桜理を救う方法
「うむ。では話そう。」
そう言って、桜は語り始めた。
「一番丸く収まる方法は、我と桜理を繋ぐ術を解くことだ。しかし、この術はあえて解く方法が作られていないものでな。今から術を解析して解除方法を編み出すのは現実的ではない。そうなると、方法は一つに限られる。……桜理の身代わりを用意することだ。ようは、桜理から力を吸う必要がないほどに我に力があればよいわけだ。」
実は何も言わない。
なんとなく、途中から予想がついていたからだ。
きっと、桜理はずっと前にこのことを誰かから聞いていたのだろう。
しかし、この世界の人間ではない桜理には、こんな命のやり取りなど簡単に受け入れられなかったに違いない。
自分が死ぬのも嫌ならば、自分のために誰かが死ぬのも嫌だ。
誰かを犠牲にすることに躊躇しては、葛藤に悩まされたはず。
どこの誰とも知らない人の命を奪うくらいなら……
「桜理は、俺にその身代わりをさせようと思ったんだな。」
憎い相手が死ぬのなら、まだ幾分か心は楽だろう。
憎い相手が自分のために死んでいくなら、むしろ愉快かもしれない。
それは、ある意味復讐に燃える心を一番満たしてくれる方法だった。
だから、桜理は自分を呼んだ。
運が悪ければ、この声は求める人に届かないかもしれない。
そしたら、大人しく死を受け入れるしかない。
桜理にとって、これは最後の賭けだったのだ。
「汝の言うとおり、桜理の狙いはそこにある。―――間違いないな、桜理?」
その言葉に驚いて、実は後ろを振り向く。
いつから聞いていたのか、桜理が無表情でこちらを見つめていた。
場に満ちる死の気配が、より濃密に香る。
実は、苦々しく唇を噛み締めた。
思い知る。
桜理たちに残された時間は、ほんのわずかなんだと。
「……助けてくれる?」
桜理が、囁くように問う。
「逃げるチャンスをあげたのに、結局知っちゃったのね…。これで分かったでしょ? 私が生きるには、他人の命を食い潰すしかないの。あなたに、自分の命を犠牲にする覚悟と勇気がある? 自分を犠牲にできるくらい、私が大事だと言える? ……無理でしょう?」
絶望のこもった声。
そこから、彼女が生きることを諦めかけているのが伝わってくる。
桜理の未来を潰してはいけない。
諦めさせてはいけない。
今すぐにでも、この身を捧げたい衝動に駆られたけれど……今は、それを必死に理性で押しとどめる。
「少し、時間をくれ。」
言うと、桜理の表情に微かな落胆が浮かぶ。
〝やっぱり……〟
そんな声が聞こえてきそうだった。
「ほう。今さらながらに逃げるか?」
からかうように言う桜に、実は殺気を込めた一瞥をくれてやる。
しかし、何を言うわけでもなく、実は黙したまま桜との同調を切って木から離れた。
桜理の傍まで寄ると、彼女の細い両手を自身の両手で包む。
「三日でいい。必ず戻ってくる。絶対に桜理を助ける。もしも不安なら……」
幹から小さく生える枝を一つ手折り、冷えきった両手にそれを握らせる。
「もう一度、俺を呼んで。」
まるで、どうか呼んでくれと願うような。
どこか甘い囁き。
それを聞いた桜理が、刹那的に別の感情を露わにする。
それを隠そうとするように、彼女は深くうつむいた。
「……信用は、しないわ。」
その答えに、実はただ笑うだけ。
「それでいいよ。」
その言葉を最後に、ふと吹き込んだ風と共に実の姿が消える。
残された桜理の体が小さく震えて……
「…………………どうして……」
そんな呟きが、微かに血が滲む唇の隙間から零れ落ちた。




