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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第3部】封じられた秘めたる想い
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桜理を救う方法


「うむ。では話そう。」



 そう言って、桜は語り始めた。



「一番丸く収まる方法は、我と桜理を繋ぐ術を解くことだ。しかし、この術はあえて解く方法が作られていないものでな。今から術を解析して解除方法を編み出すのは現実的ではない。そうなると、方法は一つに限られる。……桜理の身代わりを用意することだ。ようは、桜理から力を吸う必要がないほどに我に力があればよいわけだ。」



 実は何も言わない。

 なんとなく、途中から予想がついていたからだ。



 きっと、桜理はずっと前にこのことを誰かから聞いていたのだろう。



 しかし、この世界の人間ではない桜理には、こんな命のやり取りなど簡単に受け入れられなかったに違いない。



 自分が死ぬのも嫌ならば、自分のために誰かが死ぬのも嫌だ。

 誰かを犠牲にすることに躊躇(ちゅうちょ)しては、葛藤(かっとう)に悩まされたはず。



 どこの誰とも知らない人の命を奪うくらいなら……



「桜理は、俺にその身代わりをさせようと思ったんだな。」



 憎い相手が死ぬのなら、まだ幾分(いくぶん)か心は楽だろう。

 憎い相手が自分のために死んでいくなら、むしろ愉快かもしれない。



 それは、ある意味復讐に燃える心を一番満たしてくれる方法だった。

 だから、桜理は自分を呼んだ。



 運が悪ければ、この声は求める人に届かないかもしれない。

 そしたら、大人しく死を受け入れるしかない。



 桜理にとって、これは最後の賭けだったのだ。





(うぬ)の言うとおり、桜理の狙いはそこにある。―――間違いないな、桜理?」





 その言葉に驚いて、実は後ろを振り向く。



 いつから聞いていたのか、桜理が無表情でこちらを見つめていた。

 場に満ちる死の気配が、より濃密に香る。



 実は、苦々しく唇を噛み締めた。



 思い知る。

 桜理たちに残された時間は、ほんのわずかなんだと。



「……助けてくれる?」



 桜理が、(ささや)くように問う。



「逃げるチャンスをあげたのに、結局知っちゃったのね…。これで分かったでしょ? 私が生きるには、他人の命を食い潰すしかないの。あなたに、自分の命を犠牲にする覚悟と勇気がある? 自分を犠牲にできるくらい、私が大事だと言える? ……無理でしょう?」



 絶望のこもった声。

 そこから、彼女が生きることを諦めかけているのが伝わってくる。



 桜理の未来を潰してはいけない。

 諦めさせてはいけない。



 今すぐにでも、この身を捧げたい衝動に駆られたけれど……今は、それを必死に理性で押しとどめる。



「少し、時間をくれ。」



 言うと、桜理の表情に微かな落胆が浮かぶ。



〝やっぱり……〟



 そんな声が聞こえてきそうだった。



「ほう。今さらながらに逃げるか?」



 からかうように言う桜に、実は殺気を込めた一瞥(いちべつ)をくれてやる。



 しかし、何を言うわけでもなく、実は黙したまま桜との同調を切って木から離れた。



 桜理の傍まで寄ると、彼女の細い両手を自身の両手で包む。



「三日でいい。必ず戻ってくる。絶対に桜理を助ける。もしも不安なら……」



 幹から小さく生える枝を一つ手折(たお)り、冷えきった両手にそれを握らせる。



「もう一度、俺を呼んで。」



 まるで、どうか呼んでくれと願うような。

 どこか甘い(ささや)き。



 それを聞いた桜理が、刹那的に別の感情を(あら)わにする。

 それを隠そうとするように、彼女は深くうつむいた。



「……信用は、しないわ。」



 その答えに、実はただ笑うだけ。



「それでいいよ。」



 その言葉を最後に、ふと吹き込んだ風と共に実の姿が消える。

 残された桜理の体が小さく震えて……





「…………………どうして……」





 そんな呟きが、微かに血が(にじ)む唇の隙間から零れ落ちた。



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