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第1話 固有技能

「おっきて!!」

「うごっ!?」


腹にもの凄い衝撃があり、慌てて目が覚めた。

そこには寝癖頭のランシェが俺の腹にまたがっていた。


「おはようコウ!」

「お、おはよう………だけどもう少し優しく起こしてくれ………」


そう言いながらランシェを降ろし、起き上がる。

………少し腰が痛いな。


「おはよう、よく眠れた?」

「まあそれなりに」


キッチンから声をかけてくるランファ。

どうやら朝飯を作ってるみたいだ。


「それで、今日の試合はお昼頃に始まるからその前に一度みんなで練習するの。そこで固有技能の事を教えてあげるわ」


「………お姉ちゃん、今回勝てる?」

「………ごめん、お姉ちゃんも精一杯やるつもりだけど………やっぱりピッチャーが居ないと………」


どうやら結構不味い状況みたいだな………

しかもピッチャーが居ないとは………確かにキツイな。

………ならここは俺の出番だよな。


「だったら俺に投げさせてくれよ、俺はピッチャーだからさ」












「そう、俺がピッチャーとは言ったけど何でこうなる………?」

「いいから投げろ!!よそ者!!」


バッターボックスにいる少年に言われる俺。

何でこうなるかな………?







朝飯を食べ終わった俺達は早速、グラウンドへ。

村を歩いてる途中、色んな人にチラチラ見られたが、ランファほど過剰に反応されなかった。

と言うより………


「ふんふん~」


俺と手を繋いで嬉しそうに歩くランシェを見て、みんな微笑ましく見ていた。

何だ?ランシェが懐いてるなら問題無いとか思ってるのか?

………まあ嫌な視線を浴びる事も無いから助かるっちゃ助かるんだが。


グラウンドは良く公園にあるようなグラウンドで木の柵で囲まれていた。もうグラウンド内にはキャッチボールをしている人達が。

しかしあの手に着けている物は何だ?


「あれはグラブよ」

「あれが!?」


俺が使っている様な皮製の物ではなく、何かスライムの様な………取り敢えず、綺麗な結晶みたいな物がグラブの形を取っていた。


「結晶が元なんだけど、元はひし形の小さな結晶で、作動させるとグラブになるの。結構高価な物何だけど私達の村近くに取れる山があるからかなりあるのよ。コウもどう?」


「いや、俺はちゃんと相棒があるからいいや」

「そう」


そんな事をランファと話していると中でキャッチボールしていた少年がこっちに気がついたみたいだ。


「ランファさん、遅いですよ!みんなやる気満々なのに………」

「ごめんね、ヤン。もう揃ってる?」


ランファがヤンと呼んだ少年はツンツン頭でヘッドバンドをしている少年だった。


「はい!みんな揃ってます。早速、練習を………ってアンタ誰だ?」


「俺は………」

「コウって言うの!!異世界から来て、凄いピッチャーなの!!」


と俺の代わりに答えてくれたランシェ。

代わりに答えてくれるのは良いんだけど、これじゃあ更に期待させちゃうよね?


いや、自信が無い訳じゃ無いのだが、ここは異世界と言うこともあり、俺の実力がどのくらい通用するのか分かったもんじゃない。


「はあ!?異世界人?それに凄いピッチャー?そんな風には見えないけどな………」

「コウは凄いの!!ヤンなんて手も足も出ないんだから!!」

「なっ!?んな訳あるか!!俺がこんな奴に負けるなんてありえねえ!!」

「絶対に勝てないよ!コウが勝つに決まってるもん!!」

「なら勝負しようぜ!!絶対俺が打ち返してやるよ!!」

「コウが絶対に勝つもん!!」


と本人そっちのけで勝手に勝負することになってるし………

そして最初に戻るのだった………








「それじゃあ審判を置くわね」

「?審判を置く?」


そう思っているとランファが何やら懐から結晶を取り出し、それを地面に落とした。

すると地面に落ちた結晶が浮かび上がり、


『試合開始します』


と喋り始めた。


「凄っ!?」


「何だアイツ、審判結晶で驚いてるのかよ………」

「彼は異世界から来んだから仕方が無いわよ」

「へん!だったら対した事ねえな絶対!!」

「………それはどうかしらね」


そう呟きながらキャッチャー道具をつけるランファ。

因みに道具も全て結晶で作られてる。


『プレーボール!』


そんなこんなで勝負が始まる………







「………ってタイム!!」


「「はぁ!?」」


「ちょっと、ランファ来てくれ!」

「ど、どうしたのよ!?」


そう言いながらピッチャーサークルに走ってくるランファ。

いや、だってな………


「サイン決めて無いじゃん」

「サイン………?何の?」


えっ?


「球種だよ、球種!!」

「何言ってるのよ、ストレートだけでしょ」

「………本気で言ってるのかそれ?」

「当たり前じゃない………コウこそ何言ってるのよ………しっかりしてよね!」


グラブで俺の胸をトンと叩き、戻るランファ。

いや、でも………


「変化球って概念無いのかよ………」


それに本当に驚いている………


「いいから早く投げろ!!それとも怖気付いたのか!!」


そんな俺の心を無視してヤンが野次ってくる。

まあいい、こうなりゃやけだ!!


「いいよ、真っ直ぐだけで勝負してやるよ!!」


俺は半ばやけになって振りかぶった。










数10分前………


彼とキャッチボールをしてる時で、もうその違和感に気がついた。

明らかにボールのキレやノビが違う………


「どうしたランファ?」

「い、いえ、何でも無いわ」


そして軽く投げているのに、このスピード………

どう見ても本気で投げている様には見えない。

コウはもしかして………


「私達の救世主かも………」











『ストライク』


俺の投げた球はど真ん中、ミッドに真っ直ぐ突き刺さった。


「………え?」


ヤンが呆然と立ち尽くしている。


「凄いよコウ!!150キロなんて初めて見た!!」


バックネット越しに見ていたランシェが結晶に出た数値を見て興奮しながら叫んだ。

まあもう説明も要らないと思うがスピードガンの結晶だ。


この世界の結晶はマジで便利過ぎる。


「150キロか………まだまだ出るな」


俺のMAXは一応155キロ。

まだまだこれからだな。


「嘘だろ………」

「凄いとは思ってたけど、これほどだなんて………」


二球目は外角低めギリギリに。


『ストライク』


ヤンはバットを1度も振ること無く、追い込まれた。


「ヤン!どうした!!びびったか?」

「う、う、う、うるさい!!いくら早くても俺の固有技能があれば150キロ位!!」


そう言って目を瞑るヤン。

………何だろ、いきなりオーラみたいなのが、湧き出てるんですけど………


「出た!!ヤンの固有技能!!『超加速』!!、あらゆるもののスピードを上げられる!!これでスイングスピードも2倍だ!!」


説明ありがとギャラリーさん。

これが固有技能か………確かにスイングがさっきよりもかなり速くなってる。


だけどさ………


「いくらスイングスピードが速くてもボールに当たらなきゃな………」

「うるさい!!良いから投げろ!!」


………じゃあ俺も取っておきを投げてやるか。

高校時代でもキャッチャーの奴が3球に1球しか取れながったウイニングショットの2つの内の一つ。


「行くぞヤン!!」

「ああ、来い!!」


俺はミット目掛けてそのボールを投げた………












コウが投げた3球目のボール、そのボールの違和感に投げた瞬間気がついた。


(回転がさっきより違う!?)


綺麗なバックスピンのボールとは違い、横に回転しながら真っ直ぐ私のところに向かってくるボール。

明らかにさっきのボールとは違う。


(彼の固有技能!?)


私は集中し、少しも目を離さないように食い入る様にボールを見る。

ボールは真っ直ぐ私のミットに向かって行くが………


(えっ!?)


ホームベース前で、急に伸び上がった。


「そんな球あるの!?」


ヤンのバットは空を切り、ボールはミットの上を行き、私のプロテクターに突き刺さった………











「ランファ!!」


ヤバイ、熱くなってつい投げちまった!!


フォーシームジャイロ。

俺のウイニングショットの1つで、バッタ―の手元で伸び上がるストレート。

普通のストレートは違い、ライフルの様な回転をして進み、普通のストレートよりも空気抵抗が少なくなるため、失速しないので、伸び上がるように見えるのがこの球なのだ。


普通のストレートはバックスピンで進むため、もろに空気抵抗とぶつかり、どのピッチャーでも失速するのだが、フォーシームジャイロはそれを殆ど受けない。なので伸び上がる様に見える。

高校時代のキャッチャーだって苦労して捕っていたボールなのに、変化球も知らない女の子にいきなり投げるなんて………


俺のアホんだら………!!


「ランファ、大丈夫か!?」


プロテクターに当たったランファはそのまま、前に俯き、動かなくなった。

溝にでも当たって呼吸が苦しくなったのかと思って慌てて来たのだが………


「凄い………」


「ん?ランファ………?」


「凄いよコウ!!これなら絶対に勝てる!!いや、大陸1にだってなれるよ!!」

「ちょ!?ランファ!?」


起き上がったランファはいきなり俺に抱きつき、そんな事を言った。


「落ち着け、落ち着け!!」

「ニャン!?」


猫みたいな声を上げて離れるランファ。

自分が何をしたのか理解したのか途端に顔を真っ赤にした。


まあそんな事どうでも良い………


「ランファ、大丈夫か!?ボールをもろに食らってたけど………」

「えっ?ああ大丈夫よ、このプロテクターは衝撃を100%吸収してくれるから」


結晶半端ない性能!!

高性能過ぎる!!


「それより凄いわよあなたの固有技能!!私ビックリしちゃった!!あんな球見たこと無いわ!!」


固有技能

………まあ俺の世界でも投げてる人全然居ないからなぁ。


「これなら勝てる、勝てるわ!!」

「あのさ、ランファ………」


「何?」


「テンション上がってるところ悪いんだけどさ………ボール取れるのか?」

「えっ?…………………頑張る」


もの凄い自身無さそうですねランファさん………







「だから言ったでしょ!コウは凄いんだって!!」

「ぐぬぬ………」


あの後、ヤンはランシェから俺の自慢話を永遠と聞かされていた。

負けたからか反論しないせいで言われ放題だ。

しかし会って1日しか経って居ないのに、良くもまあそんなに話せるな………


流石にヤンが可哀想だし、俺も恥ずかしいので何とかしたいのだが………


「ほら、コウ次!!」


目をキラキラさせたお姉さんが俺を開放してくれなくてどうにも出来ないんです………


「なあランファ、取り敢えず後で試合もあるんだし、休もうぜ………」

「何言ってるのよ、あの球が無いと勝てないかもしれないじゃない!!」


いや、だけどさ………何気に欠点もあるんだよなぁ………


実はフォーシームジャイロ、投げ方がスライダ―をすっぽ抜かせるように投げるため、あまり連投しすぎると普通のストレートの回転が悪くなってしまうので出来るだけ連投したく無い。


それに浮き上がる変化はかなり有効に思えるのだが、慣れてしまうと、高めに入ってくる球になるので長打になりやすい欠点もある。


なので、ここぞの時の球なのだが………


「さあ、こい!!」


暫く、ランファは開放してくれないだろうな………












「………で、相手は何処なんだ?」

「………ワーウルフの村」


相手はどうやら狼さん達みたいです。

結局ランファはフォーシームジャイロを捕ることが出来ず、意固地になって捕れる様になるまで投げさせようとしたので、スライダーやカーブの様な普通の変化球を見せ、そっちの球に興味を持たせることで何とか事なきを得た。

因みに、普通の変化球は完全に捕れる。


「ずる賢い奴らだがら気を付けてね。特にランナーにいるときとかは注意して」


………何の事かさっぱりだが、賢そうなのは分かった。


「おうおう、いやがるいやがる。何度やっても無駄だと思うんだけどな………」

「うるさい、ケビン!!今日こそ勝って見せるんだから!!」


ケビンと呼ばれたワーウルフの男は両腕にワーウルフの女の子をはべらせて登場した。

犬耳に尻尾。ワーキャット達と見た目に似ているのだが、雰囲気がまるで違う。


やっぱり狼と猫なんだなとつくづく思った。


「ん?とうとう、猫達も助っ人を取ったのか?よくもまあこんな色気の無い猫達の助っ人を引き受けたもんだぜ………」


確かにケビンの両腕にいる女の子達は見事なメロンで………って


「痛っ!?何するんだよランファ、ランシェ!?」


「デレデレすんな」

「変態!」


俺は二人に思いっきり足を踏まれた。

小さいからってひがむなよな………

俺は美乳派だけど、やっぱり大きいのはロマンで………


「………まあお前みたいな奴、助っ人としても呼ばねえけどな。ひ弱そうだし、対した事無さそうだ………」


「何だと!?」

「何でそこでヤンが反応するんだ?」


「いいからさっさとやろうぜ。さっさと終わらせて、この子達と楽しむんでな」

「「いや~ん、エッチ~」」


とそんな事を言い残して相手ベンチの方へ行くケビン。

羨ましいとか思ってないからな………


「全く、今度こそ絶対に負けたくは無いわね………頼むわね、コウ」

「………まあやれるだけやってみるさ」


俺はそう言ってグラブを手にはめた………

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