幻覚
「魔女魔法『リザレクション』! はい、もういいわよ」
「ありがとうございます。2人共、私に変身して遊んでないで、ちゃんと修行してくださいね」
少し怒った感じでアドアは言うけど、僕達はちゃんと修行をしていた。
ちゃんと修行をしていた結果、2人共アドアの姿なのだ。
まぁ、1人でがんばっていたアドアからすれば自分の姿になって遊んでいる様に見えたんだろう。
だから僕もヴェイルさんも何も言わないでおく。
「また遊んでるって言われるのも嫌ですし、元に戻っておきましょうか」
「そうね。別に遊んでた訳ではないのだけど」
ヴェイルさんも僕と同じ気持ちのようだ。
さて、魔法を解除しよう……ってどうやってやるのか知らないじゃん。
「解除は指を鳴らせば出来るわ」
心を読んだようなタイミングでヴェイルさんが教えてくれる。
たまにこういうことがあるけど、ヴェイルさんは心が読めるのかな?
魔女魔法だとそんな魔法もありそう。
「わかりました。指を鳴らせばいいんですね?」
何だかカッコいい解除方法だなー。
小さい子供から僕くらいの歳の子に受けそう。
まぁ、魔女魔法を使う子供なんてそうそういないだろうけど。
パチッ。
ヴェイルさんが指を鳴らすのを見て、僕も指を鳴らす。
それと同時にまた光が体を包む。
変身する時もそれを解除する時も光に包まれるのは何でだろう?
変わっていく様子を見てみたかったんだけどなぁ。
「さて、次は『ファントム』の説明をするわ」
光が消え、いつものヴェイルさんに戻る。
僕ももう光ってないから元の姿に戻っているのだろう。
「『ファントム』は相手に幻覚を見せる魔法。あくまで幻覚だから『ディスガイズ』と違って記録系の魔法だと見破られてしまうわ」
『ファントム』は『ディスガイズ』と違って実戦で使えそうな魔法だ。
どの程度の幻覚をどのくらいの間、見せられるのかはまだわからないけど、もし戦いながらでも使えるなら相当強いと思う。
「この魔法で見せられる幻覚は使う人の想像力に係っているわ。まず自分の頭の中で見せたい幻覚を完全に再現しないといけないの。これは『ディスガイズ』と同じね。違うのは情報量。1人の姿を想像するのと、周りの風景まで想像するのだと、想像しないといけない量が違うわ」
もちろんそうだろう。
さっきアドアの姿しか想像出来なかったのは、それ以外の人は細かい所まで思い出せなかったから。
カエデの顔は思い出せても、服の細かい部分や正確な体つきは思い出せない。
想像したいものが近くにあるのとないのではかなり違う。
1人を想像するだけでも結構大変なのに、これに風景や他の人まで想像しようと思ったら時間も集中力もいる。
「どんな幻覚を見せるかにもよるけど、発動までに隙が多すぎて戦闘中にはあまり使われない魔法よ」
やっぱりそうか……
準備に時間が掛かりそうだし、戦いながら相手に幻覚を見せるのは無理そうだ。
使い道としては相手がこっちに気づいていない時に遠くから魔法を掛けるくらいかな?
う~ん、他には思いつかない。
「あたしは戦闘中以外でもほとんど使わないわね。想像が甘いとすぐに幻覚だって気づかれるもの」
もう十数年、魔女魔法を使っているヴェイルさんでも使わない魔法。
そんなのを僕が使えるとは思えない。
「一回見せてあげるわ。ちょっと待ってて」
そう言ってヴェイルさんは目を閉じる。
僕に見せる幻覚を想像しているんだろう。
一分くらい経ってようやく目を開けたヴェイルさんは魔法を唱える。
「魔女魔法『ファントム』!」
一瞬だけ僕の視界が真っ暗になる。
ほんの一瞬、長めに瞬きをしたくらいの短い時間、その間に僕の目の前にはさっきまでとは全く違う景色が広がっていた。
そこはジトンの魔境でクマに襲われた洞窟。
僕とヴェイルさんが初めて出会った場所だ。
「懐かしいでしょ?」
「……はい」
思っていた以上の再現度だ。
僕にとってここはいい思い出がない場所だけど、どんな場所だったかはよく覚えている。
よく見ると全体的に本物よりきれいだったり物が無くなったりしているけど、幻覚とわかっていなかったら、どこかに飛ばされたと勘違いするかもしれない。
まぁ、魔女魔法を見たことが無い人には飛ばされるっていう発想が出てこないんだろうけど。
「ロアちゃんもやってみるといいわ」
今後使うかどうかはわからないけど、一回も使わずじまいにするわけにもいかない。
せっかく使えるようになった魔法なんだからね。
さて、どんな所を想像しようか。
出来るだけ最近行った場所の方が想像しやすいはず。
僕が最近行った場所……牢屋くらいかな?
その前となるとジトンの魔境になる。
う~ん、ヴェイルさんがもう僕にジトンの洞窟の幻覚を見せているから、同じ所は何だか嫌だな。
……よし、うまく再現できるかはわからないけど、あの場所にしてみよう。
僕は目を閉じ、その場所をじっくりと思い出す。
思い出せない細かい所は僕が勝手に付け足して想像する。
そして数分後、やっと納得いく光景が想像できた。
「魔女魔法『ファントム』!」
「……へぇ~、すごいわね」
僕が想像したのは王の間。
城で一番豪華なその部屋が印象に残っていたから選んでみた。
実際に入ったことは数回しか無いけど、それでもかなり覚えていた。
「さっきの『ディスガイズ』といい、この『ファントム』といい、ロアちゃんは想像力があるわね」
ヴェイルさんの反応を見るに2つの魔女魔法をうまく使えていたみたいだ。
自分では思ったことが無かったけど、僕は想像力があるらしい。
でも今日の2つの魔法はどっちも戦いでは使えそうにない。
僕が欲しいのは誰にも負けない力。
こういう力じゃないんだよね……




