魔法少年に強制変身!?
魔法少女。
それは日本が誇る美少女文化のストックキャラクターの一つ。
魔法の力を駆使し、騒動を起こしたり事件を解決したり世界を滅ぼしたり世界を救ったりする少女のことを指す。
魔女っ娘と呼ばれたりもする。
魔法少女を題材にした名作は数多く存在し、現在も確立したジャンルとして名作を生み出し続けている。
うん。魔法少女は一つの文化だ。それを否定するつもりはない。
魔法少女万歳。
ビバ魔法少女!
だがしかしっ!
魔法少年って何っ!?
需要なさそうっ!
少なくとも僕はそんなモノに何一つ魅力なんて感じないぞ!
……というわけで、現実に戻ると……戻りたくないけどとりあえず戻ると、目の前の猫モドキが僕に発した言葉は、
『魔法少年、やりませんか?』
だった。
やらねえよ!
需要と供給のバランスは大事にしようぜ。
「というわけで、帰ってくれ。お前がどういうモノかは知らないし、知りたくもないから。今すぐ帰ってくれるなら夢オチにできるし」
分からないモノは分からないままでいいのだ。厄介事に巻き込まれずに人生を生き抜くコツだろう。
……さて、では夢オチにするために今日は早めに寝るか、と僕はベッドにもぐり込もうとするが……
「無視すんにゃーっ!!」
「ぐはぁっ!?」
いきなり猫モドキがハイスピードの体当たりを喰らわしてきた。
何しやがるこのぬいぐるみっ!
僕は猫モドキをつかんでそのまま床に叩きつける。
「にゃふんっ!」
猫モドキはぬいぐるみらしく、床にバインドして更には壁にもバインドして、その後無様に床へと転がった。
……しかし『にゃふん』って……ぎゃふんって言いたかったのか……?いや、それでも古いとは思うけど。
しかし猫モドキもしぶとい。すぐに起き上がって、
「何するにゃーっ!」
と、怒鳴りつけてくる。
「やかましい。人が折角目を逸らそうとしている非現実を無理矢理に叩きつけやがって。何だよお前は。これ以上僕の平穏を乱そうっていうんなら、容赦しないぞ」
ぐりぐりぐりぐりぐり。
容赦しないぞ、の前から僕は猫モドキを踏みつけにしている。もっと体重をかけたら綿でも出てくるかな? 試してみようかとも思ったけれど生き物(?)なだけに内臓が出てくると困るので止めておいた。
「にゃーーーっ! 痛いっ! 重いっ! 猫虐待で訴えてやるにゃーーーっ!」
ぐりぐりされながらも懸命に抗議してくる猫モドキ。うーん、中々しぶとい。
「だったらこっちは喋るぬいぐるみとしてテレビ局にでも売ってやるよ。高値が付くといいな?」
「にゃーっ! それが正義の魔法少年候補の言葉かにゃっ! というか主人公の言葉かにゃーっ!」
「謎の猫モドキにいきなりわけの分からんキャラ属性を押し付けられるくらいなら、僕は主人公じゃなくてもいい」
「にゃんたる無気力! にゃんたる怠惰! こんにゃ奴に新世代魔法少年が務まるのかにゃ?」
「務まらねえよ。だからとっとと帰れ」
「こうにゃったらっ!」
「おっ!?」
いつの間にか僕の足から抜け出していた猫モドキは、いきなりその身体を発光させ始めた。逃げろ……と僕の防衛本能がアラート全開で訴えている。
「仕方にゃい。こうなったら強制発動させるにゃっ!」
「勝手に決めるなっ! ……うわあああーーーーっ!?」
しかし、全てが遅かった。猫モドキはその身体を発光させたまま、再び僕に体当たりをしてきた。
「――――っ!?」
いや、違う。
僕の中に這入り込んだ!
ぎゃーっ!
融合開始。
神経接続、オールグリーン。
魔力適合、問題なし。
魔力資質、雷。
固有武装、ブリッツフライアー具現化完了。
マギリングジャケット装着完了。
システム音声のようなものと共に、僕の中で何かが繋がっていく。
光の奔流の中で、システムが一つ一つ、僕という存在に組み込まれていく。
アークドライブ・シリアル01-クードリリエ・アインセル、起動完了――
光の視界が晴れる頃には、猫モドキの姿は消えていた。
……つーか………………
「ぎゃ――――――――――っ!!!???」
部屋の中にある鏡(立ち姿まで全部映せる長鏡)を見て、僕は再び声をあげた。
まず、自分の姿が変わっている。
風呂上がりのスウェット姿だったはずの服装は、いつの間にか軍服っぽい赤いジャケットに白の半ズボン。それから白のマントになっていた。
右手には何だかゴツい剣が握られている。
極めつけは、頭から猫耳、尻から長い尻尾が生えていることだった。
「な…なななななな、何しやがったこのバカ猫――――っ!!」
というか、自分が猫化している。擬人化ならぬ擬猫化。過去最大の悪夢かもしれない……。
「にゃーはははははっ! これぞ新世代魔法少年キャットスタイルにゃーっ! さあ、なってしまったからには諦めるにゃ! 大人しくわがにゃんの話を聞くにゃーっ!」
バカ猫の声は僕の内側から聞こえた(猫モドキじゃなくて、こんな奴バカ猫で十分だ)。どういう仕組みかは知らないが、本当に僕と融合しているらしい。
「誰がなるかーっ! さっさと元に戻しやがれーっ!」
「にゃーははははっ! 戻して欲しければ魔法少年キャラを受け入れるにゃ! さもなくば永遠にこの猫耳尻尾の姿のままにゃ!」
「ど、どこの悪役だてめえはっ!」
とにかくこいつの言う通りにしないことには、元の姿には戻れないらしい。
「実は悪者を倒して欲しいのにゃ」
「……いや、悪者は今まさに僕の中にいる」
お前だ。
しかも脈絡もなくいきなり話し始めるし。
「実はわがにゃんは宇宙人にゃ」
「……どっちかっつーと宇宙バカ猫だな」
しかも続けてるし。僕の意思は完全に無視だった。
「しょうもにゃい突っ込みだけは律儀に入れるのにゃ。男の癖に細かい奴だにゃ。モテないタイプだにゃ」
「やかましいっ! 少なくともお前に好かれたいとは思わねえよっ!」
人の気にしていることをずけずけと!
「そしてわがにゃんの星の同胞が、地球を侵略しようとしているにゃ。わがにゃんはそれを止めに来た正義の猫にゃ」
「……スルーかよ。んでもっていきなり胡散臭い展開かよ。んなもんNASAにでも任せとけよ。あそこだって伊達に宇宙専門じゃないだろ」
ついでに言うとお前は正義どころか悪党猫だ。
「『にゃさ』じゃ対応できない侵略方法にゃ」
「………………」
『にゃさ』って……ああ、二文字違うだけでこんなにも間抜けな響きになるのか……。
アメリカ航空宇宙局。いっそ略さずに呼んだ方がいいのかもな……。
「敵は魔法の力を使うにゃ。だから対抗できるのも魔法の力だけにゃ」
いやいや、魔法と来ましたか。魔法少年、魔法少女ならばお馴染みの台詞とはいえ、現実に言われると寒々しいものがあるな。
「ああそうかい。でも別に僕が魔法少年とやらになってそれを止めなければならない理由はどこにもないな。僕は一介の高校生で、世界を救えるような器じゃない」
「そんなことは分かってるにゃ。お前の器はきっとビール瓶のフタ並の大きさしかないにゃ」
「しばくぞてめぇ……」
攻撃圏外(つまり僕の中)にいるからと言って、言いたい放題だった。出てきたら思いっきり踏んでやる!
「でも仕方にゃい。わがにゃん達、融合型アークドライブには、適合率というものがあるにゃ」
「ゆうごうがたあーくどらいぶ……って、何だ?」
「体感している通りのものにゃ。人間と融合して、その魔法資質を引き出して、魔法を使えるようにする端末。魔法知識のない人間にも、融合補助により強制的に魔法が使えるようになるにゃ。ただし、これには適合率が必要になってくるにゃ。最低でも六十パーセント以上にゃ」
……いま『強制的』って言わなかったか? 何だか物騒な響きだ。リスク満載……みたいな。
「なるほど。たまたま僕の適合率が高かったわけか。何パーセントくらいだ?」
「九十八.六六二パーセント」
「高っ! んでもって細っ!」
簡単に九十八パーセントでいーじゃん!
「本当はもう一人、九十九パーセント越えの適合者がいたんだけど、その人に協力して貰うのはちょっと無理そうだったから、妥協してお前になったにゃ!」
「妥協かよっ! 最悪だな! んなこと言われて誰が協力するか! その九十九パーセント越えとやらにでも土下座してこいっ!」
「そういうわけにもいかにゃい。今回の目的に対しては相手が悪過ぎるにゃ」
「………………」
どんな奴だよ。
「下手をすると敵と手を組まれる可能性があるにゃ」
「……………………」
だから、どんな奴だよっ!
「にゃっ!」
「ん? どうした?」
「三.七キロ先に魔力反応! 敵が動き出してるにゃっ!」
「ふーん。便利だな。レーダー機能まであるのか。さすが端末というだけはあるな」
「のんびりしてる場合じゃないにゃ! 早速向かうにゃ!」
「嫌だ」
「にゃんだとっ!? も、元に戻れなくてもいいのかにゃ!?」
先ほどの脅し文句を使ってくるバカ猫。しかしその手は食わない。話を聞く内に、ある程度の推測はついた。
「ほっときゃ戻るんだろ、これ」
「…………」
「『端末』『起動』。それらの言葉には『エネルギー』という概念がつきまとう」
「………………」
「こうしている今も、そのエネルギーは消費されているはずだ。つまり、エネルギーが尽きれば元に戻る」
「……………………」
「わはははっ! ざまーみろ! ビール瓶のフタだの妥協だの好き放題言いやがって! お前の思い通りになんか動いてたまるか。おら、さっさと融合とやらを解いてどっかに行きやがれ」
「…………………………」
バカ猫は黙ったままだった。
さすがにちょっと言い過ぎだったかな。いやいや、僕の方がよっぽど酷いことを言われていたはずだ。とにかく、バカ猫が諦めないのなら根比べに持ち込むしかない。どうせ僕が勝つのだし、しばらくは付き合ってやろう。
「この手だけは使いたくにゃかったけど、仕方ないにゃ……」
「?」
バカ猫がそう呟いた途端、急に身体の感覚が途絶えた。
「!?」
な、なんだっ!?
意識はあるのに指一本動かせないぞ!?
何しやがったこのバカ猫――っ!
アクティブコントロール・発動。
僕の中でシステム音声が響く。
「うわぁっ!? な、な、なななっ!?」
身体が動かせるようになった。……違う。身体を動かされている。強制的に。恐らくは、バカ猫の手によって。
「にゃっはっはっ! 融合型アークドライブ舐めるにゃよ! 危険時の保険のために融合対象の肉体支配権を奪い取れるようになってるにゃ」
「つまり乗っ取りかーっ!」
「にゃはは。本来なら対象の意識が途絶えたときのための自衛手段にゃんだけど、こういう時には便利にゃ♪」
「ぎゃーっ! やめろーっ!」
僕の身体は僕の意思に関係なく、窓を開けて外に飛び出す。その身体はふわりと浮いていた。
「悔しがる声を聴きたいから、声だけは自由にしてやるにゃ」
「くたばれバカ猫―っ!!」
空を駆ける僕の身体。
うん、驚かない。
強制的に魔法少年にさせられたのだから、空を飛ぶくらいは当然だろう。というか、空も飛べなければ魔法の名を冠する資格はない。
こうして僕は、強制的に事件へと巻き込まれるのだった……




