魔女の組合
「魔女の組合?」
そんなものが魔女の世界にもあるのか。
もちろん今日行くことも含めて初耳だ。
組合と言うからには何人もの魔女が集まって何かをしているのだろう。
何でそんな所に僕が行かないといけないんだろう?
新人魔女としてあいさつ、とか?
「魔女魔法『ワープ』!」
「ちょっと! 話を――」
僕の疑問なんてお構いなしに魔法を使って家に帰る。
この一瞬で移動するのにも最近慣れてきた。
「話は朝ご飯を食べてからにするわよ」
「……はい」
これが遠回しに早くご飯を作れと言っているのが僕にはわかる。
前にこう言われてもご飯を作らなかったら、機嫌が悪くなったのはまだ覚えている。
ヴェイルさんは機嫌が悪くなると、ちょっと面倒くさくなるから出来れば避けたい。
だから素直にご飯を作ることにしたのでした。
「ごちそうさま。今日もおいしかったわ」
「それはどうもです」
いつものように食事の後のやり取りをし、まだご飯を食べているアドアを待たず、ヴェイルさんに食後のお茶を入れる。
ここまでが僕の仕事だ。
「さて、そろそろ今日のことについて話そうかしら?」
満足そうにお茶を飲みながら僕を見る。
どうやら僕は今日もいい仕事が出来ていたみたいだ。
「今日のことって何ですか?」
やっぱりアドアも何も言われていなかったようで、僕に聞いてきた。
聞かれた所で答えられることは少ないんだけど。
「今日、魔女の組合に行くらしいよ」
うん、本当に少ない。
「そ、そうなんですか」
説明の少なさにアドアも特に何も言えないみたいだ。
僕もまだこれだけしか聞いていないから、これ以上は何も言えない。
「魔女の組合っていうのは、その言葉通り魔女が集まって話をする場所よ。あまり集められることは無いんだけど、今回は珍しくこの辺りにいる魔女全員が呼ばれているのよね」
ヴェイルさんが追加で説明してくれたけど、それでもわかることは少ない。
この感じだと何で集められるのかは知らないみたいだ。
「それって僕も行かないといけないんですか?」
「魔女は全員来いって言われたのよ。ロアちゃんもなりたてとは言え、一応魔女なんだから連れて行かない訳にはいかないわ。あ、別にアドアちゃんも来ていいわよ。置いて行かれるのは嫌でしょ?」
「はい! 私も行きたいです!」
アドアは元気に声を上げる。
よっぽど1人だけ置いて行かれるのが嫌だと見える。
魔女の組合に魔女じゃない人が行っても暇なだけだと思うけどなー。
「じゃあ、もう指定された時間が来るからすぐ出発するわよ」
「そういうことは早く言ってください!」
「魔女魔法『ワープ』!」
あの後、僕達は急いで魔女の正装である黒い服に着替え、急いで準備をして、こうして『ワープ』を使って組合までやって来た。
昨日の内に言っておいてくれれば、もっとゆっくり準備出来たのに……
「さぁ、入るわよ」
ワープした先にあったのは小さめの普通な建物。
目立って変わっている所はない。
建っている場所は人が来そうに無い山奥みたいだ。
辺りに建物以外の物は木しかない。
「呼ばれたから来てあげたわ。今回は何のようかしら?」
僕達はヴェイルさんを先頭に建物に入る。
建物には部屋が1つしかないらしく、入ったらすぐに大きい部屋があって、他の部屋に行くためのドアは見当たらない。
「それより先に何だぁ、その後ろのガキ2人は?」
入ったドアの向かい側に座っている一番偉そうな人が聞いてくる。
僕とアドアのことを知らない人からしたら当然の反応だ。
「あたしの弟子よ。1人はみんなも知ってるはずだけど?」
「俺達が知ってる……? あっ! そのボウズはロア・ノーブルか?」
「そうよ。もう1人はアドア・ファズィ。こっちは知らないはずだわ」
僕のことをここにいる人達はみんな知っているらしい。
まぁ、一応、国の王子だし、悪い意味でも有名だから知ってても驚かないね。
「そうか、あのロア・ノーブルか……」
男はアドアについては特に何も言わず、僕の方をジッと見つめる。
その目は何かを疑っている様子だった。
「ちなみにロアちゃんの方は魔女魔法を習得してるわ。ここに来るには十分な理由でしょ?」
「魔女魔法を!? そうか、それならいい」
男は僕の方に近づいて来て、手を差し出す。
その顔はさっきまでとは変わって、和やかな雰囲気だ。
「俺はムト・コノハ。ムトって呼んでくれ。よろしくな!」
「こちらこそよろしくお願いします」
僕のことを知っていながらこの態度。
やっぱり本物の魔女だからかな?
それにしても男の魔女って……僕が言えることじゃないけど、ちょっとおかしい気がする。
「じゃあ、全員揃ったことだし、話を始めるぜ」
「ちょっと待って、リア様がまだじゃない?」
「それも含めて今から話しする」
リアと言うのが誰なのかは知らないけど、ヴェイルさんが様を付けて呼んでいるということは偉い人なんだろう。
そんな人を待たずに話し合いを始めるのには何か理由があるみたいだ。
ムトさんは真剣な顔になってこの場にいる全員の顔を見渡す。
話す内容を知っている人はいないようで、不思議そうにムトさんの方を見ている。
数秒の間、静かになった部屋にムトさんの声が響く。
「みんな、俺はグリーム王国と戦争を始めようと思う」




