【エピローグ:神、不滅の「循環(バグ)」に絶叫す】
吾輩は神である。名前は、かつて降臨した
あの不完全な世界ではアスタロと名乗っていた。
管理者の座に戻った今も、ふとした瞬間に
その名を独りごちてしまう。どうやら吾輩は、
あのバグだらけの地で使い続けたこのフレーズを、
存外に気に入ってしまったらしい。
神界の管理室。吾輩は特等席に深く腰を下ろし、
ルナリエが淹れた最高級の紅茶を啜りながら、
メインのモニターに映し出されるあの一行を眺めていた。
王都を出発した勇者カイルは、もはや吾輩が
直接手を貸すまでもない成長を遂げていた。
「アスタロ様。勇者一行、魔王城の最奥にて
魔王を撃破。世界ランクの正常化を確認しました。
これにて今回のデバッグ任務は、完璧な完了と
システムに認定されました」
ルナリエが事務的に報告する。画面の向こうで、
カイルの放った鋭い剣閃が魔王を貫き、
禍々しい瘴気が光の中に霧散していく。
剣を杖にして勝利の静寂に浸るカイル。その背後で、
ヴィータとセレスが隠し財産の金貨の山を見つけ、
互いに抱き合って狂喜乱舞していた。
「やりおったな、カイル。フン、当然の結果だ。
吾輩が直々に鍛え上げた勇者なのだからな。
魔王ごときに後れを取るはずがなかろう」
続けてモニターには、王都の大通りを埋め尽くす
万雷の拍手と花吹雪が映し出された。
白馬に跨り、照れくさそうに笑う勇者カイル。
その後ろでは、救世の英雄として崇められた
ヴィータとセレスが、国民から供えられる
山のような菓子や肉を、両手いっぱいに抱えている。
「これでようやくこの世界のメインシナリオは、
大団円というわけだ。さて、茶を替えるか」
吾輩が満足げに目を細め、カップを置いた時だ。
背後でログを監視していたルナリエの手が止まり、
眼鏡の奥の瞳が、凍りつくような冷徹さを帯びた。
嫌な予感が、吾輩の全知の回路を駆け抜ける。
「アスタロ様。緊急事態です。魔王城の跡地から、
新たな高エネルギー反応。討伐からわずか
数時間ですが、魔王が早くもリポップしました。
原因不明ですが、魔王という存在そのものが
この世界で自動生成されるループに入ったようです」
画面の向こうでは、パレードの歓喜に沸く王都の
遥か北、魔王城の空が再び禍々しい紫に染まり、
巨大な闇の柱が天を突くのが見えた。
それを見たカイルたちが、一斉に白目を剥いている。
「なんでだぁぁぁ! ようやく有給休暇に
入ったばかりだというのに! この世界の
運営は、吾輩を過労死させる気かぁぁ!」
吾輩は神である。
今日からはまた別の世界のルールになるはずが、
無限に復活し続ける魔王という名のバグに
絶叫しつつ、再び現場へ降りるための
絨毯を掴み出す、不憫な創造主である。




