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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第19部】希望ある未来へ
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語らいの始まり

 しとしとと、小雨が降る。



 他の場所は叫び声も(かす)むほどの豪雨なのに、ここだけには(けが)れを優しく洗い流すように穏やかな雨が降り注いでいた。



「―――ここが、キリナミと別れた場所なの?」



 見えた後ろ姿に、そっと問いかける。

 ゆっくりと振り向いてきた瑠璃色は、ただ静かにこちらを映していた。



「泣いているのかい?」



 そう訊ねてくるディライトに、実はこくりと頷いた。



「うん。涙が止まらないんだ。多分……俺じゃなくて、キリナミが泣いてるんだと思う。」



「キリナミが?」



「うん。やっぱり、ディライトにこんなことしてほしくないって……」



 力なく笑う実。



「なんかさ……俺の頭の中、今ぐちゃぐちゃなんだ。ディライトと一緒にありすぎたせいかな…? 俺の魂って、ディライトの気持ちに共鳴しかしないんだよ。ディライトから逃げてた時、自分を見失って(わめ)いてばっかでさ。拓也に刺されて痛い思いをして、ようやく自分を取り戻せたかなって思ったのに……ディライトの前に立つと、結局キリナミの想いが勝っちゃうんだね……」



「そう…」



 あくまでも静かに受け答えをするディライトの瞳が、すっと細くなったのはその時。



「―――だから、私を殺しに来たのかい?」



 その視線は、実が持つ青い剣に注がれていた。



 しかし、実はディライトの問いに首を横へ振る。

 その答えの信憑性(しんぴょうせい)を表すように、実は手にしていた剣を地面へと放り投げた。



「無理。やっぱり……俺には、ディライトを殺せないよ。」



 自ら武器を手放した実に、ディライトは少なからず驚いた様子。

 無表情の中で、瞳だけが微かに動いて大きくなった。



「それは……ルティ君の中にいる、キリナミの意志なのかな?」

「どうだろう…? これは、俺が意気地なしなだけだと思うな。」



 涙を止めないままに、実は答える。



「だって、キリナミは自分を犠牲にしてディライトを止めたもん。多分、ディライトを殺す覚悟もあったんじゃないかな?」



「………」



 ディライトは無言。



 彼とキリナミの最後がどうだったかは知らないが、今彼が浮かべている複雑そうな表情を見ていれば、自分の推測が間違っていないと、なんとなく分かる気がした。



「ねぇ、ディライト……」



 実はディライトに語りかける。



「俺さ……正直、まだ何も分からなくてさ。父さんたちを生かしてくれるなら、ディライトに力を渡して俺は消えてもいいやって……ずるいことを考えてる自分もいるんだ。」



「………」



「だからね、最後にじっくりとディライトと話してみたいんだ。それで決めようと思う。俺がみんなから託された想いと、俺が自分から受け継いだ詩織さんの想いを……俺は、どこに持っていけばいいのか。」



 世界を存続させるのか、滅亡させるのか。

 そんな大それたことは、自分には決められない。



 だから身の丈に合う選択として、ディライトを殺すか否かを考えた。

 けれど、その答えは迷うまでもなく決まっている。



 自分には、ディライトを殺せない。

 というか、今の自分には誰のことも殺せないと思う。



 本当は、自分は誰も殺してなかったって。



 鎮魂祭でそれを知った時、自分のことが怖くなった気持ちはあったけど、震えるほどに安心したんだ。



 それなら、もっと自分らしく前を向けるって。

 現金かもしれないけど、そう思えた。



 そんな自分に、また手を血に染められるとでも?



 絶対に無理だし、絶対に嫌だ。



 ディライトたちと共に過ごした過去で、もしゼイドーを殺していたら状況は変わったかもしれない。



 だけど、今それを考えたところで意味はない。



 結局人を殺さないまま、自分はここにいるのだから。



 自分が誰かの命に終焉(しゅうえん)を突きつけられるのは、詩織のように本人が真にそれを望んだ時だけ。



 こんな根性なしの自分が、どうしようもなく情けないと思う。





 でも―――だから、ここに来る覚悟ができた。





 どうやってもディライトを殺せないのなら。

 彼を否定することができないのなら。



 自分にできることは、ただ向き合うことだけ。

 そして彼にも、自分と向き合ってもらうことだけだ。



 散々逃げたけれど、世界の行く末に答えは出なかった。

 ならばもう、逃げるのはやめよう。



 今この場で、二人で決めよう。

 その結果自分が消えるしかないなら、その時はその時だ。



 さあ、始めようか。





 最期の語らいを―――……





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