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万博公園「太陽の搭」

万博公園『太陽の搭』


万博公園に着いた長野とマリオとサスケ。


 車は万博公園の日本庭園前駐車場に止めた。 ドアを開けるとサスケが飛び出し、走って行った。


「トイレかな。そのうち追いかけてくるでしょう」と長野は目で後を追いながら言った。


 時計を見ると10時40分。待ち合わせの時間まで20分以上あった。


 車の中から見えた太陽の塔に、マリオが興味を示していたので、右側の日本庭園には向かわず反対側の太陽の塔まで歩いた。

 太陽の塔は、遠くから見ると愛嬌のある顔をしているが、真下に立つと縦に長い円錐型の身体から両手を拡げ、頂上には金色の顔が覗き、塔の中央には両側から押さえつけられた二つの顔。右側に鼻と口が歪んでいる。目は瞑っているように見える。


 金色の顔は人間なのか、ロボットのようであり、宇宙人と言われればそのようにも見える。

 手は羽根にも見えるが飛ぶにはあまりに幼い。

 薄い雲が太陽の光を遮ると、瞑っていた右の目が開き左の目からは涙が流れているように見える。

 マリオは跪いて見上げているだけで声は出さない。

 

 塔の後ろに回ると中央の顔が黒く描かれ、放つ光の色も深い緑である。黄金の顔は見えない。

 見つめるマリオの背中が小刻みに揺れていた。


 日本庭園の中の茶室・汎庵に着いたとき、座敷には、シズエと藤原流いけばなの家元夫妻と、娘の康子がいた。  

 シズエは、着物姿でまるで自分がお見合いをするような装いであった。

 康子も、シズエよりは地味な着物を着てはいるが、元気がはみ出して窮屈に見える。


「近頃の娘はみんな同じだな」と長野は思った。

「じゃあ、私はお庭のほうで待っていますから」


 マリオを残し、長野は茶室の外にあるベンチに腰掛けた。暫くすると、シズエが茶室から出てきた。

 

 どこからやって来たのか、サスケがシズエのそばで尻尾を振っている。


「ご苦労様、サスケ元気だった」

「今までどこにいってたんだ」

「ここはペット禁止なのよ。見つからないように隠れていたのよ。サスケはペットじゃないんだけどね」

「王子様はサスケがお嫌いなようで。引き取ってもらえますか」

「わたし、このあともう1件打ち合わせがあるんだけど、マリオがそういうんだったら仕方ないわね。

 あなたにはサスケの生活費もあげているんだけど」

「王子様との契約は1日1万ドルだそうですね」

「そんなこと聞いたの。イヤな人ね」

「私にはあれだけですか」

「バカいってんじゃないわよ。あなたが働いた分はいくらでもあげるわ。あれでも多過ぎるぐらいよ」

「すみま・・・いえ、どうも」

 

長野とシズエが話していると、茶室からマリオと康子が出てきた。


「近くを、お散歩してくるように母から言われましたの」


 やさしい京都のアクセントで彼女がマリオを気に入ったことが伺える。

 最初の印象とは違って、随分おとなしいお嬢さんだと長野は思った。


「うまくいきそうですね」

「そうね、私がもう少し若かったらほっとかないんだけどね」


 梅園の方へ歩いていく二人をサスケがついていく。


「あなたも見ててあげて。成功すれば2倍もらえるんだから」


 長野も二人のあとを追う。


茶室の裏にある、小さな梅園に入っていく二人。康子が前を歩き、すこし遅れて歩くマリオ。

 康子が手を出し二人の手が触れ、やがて握られた。

 九月の梅園に花は無く、緩やかな斜面に葉をつけた木だけが枯れ草の中に立っている。

 足元の枯れ草を踏みながら歩く。

 康子の肩より低い木の枝には、それぞれに「八重寒江」「楊貴妃」「花座論」「芳流閣」

「佐藤紅」「道知辺」「八重八島」「淋子梅」などの小さな木の札が架かっていた。

 康子はその一つ一つを手にして、声に出してマリオに聴かせる。

 康子には満開の梅の林が見えているのかもわからないと長野は思った。

 マリオは梅の花を知っているのだろうか。


 梅園を出た二人は、康子が手を洗うと言ったので、小さな石橋を渡って小川に下りていった。

 小川の水で手を洗っている康子の着物の袖を後ろからマリオが持っている。

 

 恋人みたいだなと見ていると、突然サスケが走り出しマリオに飛びかかった。

 

 マリオはサスケに飛びつかれた弾みで康子の胸を掴み、持っていた着物の片袖を引き裂いてしまった。

「なにをするのよ、変態」と言うが早いか、康子がマリオの横っ面を叩いた。

 叩かれたマリオは、川に落ちた。


「失礼します」追ってきた長野とすれちがいながらそう言った康子は、ふり向きもしないで茶室の方に駆けて行った。


 小川で倒れているマリオを助け上げる長野。

「いぬが、この犬が」

 康子が行ってしばらくしてやって来たシズエが、

「何があったの。娘さんをあんな風にして。ご両親も怒ってこの縁談はナシだと行って帰ってしまったわよ」

「すみません」

「アイム・ソーリー」

「二人似てきたわね。あなたマリオをどこかで着替えさせて。また連絡するから早く行きなさい」


 一人残ったシズエ。マリオと康子がいた小川の傍に立っているクロマツの木に刺さった吹き矢を引き抜く。

 

 林に向ってサスケが2度吼えた。


 

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