9異能
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時は明け方。 鬼ヶ島は夜の闇を厭うこと無く、お祭り騒ぎの状態でした。
別に、今日が特別な日であるというわけではなくこれが鬼達の日常なのです。 昼夜を問わずお酒をあおり、ご馳走を貪り、愉快豪快に大騒ぎ。 恐れることなど何も無い。やりたい放題の毎日です。
そんな鬼達には空と海の異変を感じ取ることなどできなかったのでした。
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『敵はすっかり油断しているみたいですね』
「だろォな。ジジイとババアは?」
『予定通り、ミツユキが運んで城の裏手……奴隷地区に到着しました』
海上に沈むことなく佇んでいた少年は膝をつき、右手で海面に触れます。 それを合図に、波の『向き』に異変が生じました。
海水が渦を巻き、上空に向かって登っていきます。 一筋の透明な管を伝うように上空に躍り続ける海水はまるで全てを呑み込む勢いでみるみる大きくなっていきます。
空を覆わんばかりに膨れ上がった海水の塊は落ちることなく、不気味に空へ漂ったままです。
『城の手前には鬼しかいません。少年、派手にやっちゃってください』
「派手にやっていいなら島ごと消えるがかまわねェか?」
『地味に!地味にお願いします!』
「いちいちうるせェ……」
少年が右手を掲げると、上空を漂っていた海水はゆっくりとその手に引き寄せられていきます。華奢な少年が山のような水を持ちあげているように見える様は奇怪と言うより他ありません。
『ま、待ってください!』
「あァ?」
女神様の突然の待ったに首を傾げる少年ですが、少ししてその理由を理解します。
「そこで何をしている?」
声の主は天下城の天守閣にいました。 遥かに離れた場所であるにも関わらず、その一言は少年の耳にはっきりと届いてきました。 声の主の正体は、
『滅鬼です!気づかれました!』
鋼のように屈強で大きな身体。頭部には禍々しい二対の角。 滅鬼の瞳は少年を射殺さんばかりに向けられています。
「何をしているだァ?そいつはこっちのセリフだ」
「何……?」
「世界を手に入れてやりたかったことがこれかって聞いてンだよ」
「ふん、小僧には分からぬことよ」
滅鬼は少年の問いを鼻で笑いました。
「異能を使うことには驚いたが、その程度でどうにかできるほど我は弱くはないぞ」
ピクリ。
滅鬼の挑発に、少年のこめかみが僅かに震えました。
「……気が変わった」
「『は?』」
奇しくも、女神様と滅鬼の声が重なりました。
少年は笑みを凶悪的に深くし、告げます。
「派手にやってやるって言ってンだよ」
そして、海水の塊に異変が生じました。 まるで竜巻のような渦が生じたかと思うと、更にその形を大きくしていきました。
「……ククッ!クカカカ!」
『ちょっと少年!?』
「お得意の術とやらでどォにかしねェと島が消し飛ぶぜ?」
「貴様……!」
滅鬼の顔色が初めて変わりました。
「こンなクソ田舎で最強を気取ってンじゃねェぞ!三下がァあ!」
「貴様ぁああ!?」
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