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第二章:クルーぺ編  9話:森での夜に

9話:森での夜に


バーシュ村を出た智春たちは、村長に教えてもらった通りに南西に続く道を進んだ。

現在、道の途中の森の手前で野営の準備を始めていた。

レイラの話ではクルーペの街はこの森を抜けてすぐのところにあるそうだ。

智春たちはバーシュ村の村長にもらったテントを立てる。

「じゃあ、薪になる枝でも拾ってくるから、その間に火焚くとこ作っといて。」

「分かりました。」

智春はレイラたちに一声かけてから森の中に足を踏み入れた。

森の中を適当に枝を広いながら歩く智春は少し違和感を感じた。

『あれ、このあたりやけに草が踏み固められてるな・・・人がくるのか?』

そんなことを考えながら智春は歩いていると小さな泉に行きあたった。

「おお、これなら今日は水浴びできそうだな。」

智春は嬉しそうにセリアたちの待つテントのところまで駆け戻った。

その時にはさっきの疑問は智春の頭からすっぽりぬけ落ちていた。

「セリア、レイア、近くに綺麗な泉があったぞ。」

「え?本当?ちょっと見に行く。」

「なら、私は見張りしてますね。」

「ああ、すまん。」

嬉しそうに立ち上がるセリアにレイラは苦笑して、智春から薪に使えそうな枝を受け取った。

泉の場所に着くとセリアは、水に触れながら嬉しそうに声を上げる。

「これなら飲み水にも水浴びにも使えそうね。」

「そうだろ。」

セリアは大のお風呂好きで、不思議なことにお風呂文化のあるこの世界で毎日長風呂をしていた。

セリアは今日つかう水として泉の水を一メル四方の立方体に凍らせ、智春が運んだ。

野営地ではバーシュ村で買ったマッチのおかげで、縄文時代の真似事をすることなく焚火を焚いたレイラが夕食の準備をしながら待っていた。

智春は文明の利器に心の中で感謝しながら今とって来た氷を汚れないように布の上に置き、夕食が完成するのを待っていたのだった。


夕食の片づけが終わるとセリアとレイラは水浴びの準備を始めた。

「トモハル、分かってると思うけど覗いたら氷漬けにするから。」

「あ、ああ、分かってる。」

セリアの纏う冷気に智春は冷や汗を流す。

「わ、私はトモハルさんが覗きたいなら、い、いいですよ。」

「レイラ、あんた何言ってんのよ。っちょ、待ちなさい。あんた泉の場所知らないでしょ。」

顔を真っ赤にしながら爆弾発言をしたレイラは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして逃げるようにして森の中に入る。

セリアは慌ててそのあとを追った。

智春は一人ため息を漏らした。


レイラに追いついたセリアは何とか泉に到着していた。

「はあ、レイラ、あんたなんてこと言ってんのよ。」

セリアはため息とともにレイラをにらみつける。

「わ、私はセリアに負けないようにトモハルさんにアピールをしてるんです。」

「だからって、あれは無いでしょ。」

「いえ、これくらいストーレートじゃないと絶対にトモハルさんは気づきません。」

「む、確かにあのバカはそうね。」

「セリアさんはトモハルさんに裸を見られるの嫌なんですか。」

「べ、別に嫌じゃないわよ。」

「では、どうして文句を言ってきたんですか。」

「それは、その、は、恥ずかしいからよって、何言わせるのよ。」

「きゃあ!」

バッシャン

はっと、我に返ったセリアがレイラを泉に突き落とす。

幸い服は脱ぎ終わっていたため大丈夫だったが、春のような気候であってもさんさんと湧き出す泉の水は冷たい。

ちなみに、この世界には四季が存在する。

つめたい水の中に急に突き落とされたレイラはかわいらしい悲鳴を上げた。

泉の深さはセリアの腰ぐらいまでしかないが、突き落とされたレイラは全身が沈んなかなか上がってこない。

「へ?レイラ?うそ、ちょっと。きゃあ」

慌てたセリアがレイラの救出に向かうと何かに足を引っ張られて転倒した。

「ふっふっふ、引っかかりましたね。」

黒い笑みをうかべたレイラが泉から顔を出す。

「げほげほ、よ、よくもやってくれたわね。」

「ふっ、お返しです。」

「なんの、くらえ。」

「きゃあ、お返しです。」

「ぶは、やったわね。」

二人は水の掛け合いを始める。

しかし、氷の精霊であるセリアに冷たさは関係ないためレイラはセリアの顔を狙い、セリアは女の子らしくない悲鳴を上げるのだった。


二人が仲好く水の掛け合いをやっている頃、智春は一人戦っていた。

何とかって?

そりゃもちろん、男のさがとだよ。

健全な男子高校生だった智春は覗きに来たい欲望とそれはいけないことだと諭す理性の中で今悶々と揺れていた。

『レイラもああ言ってたし、大丈夫だ。でも待て、もしセリアに見つかりでもしたら・・・』

智春は頭の中に浮かび上がった自分が氷漬けにされて二人に打ち捨てられて行くビジョンを振り払うと、日課である筋トレを始めた。

無心で筋トレをすること数十分、智春は誰かに呼ばれた感覚と嫌な予感を覚えた。

なんだか治まらない胸騒ぎに智春は刀をつかんで泉に向かって走り出した。


さかのぼること数分前、セリアとレイラはどちらからともなく力つき、二人で泉につかり空を見ていた。

月の綺麗な夜だったのであたりは明るく、星も綺麗だった。


パキ


静かな空間に何かが枝を踏み折る音がした。

「まったく、あのバカ本当に覗きに来たんじゃないでしょうね。」

セリアがつぶやきながら視線を向けた先には、いかにも盗賊風の衣装に身を包んだ男が二人立っていた。

「おおこりゃあ、神様からの贈り物か?」

「二人とも上玉ですぜ。こりゃあ高く売れる。」

「ああ、でも売る前に俺たちで楽しもうぜ。げへへへ。」

二人はセリアたちを舐めまわすように見つめ、下卑た笑いを浮かべる。

「ふん、勝手な事言わないで、誰があんたたちなんかに捕まるもんですか。」

セリアは男たちをさげすんだ目で睨む。

「がははは、活きがいいもんだ。なんだ、俺たちから逃げれるとでも思ってんのか。」

「ふん、うるさいわね。汚いからその汚れた息をさっさと止めてちょうだい、っつ、く。」

セリアは氷の魔法を使おうと気力を練り始めて気づいた。

二人は全裸の状態で水にほぼ全身沈めている。

こんな状態で氷の魔法を使いでもしたら、セリアは無事でもレイラが凍えてしまう可能性が出る。

運のないことに精霊魔法はその性質から周りの物体にまで影響を及ぼす。

セリアのような上位に精霊が魔法を使えば普通なら一気に周りの温度は体感で5度くらい下がるが、今セリアたちがいるのは水の中である。

氷と同系統である水の中にいる場合、周囲に及ぼす影響は計り知れない。

水が凍ることは無くても一緒にいるレイアが凍えてしま可能性があるためセリアは下手魔法を使うことができなかった。

「おいおい、嬢ちゃん。どうしたんだ。じっとうずくまってしゃべってるだけじゃ俺たちから逃げられないぜ。ぐへへへ。」

「ちょっと、レイア、あんた水魔法も使えるんでしょう。何とかできないの。」

「無理です。魔法を攻撃になんて使ったことないんです。」

完全に手詰まりである。

「ふっふっふ、急に黙り込んで、怖くでもなったか。おい、お前ら捕まえるぞ。」

「へい、兄貴。」

しゃべらなくなったセリアたちに二人の男が近づいてくる。

「いや、来ないでください。」

「レイラ、逃げるわよ。」

二人は必死に反対岸を目指すが、すぐにセリアの腕が掴まれてしまった。

「いや、離してよ。やだ、トモハル!助けて。」

「ひひひ、無駄だ。諦めな嬢ちゃん。」

セリアたちの抵抗むなしく、二人は陸に転がされた。

「けっ、良い体してんじゃねえか。」

盗賊Aは無遠慮に二人の体を眺めまわすと、おもむろにセリアの胸をつかんだ。

「ちょっと、何してんのよ。やめて。離して。トモハル!」

セリアは涙を浮かべて大声を上げ、逃れようとする男はセリアの腕を離さない。

「トモハルさん!気付いてください。」

レイラも力いっぱい声を上げる。

「うるせ、静かにしろ。」

「きゃあ」

盗賊Bがレイラを投げ倒した。

「兄貴、こいつヤッちまってっもいいですかい?」

「ああ、お前に任せる。ただ、顔を傷付けるなよ商品にならなくなる。」

「へい。へっへっへ。お嬢ちゃん、楽しいことしようぜ。」

そう言って、盗賊Bは自分のズボンに手をかける。

「嫌だ。やめて!トモハルさん。」

「ちょっと、やめなさいよ。」

「うるせえ、お前の相手は俺だ。」

そう言って、盗賊Aがセリアの胸から手を放して押し倒そうと肩に手をかけた。

そして、力を込めたがセリアは押し倒すことができず、それどころか手は飛んで行ってしまった。

「へ?ぎゃあああああ、俺の俺の手が。」

宙を舞う手はそのまま弧を描いて地面に落ちた。

「あ、兄貴。」

ズボンを下ろして、まさにいたそうとしていた盗賊Bは急の事に驚き、目を離した。

「ぐぎゃああああああ。」

盗賊Bが目を離したすきにレイラはその股を蹴り上げた。

「安元流剣術弐陣一目、秘剣『燕返し』」

暗がりからそんな声と共に智春が飛び出してきた。

「「トモハル。」さん。」

二人は安堵し、セリアはその場に崩れた。

「ああ、セリア、レイラ、遅れて悪い。」

「遅いわよ。」

「怖かったんですからね。」

痛みに悶える盗賊二人は突然現れた智春に怒りをぶつけ、剣を抜いて襲い掛かって来た。

「すぐ終わるから。」

そう言うと、智春は盗賊Aの剣を避けながらすれ違いざまに胴を斬る。

「あ、が」

盗賊Aの上半身が地面に落ちるよりも早く、刀を振りぬき盗賊Bの剣を半ばから斬り飛ばした。

「な、は、え。」

盗賊Bの驚きが治まるよりも早く、智春は返す刀でその首を刎ねた。

刀の血飛ばしをしてから鞘に戻し、それを腰にさすと智春は二人に肩を貸し、着替えの置いてある茂みに向かった。

二人が着替え終わるのを待ってから(もちろん後ろを向いて。)智春たちは野営地に戻る。

「トモハルさん、来るのがあんなに遅かったってことは。」

「ああ、筋トレしてたら嫌な予感がしたんでとりあえず向かった。」

「はあ、全くこの男は・・・」

智春の必死の戦い(欲望との)も知らず二人はなんだか残念なものを見るような目で智春を見た。

「それでさっきは何したの?あいつの左手斬り飛ばしたのトモハルよね?」

「ああ、あれは俺の流派の剣技で名前は秘剣『燕返し』、まあ、剣をめちゃくちゃ早く振りぬいて斬撃を飛ばす遠距離技だ。」

「へ?いや、おかしいでしょ。」

「いやー、これができちゃうんだな。」

「はあ、もう私疲れたから寝るわ。おやすみなさい。」

そう言うと、セリアは一人テントの中に入って行った。

さっきから黙っているレイラと智春の間に沈黙がはしる。

「えっと、あの、わ、私ももう寝ます。おやすみなさい。」

「レイラ。」

慌ててテントに入ろうとするレイラを智春は抱きしめた。

「へ?トモハルさん、な、何を?」

「我慢しなくていい。」

そう言って、智春は抱きしめたレイラを撫でた。

「えっと、あの、そ、そんな事言われたら、ぐすん。」

レイラは小さな嗚咽を漏らし始めた。

「と、トモハルさん、こ、怖かった、怖かったよー。」

智春は何も言わず、レイラの頭を撫で続けた。

数分後、レイラは智春の腕の中で寝息を立て始めた。

智春はテントの中にレイラを寝かせ、セリアに話しかけた。

「レイラはもう寝たから我慢しなくていいんだぞ。」

「私は別にいいわよ。それより、起きるから少しあっち向いてて。」

智春は言われたとおりに外を向いて立った。

「なっ、」

それをセリアは後ろから抱きしめる。

「うるさい、少しこのままで。」

智春は後ろから聞こえるすすり泣きを聞こえないふりをしながらセリアの気が済むのを待つのだった。

少ししてセリアが智春の背中から離れた。

「ごめんなさい、少し無理をしちゃったわ。」

「ああ、ありがとな、レイラの気を使ったんだろ。」

「まあ、もう一人が泣いてないところじゃ泣きづらいでしょ。」

「そうだな、っと、セリア疲れてるところ悪いが一つ頼みごとを聞いてくれないか?」

「いいわよ、さっきの奴らのアジトにでも乗り込むの?」

「ああ、そういうこと。でも、セリアはお留守番ね。ここに氷の壁かなんか作って寝てて。」

「はあ、一人で行くつもり?」

「うん、仲間を辱められて我慢できなかった馬鹿がいただけだから気にしないでいいよ。」

「ついて行っても足手まといになりそうね。分かったわ。ここは私が守ってるから。思う存分暴れてらっしゃい。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

そう言うと智春は闇の中に飛び込んでいった。

「もう、女の子たちをほっぽり出して。」

セリアはため息をつき、テントのそばに座った。

その周りいくつもの氷壁が立ち並び、野営地は数秒で堅牢な要塞に早変わりしたのだった。


闇の中を走る智春はかすかに残る人の踏み固めた跡をたどりながら疾走する。

少し行くと踏み固まった草が多くなったので智春は忍者張りに木に駆けあがり、木から木へと移動する。

木の上から見回す智春は小さな小屋を発見した。

小屋は粗末なつくりをしており、窓からは明かりがあ漏れている。

「ったく、見回りの奴はまっだ帰ってこんのか。」

「はい、まだです。ボス、もうあいつらはほっておいてさっさと明日の作戦決めちゃいましょ。」

「しゃあねえ、そうするか。」

どうやらビンゴのようだ。

智春は窓の下から中の人間の正体をつかむと扉を蹴り開けた。

「っつ、なんだ?あ?ガキがこんなところで何してやがる。」

ボスらしい男が智春にガンをとばす。

「たく、ここがどこだか分かってんかこのガキが。」

「はい、一応、間抜けな盗賊団の愉快なアジトってやつですよね。」

智春は内心の怒りが爆発しないようにわざと飄々と答えた。

「んだと、このガキが。」

頭に来たのか一番近くにいた盗賊が剣を抜いて襲い掛かってくる。

智春は相手の剣を交差させた腕で挟み、手で相手の手首をつかんだ。

「ん、な、なにしやがる。くそ。」

ドガッ

手を摑まえた相手が下がるのに合わせて重心をずらし、跪いたところを顎を蹴って意識を刈り取る。

「んな、」

中にいた盗賊の残りの四人(ボスを合わせて)は智春の流れるような攻撃に身構える。

「てめーら、全員で掛かれ。」

ボスの指令で残りの三人が一斉に剣を抜きかかってきた。

智春は一人目の剣を反時計周りに回転してかわし、巻き込むように顔面を持って二人目に投げつける。

「ぐはぁ」

「くそ、どけ。」

二人がもつれ合い立ち上がれない中、三人目の剣を白羽どりから剣の腹に肘を置く形の持ち込み、破壊。

「へ?ぐふ。」

得物を失い驚く三人目の顎に手を滑らせ。

脳を揺らす。

うまく脳震盪を起こしたようで三人目は気絶した。

何とか起き上がった一人目の頭を横殴りし、まだ、四つん這いだった二人目の首を上から踏みつけ、動脈を止める。

よっことびに飛んで行った一人目は行動不能、二人目も間もなく酸欠で意識を手放した。

「さあ、あんただけになったぞ、ボス。」

「くそ、役立たずどもめ。っく、死ねガキが!」

大降りに振り上げた剣の知りに拳をぶち込む。

すると、剣はボスの手を抜け、天井に刺さった。

「この、くそが。」

ボスは得物を失い、これまた大ぶりで智春に拳を打ち出す。

智春はうまくタイミングを合わせ、一本背負いの要領で地面にたたきつけた。

「がはぁ。」

「あれー、刀使わなかった。」

その智春のつぶやきは静かな小屋によく響いた。


壁の外によく知った気配を感じセリアは氷壁を消した。

そこには見ると安心する笑顔と不安しか呼び起さない芋虫人間が五匹ほど木にぶら下がっていた。

「えっと、これは?」

「ん、ああ、盗賊。街に付いたら突き出そうと思って。」

「はあ、いいわもう好きにして。」

「うん、ありがとう。じゃあ、見張り変わるからセリア寝てていいよ。」

「うん、分かったわ。」

セリアは自分が本当に今日寝られるのか心配しながらテントに入ったが、それは杞憂だった。

てか、めっちゃ熟睡できていた。

まあ、朝起きたレイラがそばの木にぶら下がっている芋虫人間を見て悲鳴を上げて気絶したのは別の話である。











始まりました第二章、智春君たちの冒険者としての生活のはじまりです。

今後の展開にご期待ください。

次回からの投稿は私の勝手な都合により一週間に1話投稿くらいのペースになると思います。

ご了承ください。

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