1プロローグ
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昔々あるところに桃太郎という青年がいました。
彼は正義の心を胸に、犬、猿、キジを従え、悪さを働く鬼達を懲らしめ、世界に平和をもたらした英雄となったのでした。
彼は鬼との戦いを乗り越えた後、育ての親であるおじいさんとおばあさんと一緒に、仲良く幸せいっぱいに暮らしました。
……しかし、そんは平穏は長くは続きませんでした。
桃太郎に懲らしめられた鬼達が桃太郎に復讐しようと力を蓄えていたのです。
雌伏の時を経て、ついに鬼達は決起し、桃太郎達に……人間に戦いを挑んできたのでした。
人間達は決起しました。 鬼に負けてなるものかと、名だたる侍達が集まり討伐隊を編成し、桃太郎に助力します。
桃太郎と討伐隊は必死に戦いましたが、鬼達の力にはかなわず、鬼達に囚われてしまいました。
絶望に暮れる人間達に、鬼の王、滅鬼が告げます。
「聞け、人間どもよ!この世界は我らの手に落ちた!この世界は我らの物だ!」
言い返すことのできる人間はもはや誰もいませんでした。
「我らに不要と思われたが最後。この世界に貴様らの居場所は無いと知れ」
鬼が世界の王となった瞬間でした。
「世界に居場所が欲しければ、死ぬ気で我らに尽くすことだ!はーっはっは!」
✳︎
世界を鬼が掌握してから、人間は皆、鬼の家畜と化していました。
鬼の機嫌を損ねないために必死で働き、税を納め、その日を暮らすだけで精一杯な有様です。
人間に抵抗する気力はありませんでした。
桃太郎達がやられ、侍達もやられた以上、人間達に戦う力は残されていないからです。
おばあさんは桃太郎が攫われてしまった深い悲しみに暮れながらも、いつか再会できる日を夢見ながらその日を生きるために必死に働いていました。
おじいさんは、
「ふっ、ふっ……!」
「……おじいさん……」
おじいさんは鬼が世界を掌握してからずっと、何かに取り憑かれたように厨房にこもり、ひたすらにきび団子を作っていました。
それからというもの、おじいさんはおばあさんの言うことに耳を貸すことが無くなり、一日のほとんどを厨房で過ごすのです。
「おじいさん、いつまで団子を作っているんですか?いい加減にしてください」
「ふっ……ふっ……!」
「おじいさん……」
あれほど仲良しだったおじいさんおばあさんの間にはいつしか溝が生まれており、おばあさんはおじいさんの姿を見ることが辛くなっていました。
おじいさんの顔からは感情が失われており、頬は瘦せこけ、まるで生気が抜けていっている最中のようです。
「いい加減になさい!おじいさん!」
とうとう我慢できなくなったおばあさんはおじいさんを羽交い締めにし、作業の手を止めます。しかし、
「放せ!」
「きゃあっ!?」
おじいさんは乱暴におばあさんを振りほどいてしまいます。 そして、再び、取り憑かれたように団子作りを再開するのでした。
「うぅ……」
おばあさんは涙し、どうすることもできずにただただ悲しみに暮れるのでした。
✳︎
ある晩。 生きていくことにくじけそうになり、枕を涙で濡らすおばあさんでしたが、
「できたぁああ!」
「!?」
久しく聞くことの無かったおじいさんの声……それも大きな声がおばあさんの意識を覚醒させます。 何事かと思った時には、おじいさんがおばあさんの枕元に立っていました。
身体を起こし、おじいさんに何事かと尋ねるよりも早く、
「できだぞ!ばあさん!」
「ど、どうしたんです?おじいさん」
「希望じゃ……!わしはとうとう作り出すことができたのじゃ!」
そう言っておじいさんが見せてくれたのは二つの光る団子でした。 おばあさんはおじいさんの正気を疑いつつも、おじいさんに尋ねます。
「この団子がどうしたっていうんです?」
「これはただのきび団子ではない……!伝説のきび団子じゃ!」
「伝説のきび団子……?」
おじいさんはうむと深く頷き、説明をしてくれます。
「一度これを食わせた者はどんな極悪人でも従わせることができる」
「!」
それはつまり、鬼をも超える強者をも従わせることができるということ。 おじいさんが興奮するのも無理はありません。鬼に対する人間の唯一の切り札と言っても良いでしょう。 しかし、
「一体、誰に食べさせるつもりですか?」
「……っ……むぅ……」
「この世界で一番強いのは鬼です。ですが、鬼を二人味方につけただけではどうにもなりません。鬼の数は万を超える大軍となっているのですから」
「……くっ……!奇跡を起こして作ることができたというのに……!ワシらにはどうすることもできないというのか……!?」
おじいさんはどうしようもない現実を前に、膝をついてしまいました。
「桃太郎や……!無力なジジイを許してくれぇ……!うぅ……」
「……おじいさん……」
『あなたの強き信念、しかと見届けました』
「「!?」」
突如として語りかけられる若い女の声。 おじいさんとおばあさんは辺りをキョロキョロと見回してみますが、どこにも女の姿は見当たりません。
「だ、誰じゃ!?」
『わたしは神です。あなた達の心に直接語りかけているので姿は見せられません。ご容赦ください』
「か、神様じゃと……?」
『はい』
突然の突飛な状況に、おじいさんとおばあさんは目を丸くしました。
『おじいさん……あなたは絶望に屈することなく一人戦い続け、そして見事に神業を為してみせました』
「おじいさんの神業……?もしかして……」
『そう。その団子ですよ』
「「!」」
『その団子には確かに神の力が宿っています。間違いなく、効力を発揮してくれることでしょう』
「ですが神様……ワシの団子じゃどうにもなりませんのじゃ……」
『存じています。だからこそ、報いに来たのです』
「「……?」」
揃って首を傾げるおじいさんとおばあさんに、女神様は言います。
『今からあなた方を異世界へと連れて差し上げます』
異世界……おじいさんとおばあさんには聞き馴染みの無い言葉でした。
『ここではない遥か遠い世界……そこで鬼の大軍をも圧倒できる存在を味方につけるのです』
「「!」」
『もちろん危険は伴います。拒むとしても誰も責めることはできません』
鬼をも圧倒する存在が闊歩する世界……想像するだけで恐ろしい話ですが……
『どうしますか?』
女神様の問いかけに、おじいさんとおばあさんは目を合わせて深く頷き合ってから答えます。
「頼む女神様……!ワシを異世界に連れていってくれ!」
「お願いします!女神様!どうかワタシも異世界へ連れていってください!」
『……分かりました』
姿は見えませんが、女神様が微笑んでくださったように答えました。
『それでは転移を開始します』
女神様がそう言うと、途端に場が強い光に包まれます。転移の術です。
「「!?」」
『いいですか?これより向かう先はこの時代の遥か未来……こことは似て非なる世界です』
女神様が異世界の説明をしてくれます。
『あなた方が味方につけるべき者の姿を示します』
おじいさんとおばあさんは目ではなく、頭でその姿を認識しました。
「こいつは……?」
『鬼をも圧倒する強力な存在です。名前は……』
女神様より聞き馴染みの無い名前を告げられると、
「「!?」」
とうとう転移が発動するのでした。
さて、どのような世界に転移するのでしょうか?誰も予測できない展開になるかと思います。よろしければ続きもお願いします。