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制圧

 キオは砦の正門から堂々と敵陣に攻め込んだ。

 まずは闇夜に慣らせた眼で、門番二人のもとに一気に駆け寄る。


「ん? 何――ぎゃっ!?」

「お、おい!? ぐはっ!」


 門番が気付いた時には彼らの喉が切れた。

 目にも止まらない剣筋で二人を沈黙させると、キオは後に続く五人の少年兵を連れて、扉をくぐり抜けた。

 続けて中庭を風のように駆け抜け、砦の内部へと侵入する。

 さすがに砦内は光が灯っていたのと、扉の開く音でキオ達の侵入はすぐばれた。


「誰だこの夜中に! って、キオ!? バカなお前らは死んだはず!?」


 中には五人の敵がいる。でも、第一部隊の大人達はまだ戦う準備を整えられておらず、一方的に蹂躙できそうだった。

 わざわざ挨拶をしたり、戦う準備が出来るのを待つ義理もない。

 だから、キオはとことん無慈悲に、少年兵に命令を下した。


「おあいにく様。向こうでラックにあったら聞いてみろ」


 キオとともに短剣を握りしめた少年兵が敵に向かって飛びついて、首を掻き切った。

 危険な仕事を灰鬼隊ばかりに押しつけ、金だけを奪っていった第一部隊ではキオ達に一切刃が立たない。

 惰眠ばかり貪っていた連中とは、練度と身体能力がまるで違うのだ。

 あっという間に廊下が鮮血に染まり、キオ達は赤く染まった廊下を奥へと突き進んでいく。

 目的地はセリザのいる司令室だ。

 そこへ向かえば、敵はキオ達に集中する。

 キオ達が正面から突っ込み敵を引きつけ、サムド率いる別働隊が上の階の窓から侵入するのが、サムドの立てた作戦だ。

 でも、調子が良いと思ったとおりに動かないのが人間だ。

 キオの隣に坊主頭の少年兵が並んで、自信満々な表情を見せる。


「キオさん、僕達が前に出ます」

「ダメだ。危ない」


「でも、僕達だって戦えるんです。見てたでしょ? 独立したら俺達だってもっと仕事するんだし!」

「神具持ちと戦ったことないだろ? 同じ神具を持たないと死ぬよ。そうじゃなければ、サムドと俺達がずっと燻っている訳がないんだからさ」


 実際にそれでラックが殺された。

 神具という武器は多少の身体能力の差や練度の差を簡単に覆してしまう。

 一匹のアリが人には勝てないように、普通の武器では神具には絶対に敵わない。

 ラックの時は助けられなかったが、今キオは神具を持って少年兵達の前を走っている。

 今度は絶対に守りきる。

 キオはそう心に誓っていた。

 なぜならば第一部隊のもう一人の神具持ちは誰よりもキオ達少年兵をいびってきたヤツだからだ。


「クソガキども! 詫びてから死ぬか、死んで詫びるか、好きな方を選べ!」


 第一部隊隊長のニューシーが巨大な斧を振り回しながらやってくる。

 タイタンの斧と呼ばれる神話時代に生きていた巨人族の斧だ。

 神を殺すために鍛え上げられた斧は、岩をも軽く砕く腕力を使用者に与えるだけでなく、投げれば必ず敵の首に向かって飛んで行き、戻ってくるという戦技が使えるようになる。

 単純な肉体強化と技の強化だが、単純だからこそ応用が利き、あらゆる状況に対応出来る柔軟さがある。

 そして、何よりも単純な肉体強化は神具を持たない雑兵にとって、抗えない重圧感があった。威勢の良かった坊主頭が一瞬にして心を折られるくらいに。


「キ、キオさん……僕が間違っていました……。あんなの勝てません……」


 同じ人間とは思えず、強大な魔物に対峙しているかのように錯覚して、精神的な焦りが生まれる。

 だからこそ、普通なら絶対に騙されないような言葉でも、ニューシーの虚言を信じてしまう者がいた。


「今日の俺は機嫌が良い。良かったな。見逃してやるよ」

「え? マジで?」


 キオの右隣にいた坊主頭の少年兵が気の抜けた声を出したのを聞いて、キオは小さく舌打ちをして素早く剣を抜く。

 その咄嗟の判断が生死を分けた。


「お前らが力果てて動かなくなったらなああああああ!」


 ニューシーが豪快に斧をぶん投げた。飛んで行く先は先ほど気を抜いた坊主頭の少年兵だ。

 石の壁を紙でも裂いているかのように軽々抉り取りながら、斧が飛んでくる。


「ひっ!?」


 坊主頭の少年兵が自分のミスに気がつき短い悲鳴を上げる。

 だが、彼の首は飛ばずに済んだ。


「あぁん!? キオ! てめえ!?」

「俺の目の前で仲間はやらせない」


 ニューシーが戻ってきた斧を掴んで激昂する。

 キオも坊主頭の少年兵も全くの無傷だったことが、ニューシーは認められなかったのだろう。

 神具が通じなかった驚きと苛立ちが、表情からも溢れ出ている。


「神具が自分達だけの物だと思うな……」


 キオは剣の切っ先をニューシーに向けながら、剣を構える。


「力を貸せ。バハムート」


 キオの声に剣が意思を持っているかのように反応し、刀身が青い炎を帯びた。

 青い炎は荒々しく暴れ、温められた空気が熱風となって吹き始める。

 完全に剣に宿る伝説を制御しているキオに対し、ニューシーが悔しそうな表情を見せて、斧を振りかぶった。


「ありえん! ありえん! ありえてたまるか! 文字も読めないガキどもが! 伝承を読み解いてたまるか! それは俺達、選ばれた貴族の特権だ!」


 ニューシーが怒号と共に力任せに斧を振り下ろしてくる。


「えっと、セリザは生かせって言われたけど、こいつは殺して良いんだよな」


 その振り下ろしをキオは剣で受け止めていなすと、剣から右腕を手放してルーシーの鳩尾に向けて拳を放った。

 その衝撃でニューシーの口から咳とともに大量の胃液が飛び出してくる。


「この……クソ……ガキ」

「貴族だろうが、俺達アッシュだろうが、平等に訪れる物って何か知ってる?」


「ふざけるなよ! この俺が! 神具を持った俺がぁああああ!」


 ニューシーが拳を放つが、力が入っていないのかあまりにも弱々しくて遅い拳だった。

 その拳をキオは手の平で受け止めると、思い切り握り締め、バキバキと骨が砕ける音が響き渡った。


「ぐあああああ! 俺の手がああああ!」

「一つ、殴られれば痛い。二つ、骨を折られれば痛い」


「人に見捨てられ、魔物に落ちたクソどもが、人間様に盾突くなあああ!」

「んで、剣に刺されれば死ぬほど痛い」


 キオはニューシーの暴言に眉一つ動かさず、冷徹な口調で剣をニューシーの足に突き刺した。


「ああああああ!?」

「んで、最後にもう一つ。誰もが平等に最後は死ぬ」


「やめっ! やめてくれ! やめろおおおお!」


 キオは足から抜いた剣を今度はニューシーの首元に突きつけた。


「止めないよ。だって、止めたら、お前はまた俺達を殺しにくるだろ? 今日もあんたらの副隊長が俺の仲間を殺したしね」

「なっ!? まさかてめえ、イオタも――」


「後は向こうで聞いてきたら?」


 キオは冷たく言い放つと、剣から溢れ出る炎でニューシーの身体を焼いた。

 どれだけ転げ回っても消えない炎にニューシーがもがき苦しみ、苦悶の声を上げ続ける。


「クソッ! クソがああああ! 人殺しを楽しむ悪魔めえええ!」

「どの口が言うんだよ。まぁ、いいや。どうせ動かなくなる口だ」


 そして、ニューシーは最後まで汚い呪いの言葉を吐きながら絶命した。

 後に残されたのは元の顔も分からないほど真っ黒焦げになった遺体と、タイタンの斧だけだった。

 キオはタイタンの斧を回収すると、先ほど死にかけた坊主頭の少年兵に声をかけた。


「生きてるな?」

「は、はい……」


「なら、行くよ。これで神具使いはセリザだけだから、雑魚相手なら前に出ても良い。背中は俺が守る。とりあえず、護身用にこの斧持っておいて」

「はいっ!」


 傭兵団のトップを叩き潰したことで、流れは完全にキオ達に傾いた。

 後は雑魚しかいない。

 そして、キオの考え通り、あっさりと砦の制圧は完了して、司令室の前に辿り着いた。

 そこへサムド率いる別働隊も到着する。


「キオ!?」

「あ、サムド。こっちは全部片付いた」


「さすがだよキオは。僕の予想以上の戦果をいつも出してくれる。それじゃあ、乗り込むよ」

「うん」


 バンッと扉を二人で蹴破ると、部屋の中に手紙を読んでいるセリザがいた。

 騒動の音は聞こえていたはずなのに、焦っている様子が少しもない。

 サムドは警戒しながらセリザに近づくと、ロープを取り出した。


「セリザ団長、大人しく捕まって貰いますよ?」

「構わないよ。でも、よく考えてみると良い。君達は自分の首を自分で絞めているんだ」


「どういうことですか?」

「パトロンにアイリス姫をつけたら、この社会を渡っていけると思ったんだろう? でも、違うよ。貴族や傭兵の社会っていうのは、それだけじゃ動けない」


「負け惜しみですか?」

「いや、真実だよ。さぁ、アイリス姫を連れてくると良い。私と話がしたい。彼女ならそう言っただろう? それに文字が読める者がいないと話しにならないのでね」


 セリザが自ら手を差し出して、捕縛を望んでいる。

 サムドはその腕を縛り、セリザの身体を椅子にもくくりつけた。

 そして、神具を持つキオに、監視を指示するとアイリスを迎えに部屋を飛び出した。


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