今度こそ、二人で心安らかに……
「あー、よかった。今の僕でも、綻びが見えるっぽい。」
実から奪った剣を虚空に掲げるキリナミは、のほほんとした口調でそう呟いた。
そんな彼を、実は茫然と見つめる。
胸の中に感情の奔流がさざめきを広げて、すぐには反応らしい反応ができなかったのだ。
本当に……
本当にもう……
「―――またかっこつけて、最後に全部持ってっちゃうんだ。」
またそういうことをするんだ。
自分も未来で救われてほしいの次は、これからは自分のために幸せに生きろ、だなんて……
この人の言葉に宿る想いの力は、自分なんて足元にも及ばないほど強い。
一生かかっても、勝てる気なんかしないよ。
「さ、ディライト。過去の人間は過去の人間らしく、未来から退場しようか。死人に口なしってやつだよ。」
「……ああ。」
キリナミからの提案を、ディライトは拒絶しなかった。
やっぱり、本当の意味でディライトを止められるのは、今も昔もキリナミだけだったんだと。
二人の様子を見て、それを実感する。
そして……
「―――よかった。」
ごく自然に、その一言が零れた。
「よかったって、何が?」
「いやね……」
キリナミに問われて、実は複雑な表情をして目を伏せる。
「俺がもっと早く過去に来たって気付ければ、チェイレイが攻めてくる前にリンドルを助けられたはずなのにって……死ぬほど後悔してたんだ。そうすれば、ディライトもキリナミもこんなに苦しむこともなかったのにって。しかも、俺がキリナミに力を流さなければ、キリナミがディライトに剣を向けることもなかったわけでしょ? 大事な人に剣を向けるなんて、俺には怖くてできないよ。」
「ルティ君……」
「でもね。」
そこで、実は瞼を持ち上げる。
「どう足掻いても、あの過去が避けられなかったんだとしたら……キリナミに力を渡せたことは、幸運なことだったのかなって思える。だって……」
しっかりと抱き合うディライトとキリナミ。
そんな二人を彩るのは―――
「そうやって二人が笑えるなら、俺はあの過去に対する後悔を、よかったことだったんだって思って水に流せるよ。」
あの時、絶望に狂って心を壊していたディライトが。
そんなディライトを止める覚悟を決めて、自分に何度も謝って泣いていたキリナミが。
長い時間を費やした果てに再会して、今は心から笑って終わりを迎えようとしている。
それを見られただけで、自分の心はこんなにも救われているんだ。
もう、十分すぎるくらいに。
「……うん。あれで、よかったんだよ。」
少しの沈黙を置いて、キリナミがそう告げた。
「君が、僕たちにやり直すチャンスをくれたんだよ。あの時に君がいなかったら、僕たちはどちらかを殺すことになっただろう。そして、残った方は地獄の中で泣き続けて、何も救われずに死んだんだ。こうして晴れやかに死ねるのは、君のおかげだよ。」
「そうだね。そのとおりだ。」
今度は、ディライトが口を開いた。
「ルティ君、本当にありがとう。あの日、私からキリナミを救ってくれて。そして今、私に決断を思い止まらせてくれて。おかげで私は……最後に、人間らしい本当の願いを思い出せたよ。」
「そう…。よかった。」
実は小さく相づちを打ち、すぐに次の言葉を述べる。
「―――さよなら。今度こそ、二人で心安らかに眠って。」
あえて、自分から別れを告げる。
正直なところ、今笑えているのは奇跡なんだ。
これ以上二人と話していたら、必死に我慢している涙があふれてしまう。
やっぱり行かないでって。
それか、俺も一緒に連れていってって。
そんな気持ちが、今にも喉から飛び出しそうなんだ。
だからどうか、自分が心変わりする前に。
幸せな顔でここを去ってくれ。
そんな想いは、キリナミたちに痛いほど伝わっていたのかもしれない。
「さよなら。」
どちらからともなく同時に答えた二人は、本当に幸せそうに笑っていた。
「ディライト、いくよー。一瞬痛いかもしれないけど、こればかりは勘弁して。」
「大丈夫だよ。幸せの方が上回って、痛みなんか感じないさ。」
「んじゃ、遠慮なく。」
そう言ったキリナミが、持っていた剣を勢いよく頭上に放り投げる。
それと同時にキリナミがディライトの首に両手を回して、二人の体は倒れるように地面へ。
そして、かつてと同じように。
空中に舞っていた剣が、まっすぐに二人の体を貫いて―――――




