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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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守護獣の統一

 淡い紫色の光を身にまとった獅子(しし)は、まるで幻のように周囲の景色を透過しながらそこに(たたず)んでいる。



 創造主によって、敵が誰かはインプットされているのだろう。



 獅子は実を見ると姿勢を低くして威嚇するように(うめ)き、大きく咆哮(ほうこう)をあげた。



 鼓膜を突き破るような咆哮に地面が大きく揺れ、獅子を中心とした地面にヒビが入る。



 いくつもの石の欠片(かけら)が周囲に飛んでいき、そのうちの一つが実の頬をかすめた。



 自分の頬に血が筋を作るのにも構わず、実はただ冷静に獅子を見上げる。



 唐突に出現した獅子は、何も知らない住民たちには十分すぎる効果をもたらした。



 至る所で悲鳴があがり、建物のドアや窓から咆哮を聞きつけた人々が顔を出す。



「全員、建物の中に逃げろ!!」



 実は叫び、両手を胸の前に掲げた。

 いつの間にか、その手には小さなナイフが握られている。



「さて、仕事の時間だよ。」



 実は不敵に笑い、ナイフの切っ先を人差し指の腹に当てた。



 鋭い刃先が、なんの抵抗もなく指の中に潜り込んでいく。

 だが、実はそれ以上の行為には及ばず、小さく指先を傷つけるだけでナイフを抜いた。



 傷口からあふれた血が玉を作り、あっという間に臨界点を超えて指先に流れていく。

 そして、指先でまた大きな玉を作って、ポタリと地面に一滴の雫を落とした。



 血が地面に落ちた瞬間、実の足元に複雑な文様をあしらった魔法陣が現れる。



「この地を守りし獣たちよ。」



 先ほどまでとは打って変わった、(りん)と澄んだ声。

 その声に応えて、周囲の建物や地面が光を放ち始めた。



(われ)(なんじ)らを統一する者として命を下す。我が呼び声に応え、分け与えし血を糧にその力を解き放て!」



 街中の光がどんどん強くなっていく。

 実は笑みを深め、高らかに声をあげた。





「さあ、みんなの出番だよ。持てる全部の力で(あるじ)を―――この街を守れ!!」





 実の宣言と同時に、獅子(しし)がまた咆哮(ほうこう)をあげる。

 その鋭い爪が、実目がけて振り下ろされた。



「おっと。」



 実が余裕な動きで大きく跳躍し、獅子(しし)の爪を()ける。



 標的を失って空ぶった爪が、派手な音を立てて地面に打ちつけられた。



 次いで、獅子の前足が近くの建物の屋根に着地していた実を襲って()ぎ払われる。



 それも実はいとも簡単に避け、獅子の爪は実がいたはずの場所に叩きつけられるだけだった。



 獅子の攻撃は全く実に当たらず、建物や地面に衝突する。

 しかし、獅子の攻撃を受けたはずの建物や地面には傷一つついていない。



「これが……守護獣の統一の効果か。」



 拓也と尚希は揃って息を飲み、目の前に広がる信じられない光景を見つめる。



「ま、完璧ではないけどね。」



 実が二人の近くに着地し、額に浮いた汗を拭った。

 そんな実を見た拓也たちは、瞬時にその異変を感じ取る。



 実の顔色が、さっきよりも青いのだ。



『結界が発動している間は魔力を大量消費するだけではなく、守護獣たちの感覚を共有することになります。結界魔法の基本ではありますが、結界が受けるダメージは少なからず実様自身に返ってくることになるでしょう。』



 ハエルの言葉を思い出し、拓也はハッとする。



「実! お前、こんな自由に街を攻撃させてたら…っ」



 その言葉だけで、拓也の言いたいことは分かったのだろう。

 実は拓也の焦りを(にじ)ませた表情を見つめ、わずかに口角を上げた。



「大丈夫。でも、さすがに拓也たちのことまで守ってる余裕はないから、自分の身は自分で守ってね。」



 まるでそれ以上の言葉から逃げるように、実は地を蹴って拓也たちから離れた。



 あえて獅子(しし)に近付くように跳ぶと、獅子が迎え撃つように腕を振るのが見えた。

 瞬間、戦うために()えた脳がその軌道を計算する。



 一秒にも満たない処理の後に、実は空中にいるまま体を少しだけ(ひね)った。

 その直後、首元すれすれを爪がすり抜けていく。



 戦況は、明らかに実の独壇場だった。

 一心不乱に攻撃する獅子を、実は幼子(おさなご)の相手をするようにいなしている。



 しばらくそんなじゃれ合いが続いていたが、次第に獅子の動きに疲れが見え始めた。



「なんだ、もう疲れたの?」



 対する実は、まだまだ余裕そうだ。

 それも、無理もない展開だった。



 獅子(しし)が攻撃する度に大きな動作を伴うのに対し、実は必要最低限の動きだけでその攻撃をかわしている。



 使っている体力の差は歴然だ。



 ふいに、これまで攻撃をかわすだけだった実の動きが変わる。



 実は魔法の力を借りて一瞬で獅子の喉元に移動したかと思うと、魔法で具現化した剣でその喉元を容赦なく斬り裂いたのだ。



 獅子は苦悶に満ちた声をあげ、大きく後退してその場に倒れた。



 巨体から血が流れるようなことはなかったが、今の一撃は獅子にかなりのダメージを与えたようだった。



「………」



 実は〝納得がいかない〟とでも言いたげな表情で獅子(しし)を見つめる。



 ―――()()()()



 あの神が創り、あれだけ不吉な気配をまき散らしていた割に、全く手応えがないのだ。



(なんか……嫌な予感がするんだよな。)



 胸の奥がざわめく。



(本当に、これだけ…?)



 そんな疑いに意識を傾けている間に獅子(しし)が身を起こしかけたので、実は獅子に向かって手を突き出した。



 途端に、獅子が潰れた悲鳴をあげて地面に押しつけられる。



「厄介なことになる前に、終わらせとくべきだよな。」



 ぞっとするような冷たい声で言い、実は空っぽな瞳で獅子(しし)を射抜く。

 そのまま操る魔法に力を込めて、決着をつけるはずだった。



 ()()()()()()()()()



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