表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第4部】その腕は禁忌への誘い
222/1258

死神

 どこからか、水が滴る音が聞こえる。

 その音は様々なところで反響し、不思議な余韻を残して消えていく。


 

 ふと滴る水の一滴が頬に落ちて、実はうっすらと目を開けた。



 見えたのは冷たく光る地面と、近くに転がっている金色の鳥かごのようなもの。



「………?」



 なんでこんなものがあるのか疑問に思いながら、実はとりあえず身を起こす。



 確か、学校の昼休みに拓也に()いていた影に接触しようとして……



 そこで、実はハッとする。



「どこだ……ここ……」



 影に触れて、不快感や危機感に体が支配されてしまったことは覚えている。

 そして、影が急に襲ってきて―――そこから、記憶はぷっつりと途絶えていた。



 今分かるのは、ここが学校ではないことだけ。



 地面はガラスのように硬質なものでできており、自分の顔が映るくらい綺麗に磨き上げられていた。



 上方は真っ暗で、天井がどのくらいの高さにあるのか分からない。

 水の反響音から(かんが)みると、かなりの高さがありそうだ。



 空間内に大した明かりはなく、夜目が()くはずの自分でも、周囲(いち)メートルくらいがようやく見える程度だった。



 何か、夜目が利かないように細工でもしてあるのだろうか。

 あまり直面しない事態に、実は首を(ひね)る。



 ある程度の状況を分析して心が落ち着いてきたところで―――ふと、自分の背後に何者かの気配があることに気がついた。



「―――っ!?」



 瞬く間に全身を緊張が走る。

 考えるよりも先に、そちらを振り向いていた。



 その刹那に確認できたのは、暗闇の中でも分かる、何もかもを包み込んでしまいそうな漆黒。



「く…っ」



 実はなんとか踏ん張って、後退しかけた足をその場に縫い止めた。

 反射的に攻撃しようと動いた右手を、間一髪のところで左手を使って押さえる。



 呼吸を整え、その漆黒に意識を集中させることに。



 徐々に見えてくるその正体。

 そこにいたのは、全身を漆黒のローブで包み、フードを目深に被った人物だった。



 その人物は、実を頭から足までをじろじろと眺めて……



「ほう…」



 と、感嘆が混じった息をついた。



 声の低さから、この人物が男性であることが知れる。



 すっと。

 彼は、音を立てずに実に近寄った。



 まるで床を滑るような速さで近付いてきた彼に実は驚き、その一拍の間に、彼は実との距離をほとんどなくしていた。



「!?」



 今度こそ退きかけた実の頬に、彼はそっと手を添える。



 思わず固まった実の瞳を、彼は間近から見つめた。

 フードの中から覗く深い()(すい)色の瞳が、驚愕で絶句している実の顔を映す。



 (ひと)通りの観察を終えたのか、彼はしばらくすると、あっさりと実の顔から手を離した。



 何をされても抵抗できるようにずっと警戒していた実は、意外な彼の態度に拍子抜けしてしまう。



 彼はまた実のことをしげしげと見つめ、今まで横に引き結んでいた口元を(やわ)らげた。



「いい魂の色をしている。」

「……は?」



 突然、彼は何を言い出すのか。



 一瞬ポカンとした実は、次に不審そうに彼の様子を(うかが)った。



 こちらの視線に気付いていないのか。

 はたまた、あえて無視をしているのか。



 彼は、一人語りのように先を続ける。



「見方によって変化する色といい、見えそうで見えない薄ぼんやりとした光なのに、痛烈な存在感を放つ不思議な幻影を思わせる輝きといい、二度とは見られない逸品だ。……それとも、お主のいた世界の人間は、皆がこのような不思議な魂をしているのか? 異世界の人間よ。」



「なっ…!?」



 実は息をつまらせた。



 見破られた。

 何も言わずとも、彼には自分がこの世界の人間ではないと分かっているのだ。



 答えあぐねる実を見据(みす)えていた彼は、ふとその唇を笑みの形に歪めた。



「驚かせてしまったか。まあ、仕方あるまい。」



 彼は実から少し離れて、舞うようにその両腕を広げた。



「ようこそ、人の子よ。ここは、地球という世界のどこにも属さぬ私だけの空間だ。私は古来より、厄病神あるいは死神と呼ばれ、人々に恐れられてきた。お主も、私のことは好きなように呼ぶがいい。」



 彼は愉快そうに、そして(うた)うように語る。



「お主は賢く、また勇敢だ。友人を一目見ただけで私の存在に気がつき、一度目は偶然を装って、二度目は確固たる意志を持って私に接触を試みた。私の正体に勘づいているにもかかわらずだ。それを評価して、()(たび)は私との面会を許すことにした。さあ、お主は私に何を訊きたい? 私に何を求める? 私もお主に興味がある。なんでも申してみよ。」



 なるほど。

 どうやら、自分は影を介してこの空間に連れてこられたらしい。



 驚愕や戸惑いが瞬く間に引いていき、(なか)ば呆けていた思考がすぐに()え渡っていく。



 相手にどんな目的があるにしろ、接触が成功したのは大きな進歩だ。

 この機会を無駄にはできない。



「俺があんたに言うことは一つだけだ。」



 実は、眼前の敵を睨みつける。



「何が目的かは知らないけど、とにかく拓也から手を引いてほしい。」



 単刀直入に告げる。



 何故拓也に目をつけたのか、何が目的なのか、そんな事の経緯はどうでもいい。



 神は常に気まぐれなのだ。

 その時の気分と状況で、簡単に人間の人生を狂わせる。



 気まぐれ故に平等で、そして無慈悲。



 レティルといい彼といい、神とはこうも面倒な生き物なのだろうか。



「ふむ、やはりそういうことか。私に接触を図るくらいなのだから、そうであろうな。」



 こちらの要求は、予想の(はん)(ちゅう)だったようだ。

 どこかつまらなさそうに呟いた彼は手を掲げると、細い指先をパチリと弾いた。



 すると、今まで暗くて存在が分からなかった壁が、ふわりと柔らかい光を灯した。

 光は実たちの周りを大きく円形に囲み、一瞬強く光ってまた淡い光に戻った。



「………っ!!」



 何が起こるのかと身構えていた実は、周囲に広がった光景を見て瞠目した。



 光が灯ったことで、この空間の全貌を明らかになる。



 巨大なホールのような空間だ。



 綺麗な曲面を描く壁は棚のようになっていて、そこには金色のかごがぎっしりと並んでいる。



 そして―――実が絶句した大きな原因は、そのかごの中にあった。



 壁の棚に並んだかごの中では、淡く発光する球体が揺れていた。



 全てのかごに一つずつ納められた球体は、それぞれが違う色合い、違う輝きを放っている。



 これは、言うまでもなく―――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ