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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第19部】希望ある未来へ
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結局、行き着く先は―――

 成長した自分は知っていた。



 世の中にはいい人も悪い人もいて、自分だけじゃどうにもできない悪意だってある。



 どんなに仲がいい友達でも、()(さい)なきっかけで関係が崩れてしまうこともある。



 人間が作るこの世界で、絶対に変わらないものなんてない。



 両親や精霊たちの愛情だけで満たされた小さな世界で生きていた時は、それを知らなかった。



 だから〝父さんたちが一緒なら、自分は大災厄を起こさない〟って、無邪気に信じられた。



 今胸を満たすこの諦感は、成長して世界が広がったからこそ(いだ)いたもの。

 そして、それを常に感じていたから、自分にも他人にも希望を見出だせなかった。



 ほらね?

 こうして考えると、昔と何が変わってるっていうのさ。



 どんなに〝地球で過ごした自分〟を意識したって、それは単なる虚像でしかなくて。



 上辺をなぞって地球での暮らしに思いを()せたって、根底にいる自分は何も信じていなかった。



 幼い頃に負った傷は、もはや自分でもコントロールできない無意識までを絶望で染めて、夢を見ることも希望を(いだ)くことも捨てさせたんだ。



 もちろん、父さんや桜理たちのことは大好きだよ?

 みんなが望んでくれる間は、生きててもいいかって思える。



 地球での暮らしに幸せを感じていたことは確かだし、地球で無邪気に他人を信じていた経験があったからこそ、拓也や尚希を受け入れられた。





 ―――でもね、それで全部が全部チャラにはならないじゃん?





 父さんたちの想いが足りないってわけじゃない。



 みんなの想いは痛いくらいに胸に響いて、十分すぎるくらいに幸せだって思わせてもらった。



 ただ、そんな想いも(かす)んでしまうくらい、マイナスが大きすぎるってだけ。



 何もしていないのに、そこにいるだけで殺意を向けられる。



 一度でもいいから、そんな経験をしてごらんよ。

 どんな幸せも吹き飛ぶからね?



 そんな経験を、自分が今までに何度してきたと思うの?

 別に今さら、悲しんだり怒ったりするほどのことでもないけどさ……





 それでも、そんなことが起こる度に……―――心は、確実に凍っていくんだよ。





 この状況で、人間なんか好きになれる?

 殺されるだけの世界で、生きていたいと思える?



 本当に、死に際にレティルが言ったとおりだよ。



 いくら自分を大事にしてくれる少数がいたところで、〝鍵〟を殺すことを普通だと思っている大多数には敵わないんだ。



 それを変えられるわけがないし、変えようとも思わない。



 だって、それがこの世界の〝普通〟でしょ?



 自分だって普通だと思ってたよ。

 だから、殺されることを受け入れられてるわけだし。



 それを今さら〝悲しいことだ〟なんて言われても、全然ピンとこない。



 それはあくまでも、あなたが生きていた世界の常識で語った話でしょっていうのが、正直な感想。



 自分がこんなことを思っているって知ったら、父さんたちは悲しむかな?

 他の有象無象は、この恩知らずがって非難するだろうか?



 でもさ……プラスとマイナスでマイナスが大きいなら、行き着く先はマイナスなんじゃない?



 愛があればどんな苦しみも帳消しなんて、どこの夢物語なの?



 その証拠に、自分や母さんがいたって、父さんは憎しみを捨てられてないよね?

 むしろ自分がいることで、余計に憎しみを募らせちゃってるよ?



 知恵の(その)に母さんを殺された拓也だって、口では吹っ切れたと言っているけど、トラウマから完全に解放されたわけではないよね?



 死んだのが自分じゃない分、余計に怒りは消えないんだって。

 そう言った時の顔、今思い出しても怖いよ。





 そして、そんな二人は―――少しも躊躇(ためら)うことなく、世界を滅ぼせって言ってきたじゃんか。





 拓也は分からないけど、父さんには母さんとかじいちゃんとか、自分以外にも大事な人がいるでしょ?



 なのに、そんな人たちを犠牲にできるってことは、そこから得られるプラスがマイナスに勝ててないってことじゃないの?



 じゃあ、自分がこんな風に何もかもを諦めてても仕方なくない?



 それを間違いだって言うなら、自分だけじゃなくて父さんや拓也も一緒に納得させてよ。



 ……まあ、無理だと思うけどね。



 二人にとてつもなく近い自分や尚希さんですら、説得できなかったんだからさ。



「どうしたの? さっきからずっと黙り込んじゃって。」

「………」



 きょとんとして訊ねる実に、ディライトはやはり、かけられる言葉が見つからないようだった。



 沈黙は長く続く。

 柔らかい小雨の音が、やたらと存在感を主張するくらいに。



「やっぱり……」



 ようやく、ディライトの唇が震える。

 実は自然体のまま、言葉の続きを待った。



「やっぱり、この世界は生まれ変わるべきだね。」



 ディライトが下した結論はそれ。

 実をまっすぐに見つめるその瞳は、揺るぎない決心で満たされていた。



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