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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第19部】希望ある未来へ
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〝全部終わったよ〟


「……ねぇ。」

「………」



「ねぇってば。」

「………っ」



「起きてよ。」

「う……」



 優しく肩を揺さぶられて、拓也は大きく顔をしかめた。

 次に、うっすらと目を開く。



 ぼやけた視界の向こうにいる誰かの姿が、徐々に像を結んで―――





「やっと起きた。拓也が最後だよ? ……ま、拓也が一番魔力の消費が激しかったし、仕方ないか。」





 困ったような、安堵したような。

 そんな微笑みが自分を出迎えた。



「ルティ!!」



 一瞬で目が覚めた拓也は、自分の傍でしゃがむ実に飛びかかっていた。



「お前…っ」

「大丈夫だよ。」



 切羽詰まった表情をする拓也に、実は淡く笑いかける。





「もう、全部終わったよ。」





 そう言われて、拓也は思わず空を見上げる。



 あんなに地面を激しく打ちつけていた雨が、今はやんでいる。

 吹きすさぶ暴風も、穏やかなそよ風へと。



 そして、あんなに荒れ狂っていた魔力バランスが、すっかり元通りになっていた。



「ルティ……」



 この状況を見れば、実がどんな決断を下したのかは明白。

 故に実は何も答えず、ただ笑みを深めるだけだった。



「……………はあぁーっ」



 一気に息を吐き出した拓也は、その場にどさりと尻餅をついた。



「お前って奴は……やっぱり、世界を生かしやがったな。いっそ滅ぼしちまえって言ったのに。」



「ごめんね。」



 心底不満そうな拓也に、実はあっさりとした口調で謝罪する。



「だって、俺には拓也たちを殺すなんてできないんだもん。なら必然的に、世界も生かしてやるしかないじゃん。」



「おれは、死んでもよかった。」



「うん、知ってる。でも、それは俺が嫌。」



 間髪入れずに断言した実は、何を言っても意見を変えそうにない。



「……おれだって、分かってるわ。」



 ぼそりと、拓也は不機嫌な顔つきのままぼやく。



「お前は昔から、そういう奴だよ。いっつも人間を怖がって警戒して、心のどこかでは人間を(きら)ってすらいるはずなのに……苦しんでる人間を見たら、手を伸ばさずにはいられない……そんな、どうしようもないお人好しだよ。」



 まったく。

 面白くない。



 どうせ実はこういう道を選ぶだろうとは思っていたが、混乱に乗じて上手く乗せられるんじゃないかと、そう期待していた自分もいたのに。



 どうしてこの(あるじ)は、こんなにも慈悲に満ちあふれた選択しかできないんだか。



 ぶつぶつと恨み言を量産する拓也の前で、実が目を丸くする。



「さすが拓也。俺が人間を(きら)ってるって、とっくのとうに気付いてたんだ。俺自身でさえ、レティルに追い詰められてようやく気付いたのに。」



「お前は、自分に悪い感情を許さない潔癖症だからな。どうせ、無意識のうちにその気持ちに(ふた)でもしてたんだろ。」



「うーん…。否定できない。」



「事実だからな。」



「そんな怒んないでよー……」



 底冷えする拓也の睨みに、実は眉を下げて両手を挙げた。



「ルティ。」



 その時、実の後ろに立つ影が。



「本当に……本当に、よく頑張ったね。君は、私たちの誇りだよ。」



 後ろからきつく実を抱き締めたエリオスが、時おり声につまりながらそう言う。

 それに対し、実はというと……



「俺は、別に大したことはしてないけどなぁ。」



 この返事である。



 実が自分の功績を認めないのはいつものこと。

 今さら、そこに突っ込む人間はゼロであった。



「よかった……みんな、ちゃんと生きてるよね。」



 父の温もりにほっとして、実は周囲を見回す。



「うん。実、お疲れ様。」



 そっとこちらの手を握って、(ねぎら)いの言葉をくれる桜理。



「実…っ。ありがとう……お前のおかげで、オレは…っ」



 エーリリテやニューヴェルが救われて安心したのか、涙ぐんで頭を下げてくる尚希。



「実、おかえり。実が望む道を選べたみたいでよかった。」



 最初から変わらず、自分の心を第一に(おもんぱ)って微笑んでくれるユーリ。



「ほーんと、よくやったよ。それにしても、戻ってくるなりやることが僕の回復なんだもん。まさか、エリオスたちよりも優先されるとは思わなかったよ。」



 皆と一緒に優しい言葉をかけてくれる一方で、何故か複雑そうなルードリア。



 みんな……みんな、生きている。

 少なくとも、大事な人たちはちゃんと守れた。



 目の前の現実を噛み締めた途端に、全身から力という力が抜けてしまった。



「おっと。」



 腕の中に倒れ込んできた実の体を、エリオスがしっかりと抱き留める。



「そうだね。頑張りすぎて、疲れちゃったよね。」

「疲れたっていうか、本気で安心した……」



 素直にエリオスの胸を借りる実は、弱りきった笑顔を浮かべる。



「みんなが生きてて、本当によかった。みんなのことだけは、失いたくなかったんだ。本当に、本当に……大好きだから。」



「!!」



 実の告白に、その場の誰もが大きく目を見開いた。





「みんな、大好きだよ。こんな俺を見捨てないでくれて、愛してくれてありがとう。やっと……やっと、正直に言えた。」





 次に皆と顔を合わせたら、何よりも先に伝えたかった想い。

 色んな思い込みや建前が邪魔をして、ずっと本心からは言えずにいた想い。



 たった一言を伝えるだけで、こんなにも満たされた気持ちになれるんだったら……

 もっと早く受け入れて、もっと早く言えばよかった。



「ルティ…っ」



 数秒の間を置いた後、エリオスが痛いくらいに抱き締めてくる。

 桜理や尚希なんか号泣だ。



 拓也は照れ隠しでそっぽを向いて、ユーリは何がまぶしいのか手で(ひさし)を作っている。

 ルードリアはポカンとした顔。



 反応はそれぞれだけど、皆が本気で喜んでくれていることは伝わってくる。

 手遅れになる前に伝えられて、本当によかった。



 しばらくは、愛しい人たちと一緒にこの想いを味わっていよう。



 エリオスの胸に頭を預けた実は、幸せそうな表情で目を閉じた。



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