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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第19部】希望ある未来へ
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今の役割と過去の役割


 想いも罪も、共に背負う。



 それが、過去に二人で交わされた約束だったのだろう。

 そしてそれは、ディライトの心に強く響いたようだ。



「―――っ!!」



 ディライトが、弾かれたように地面を蹴る。



「―――すまない…っ」



 必死にすがりついてくるディライトの頭に手を置いて、キリナミは優しく微笑んだ。



「謝るのが遅いっての。それと、僕たちが謝らなきゃいけないのはルティ君でしょ。どうすんのよ、あの子のぶっ飛んだ価値観。純粋にひねくれちゃったから、直しようがないじゃない。」



「………っ」



 キリナミにそう言われ、ディライトが肩を痙攣(けいれん)させる。

 しかし、彼はそれ以上の行為には及ばない。



 それ以上のことができないのは、嗚咽(おえつ)で震えている様子を見れば明らかだった。



「ルティ君。」



 ディライトを抱いた体勢のまま、キリナミは顔だけを実に向けた。



「ありがとう。僕のお願いどおり、ディライトを救ってくれて。ルティ君がディライトの心を解きほぐしてくれなかったら、僕はディライトの中から出られなかったよ。」



「いや。礼を言われることのほどでも。俺は純粋に、ディライトに後悔するような道を選んでほしくなかっただけだし。」



 肩をすくめてそう言う実を、キリナミは目をすがめて見つめる。



「かなり追い詰められてたからどうしようってヒヤヒヤしてたけど、問題なかったね。ルティ君が出した綺麗な答え、ちゃんと僕にも聞こえてたよ。」



「綺麗、かな…?」



 キリナミの言うところがいまひとつ分からなくて、実は眉を寄せて首を(ひね)る。



「俺は別に、世界を存続させるって決めたわけじゃないよ。どんな形であれ、想いを繋ごうって思っただけ。世界が助かるんだとしたら、それはただの結果論だよ。」



「そう言われると、なんとも…。僕もディライトを止めた時って、別に世界を救おうなんて大それたことは考えてなかったしなぁ。」



「でしょ? 人間なんて、そんなもんだよ。」



 あっけらかんと実が言うと、キリナミもそれにつられて笑った。



「でも、君が優しい道を選んだことには変わりないね。きっと、そんな君だからこそ、周りの人たちがあんなにも君を愛してるんだと思うよ。」



「うん…。俺も、ここまで来てやっとそのことに気付いた。死なずに戻るなら、ちゃんとお礼を言わなきゃ。」



「そうしな。みんな、飛び上がるくらい喜ぶはずだから。」



 ぽんぽん、と。

 空いている手で実の頭を優しく叩いたキリナミは、とても穏やかに笑った。



「ルティ君。最後までお願いばかりで申し訳ないんだけど……君が望んでくれるなら、僕たちのこの想いを君が受け継いでくれないかな。」



「もちろん。」



 キリナミの問いかけに、実は迷うことなく頷いた。



「これからを変えていくのは、今を生きてる俺たちの仕事だもん。キリナミたちはもう……ゆっくりと休んでいいんだよ。」



 長い悪夢も、これでやっとおしまい。

 あとは静かに眠って、幸せな無の中に溶けていけばいい。



 彼らの魂や心が消えたとしても、彼らの想いは決してなくならない。

 なくさないから。



「―――本当に、君は綺麗な子だね……」



 ちょっとだけ涙ぐむキリナミ。



 それに実が首を傾げると、キリナミは「いや…」と笑って、すぐに涙を引っ込めてしまった。



「じゃあ……もうそろそろ、お別れだよ。」



 そう言ったキリナミは、実に手のひらを差し伸べた。



「その剣、もう一回貸して?」



 行為の意図を掴みあぐねていた実にそう告げて、キリナミは再度手を突きつける。



「え、なんで…?」

「なんでも何も、当然のことでしょ?」



 ルティ君こそ、何を言っているの?



 丸くなった菖蒲(あやめ)色が、明らかにそう語っていた。





「これからを変えていくのが君たちの仕事なら、過去の()(さい)を清算していくのは僕たちの仕事だよ。」



「!!」





 返答に窮した実に、キリナミは慈愛に満ちた表情と声で最後の想いを伝える。



「君はもう、これ以上は何も背負わなくていい。僕たちの想いを受け継いでくれるだけで十分だ。これで君もしがらみから解放されて……これからはちゃんと、自分のために幸せに生きるんだよ。」



 ね?



 笑みを深めたキリナミは、こちらが何かを言う前に、勝手に剣を奪っていってしまった。



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