に考えて無かったんだが・・・まあ、近くの大きな街に行こうと思ってる。」

「そうかそれなら、ここから南西に二日ほど行ったところにある『クルーペ』の街に行くとよいじゃろう。あの街には冒険者ギルドがある。」

「おお、ありがとう。じゃあ目的地はそこに決まりだな。」

「まあ、道もあるしお主たちの腕なら心配はいらんだろうが、気を付けるのじゃぞ。」

「ああ、ありがとな。」

そう言うと、村長は去って行った。

「トモハル話がある。少しいいか?」

「おお、かまわなぞ。」

村長と入れ替わりにやって来たのはルークだった。

ルークは智春を連れて、少し祭りの喧騒から離れたところで振り返った。

「ホングルたちの事といい、自警隊の訓練のことといい、本当に世話になった、ありがとう。」

「いいさ、俺も楽しかったし。また、旅で近くに来た時にでも訓練の成果を見に来るからな。」

「ああ、望むところだ。っと、それともう一つ、あの時の約束覚えてるか?」

「ん?・・・・ああ、レイラの頼みを前向きに検討するってやつか?」

「ああ、そのことだ。頼んだぞ。」

そう言うと、ルークは踵を返した。

「ちょっ、ルークどういうこと?」

「あの、トモハルさん。」

ルークに向かって話しかける智春の背中に昼から見かけなっかたレイラの声が掛かった。

「れ、レイラ。聞いてたのか?」

「はい、ルークがあんな頼み事をしていたなんて予想外でしたが・・・。あの、あんな話の後に言いにくいのですが、お願いを聞いてもらえないでしょうか?」

「いいが、この村に残れっていうのは受付ないからな。」

レイラの真剣な顔に智春は身構える。

「いえ、それはもう言いません。でも、逆に私を旅に連れて行ってもらえませんか?」

「へ?レイラを旅に?」

予想外の頼みに智春は間の抜けた声を上げる。

「はい、私は治癒魔法も使えますし少しだったら武術の心得もあります。なんなら料理係でもいいので連れて行ってください。」

「え、いや、それは俺の一存では決められないよ。そもそも、村の薬師はどうするんだ。」

「それはリリャーナとサリーニャがいます。二人はもうすでに一人前の薬師ですし、サリーニャは治癒魔法も使えますから大丈夫です。」

「いや、それでも村長の許可とかあとルークに言わなくていいのか?」

「村長はいいって、言ってくださいました。ルークが私の背中を押してくれたんです。」

レイラの勢いに押され、智春はもうレイラをとどめる言葉が思いつかなかった。

「ああ、もお・・・はあ、あとで泣き言を言っても知らないからな。」

「ふふ、ありがとうございます。望むところです。では、お祭りに戻りましょう。主役がこんなところで油を売ってちゃいけませんよ。」

「それをレイラが言うのか。」

「ふふ、ごめんなさい。」

楽しそうに笑うレイラの後を智春はため息交じりに追いかけるのだった。

祭りが終わってレイラの旅参加を告げた時、セリアが不機嫌そうに指をに戻ってしまったことは割愛しておこう。


翌朝、見送りに来たのは村長とルーク、それにリリャーナとサリーニャだけだった。

どうも、村長たちで話して少人数にすることに決めたらしい。

「本当に色々助かった。ありがとう。」

「おう、また近くに来た時にでも寄ってくからな。」

「ああ、息災でな。」

「爺さんもな。」

智春は村長と握手を交わす。

「俺からももう一度礼を言わせてくれ。ありがとう。」

「おう、またな。」

手を出してきたルークの手を握り返す。

すると、ルークは智春を引き寄せて小さな声で話した。

「レイラの事を頼んだぞ。」

「ああ、でもよかったのか?」

「ああ、いいんだ、あいつの心の中にいるのは俺じゃない。」

ルークはそれだけ言うと離れて行った。

そんな智春たちのそばでは、感動的な別れが行われていた。

「リリャーナ、サリーニャ、これからは村の事を頼みましたよ。」

「うん、任せてレイラ姉。」

「はい、任せてなのですレイラ姉さん。」

三人は抱擁しあう。

離れた二人は、セリアとレイラに何かを渡した。

「レイラ姉にセリア姉、これお守り。」

「二人で作ったのです。」

二人が取り出したのは植物で編んだ輪っかだった。

「え、私にも?」

セリアは予想もしないことに戸惑う。

「はい、セリアお姉さんにもいっぱいお世話になったのです。当然です。」

「えっと、あの、ありがとう。」

「二人とも、ありがとうございます。」

セリアとレイラはそろって頭を下げる。

「ふふふん、これはね、兄貴に付き添ってもらってとって来た『フェアリーリーフ』で作ったんだ。」

「髪飾りにも、ブレスレットにも使えるのです。それにリーナちゃんの形状保存の魔法が掛かっているので滅多な事では壊れないのです。」

二人は胸を張って説明をする。

ちなみに『フェアリーリーフ』とは幸運を運ぶといわれる希少な植物である。

「本当にありがとう、大切にするわね。」

セリアは嬉しそうにそれを左手にはめた。

「リリャーナ、サリーニャ、ありがとう。これは私の宝物です。」

レイラはその輪っかで綺麗な栗色の髪をポニーテールにまとめた。

「じゃあ、そろそろ行くか。」

智春の言葉に二人は荷物をからった。

「じゃあな、また来るからな。」

「ああ、いつでも歓迎じゃ。」

「トモハル兄、レイラ姉やセリア姉を泣かせちゃダメだからね。」

「おう、任せろ。」

「リリャーナ、サリーニャ、ルーク、村長も身体に気を付けて。」

「ああ、トモハルに愛想尽きたらいつでも帰ってきていいぞ。」

「ひでーな。」

「ふふふふ、尽きないので大丈夫です。」

「みなさん、お世話になりました。お元気で。」

「セリア姉さんもお気を付けてです。」

口々に別れの言葉を告げながら三人はバーシュ村を後にした。

四人は三人の影が見えなくなるまで見送り続けるのだった。








このお話を読んでいただきありがとうございます。

ここで、このつたないお話にブックマークしてくださっている12人の方にお礼申しあげます。

次回からの「第二章:クルーペ編」では智春大暴れ(の予定)です。

どうぞ、まだまだ始まったばかりの彼らの異世界大冒険をお楽しみ下さい。

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