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真相

 サムドの手には何もないが、神具をどこかに隠し持っているかも知れない。

 キオはサムドの鋭い目と目配せでその警戒をしていた。そんなキオに対して、セリザは意外と饒舌に話しかけてきた。


「なぁ、キオ。神具を持った気分はどうだ?」

「別に。以前と何も変わらないけど」


「そうかい? サムドなんかより、自分が上に立った方が上手く行く。そう思ったことは一度もなかったかい? そもそも、君の方が危険な任務をいくつも成功させているんだ。サムドなんかより、君がトップに立つのが筋じゃないかい?」


 セリザは真剣な面持ちでキオを持ち上げる言葉を吐いた。

 その言葉に嘘は一つも混ざっていなかった。

 魔物の討伐数でも、人の殺傷数でも、護衛の成功率でも、キオは灰鬼隊の中でダントツの一位だった。

 サムドが隊長をしているのは、彼が一番年長者だったからという理由だけだ。


「年齢という理由だけで、君は副隊長にもなれない平隊員だ。そんな君にサムドは危険な任務を次々と押しつける。君はその処遇に納得出来るのかい?」


 キオはセリザのぺらぺらと良く回る舌を冷たい視線で見下し続け、一言も発さなかった。

 それなのにセリザは気味の悪い笑みを浮かべて語り続ける。


「沈黙は肯定と受け取るよ?」

「何が言いたい?」


「君はせっかちだね」

「俺は傭兵だ。ムダに言葉を並べるような吟遊詩人でも、押し売り商人でもない。俺にとって意味のある言葉は仕事の依頼だけだ」


「その仕事の話をしているのさ。サムドから離れて、私のもとでもう一度働いてみる気はないか? 契約金は今までの百倍でどうかな? 私とほぼ同等の金額にしよう。神具を手に入れた君はそれだけの価値がある」

「断る」


 キオはセリザの提案を一蹴した。

 セリザは短く呆れたように息を吐くと、諦めたように天を仰いだ。


「ま、そうくるよね。後で後悔しても知らないからな」


 そういうとセリザは口をつぐみ、それ以上何も言わなかった。

 後悔する。

 キオはその言葉を到底信じることは出来なかった。少なくとも、セリザの下で良い目を見たことは無い。


 それもあって、今更彼の言葉を信じることは出来なかった。

 そして、無言のまま数分が過ぎると、サムドがアイリスを連れてやってきた。

 その途端、セリザは顔を歪にゆがませる。


「ようこそ。アイリス姫」

「私にお話があるようですね?」


「えぇ、まずはその机の上に置いてある手紙を読んでいただきたいのです」


 セリザの言う通りにアイリスが机の上に置いてある手紙を取り上げる

 最初の数秒でアイリスは眼を見開き、その次はわなわなと震えだした。

 よほど信じられないことが書いてあったのだろう。アイリスは何度も、こんなの嘘よ、と呟いている。


「ククク、言った通りだったでしょう? アイリス姫が来なければ、話は始まらないと」

「こ、こんなものはでたらめです!」


「でたらめだと思うかい?」

「だって、私は生きていますもの! あっ……、私が死んで喜ぶ人がいる……」


「気付いたようですねぇ。そうアイリス姫、もうこの国はあんたの国じゃない。いや、もともとあんたの国ではないか」


 アイリスがその言葉で崩れ落ち、キオがギリギリで身体を支えた。

 何故セリザが勝ち誇っているのか、アイリスが絶望しているのか、キオにはサッパリ分からなかったし、アイコンタクトを受けたサムドも首を横に振った。


「アイリス、手紙には何が書いてあったの?」

「キュルトの王都で起きた事件の報告です」


「それで何でそんなに怖がっているのさ?」

「王位後継者であるアイリス=ウル=キュルト皇女は、保身のため神具を持って亡命する途中で死亡した。ウィンストン公爵は教会から承った神具ティアマトを手に玉座についた。キュルトの各領主はウィンストン公爵に忠誠を誓えと書いてあります」


「国をのっとられたの?」

「はい。ですが、まだ私が生きていることを伝え、セリザの身柄を教会に渡せば、裁判で叔父の暴走が止められるはず」


 アイリスはウィンストンの罠にはめられた。

 今ならまだ教会も決定を撤回する可能性がある。

 でも、その希望はあっさり砕かれた。


「残念だね。アイリス姫。教会は決定を覆さないよ」

「え? 何故です? あなたの証言と私が生きていることが伝われば、叔父の大義は失われ、教会も認定を撤回するのが当然ではないのですか?」


「その教会が許可したんだよ。教会が神具を与えると言うことは、教会にとっての邪魔者をその武器で消せと同義だ。教会がウィンストンに肩入れした理由は実はあなたの父親が教会を裏切った、とか?」

「そんなことはありえません! 私を惑わそうとする嘘には騙されませんよ!」


 セリザの答えにアイリスが声を荒げた。

 初めて見せるアイリスの怒りだったが、セリザは全く気にしている様子が無い。

 むしろ、攻めるチャンスを見つけたように嗜虐的な顔をしていた。


「その通り。今のは適当に思いついたでっちあげだ。でも、話の真偽の調査をしないまま、教会はウィンストン公爵を王に認めた。理由が分からなくとも、あなたの存在は教会も邪魔だと思っている証拠に他ならない。もし、そうでないのなら、あなたの捜索と逆賊を討てと命令が下るはずだ。だから、教会に真実を言っても無駄だよ」

「何故そんなことに……。私が無力だったから?」


「そう。あなたには力が無い。神具も使えない。金もない。そういう意味ではウィンストン公爵は力を持っていた。神具を使えて、神具を買いあさる金もあった。強い者が生き残るというけれど、金というのは力だ。金のあるところに人は集まる。私と同じように大勢の者がウィンストン公爵に就く。人が集うのは決して理想じゃない。その証拠があなたの現実だ。死んだという報告が上がっているのに、騎士の一人もついて来ていない」

「そんな……私は……」


「ククク……ハハハハハ! そうだ! その顔が見たかった! その悔しさに押しつぶされそうな顔だ! あんたの気丈な態度を見てから、ずっとその顔が見たかった! 死に顔を見るよりも楽しいあたり、生きて戻ってきてくれて良かったよ!」


 セリザが椅子の上でゲラゲラと笑い、身体を強引に動かしているせいで椅子がガタガタと揺れる。


「もう一つ良いことを教えてやるよお姫様! あんたの父親はな! ウィンストン公爵に毒を盛られて死んだんだ! つまり、最初からこの結末まで全部ウィンストンの書いたシナリオに沿ってるんだよ!」


 セリザの言葉でアイリスは立つ力も失ったのか、へなへなと地面に座り込んでしまった。

 トドメと言うべきセリザの言葉だったが、それに異論を唱えた人間が一人だけいた。

 キオだ。


「シナリオに沿っているのなら、第一部隊が死んだのも、俺らが蜂起を仕掛けたのもシナリオだったのか? おかしくないかそれ?」

「ククク、全てシナリオ通りだよ。ヒューゴーの兵士の死体、アイリス姫を護衛した傭兵部隊の死体、そして、アイリス姫の死体が揃う。そうなれば、いくらでも物語は書けるんだよ。事情を知る者さえいなければね。だから、どちらにせよニューシー達は、僕が処理するつもりだったのさ。力を持ったバカは面倒事の元だしね。下手な証拠は綺麗さっぱり血で洗い流すに限るよ」


 裏を知る者は全て消す。死人に口なしというやつだ。

 だが、今のセリザはとらわれの身で戦闘なんて出来ない。

 強気でいられる訳がない。そのはずなのに、セリザがここまでネタ晴らしをするということは――。


「さぁ、これで登場人物は全員揃った! 仲良く一緒に最後を迎えてくれ! 魂宿る堅牢の城! 律動の聖城(サントアンジェロ)!」


 巨大な地震が起きたかのような揺れが発生し、その場にいた全員が体勢を崩した。

 セリザただ一人を除いては。


「この私が策も無しに捕まると思うかい? 仮にも君達の飼い主だった立場だ。飼い犬をしつけられる神具くらい用意しておくさ」


 いつのまにかセリザの縄がほどけて、椅子から立ち上がっていた。

 セリザは間違い無く神具による魔法を発動させて、この状況を作り出している。

 キオはやむを得ずセリザを殺すために剣を抜いたが、少し遅かった。


「まずは一番厄介なキオから消そうか」


 セリザがパチンと指を鳴らすと、キオの足下にあった床に穴が開いたのだ。


「キオ!」


 サムドが咄嗟に手を伸ばしてくるが、サムドの手はキオの指にギリギリ引っかからずに空を切った。

 落とし穴に落とされたキオは剣を突き刺して落下を防ごうにも、突き刺す足場がなく、そのまま地下室まで一気に叩き落とされてしまう。

しかも、キオを落とした穴がすぐに塞がってしまい、扉のない密室に閉じ込められてしまった。


「要塞型の神具……そういうのもあるのか」


 建物自体が神具だった。派手な調度品はこの要塞が神具だってばれないようにするためのカムフラージュだったようだ。


「ん、水?」


 ゴゴゴと壁が動く低い音とともに、壁から大量の水が勢いよく流れ込んできて、足下を濡らし始めた。

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