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嫌われ勇者  作者: お茶大好きなお茶目さん
9/10

食事処


「あれは宿屋で、あそこが魔道具屋でーー」


大通りを歩きながら、ミミリィの説明に耳を傾ける。


僕は文字すら読めないし、まともに街中を歩いた事がなかったから良い勉強になる。

いつもなら、僕が道を尋ねたら逃げられるし、僕が歩いてるだけで気味悪がられるし、終いには嫌がらせを受けていたのにね。


ミミリィが側に居るだけで、僕と言う存在が緩和されている気がする。


だって、誰も僕に攻撃を加えたり、吐き気を催したり、嫌悪や恐怖の表情を浮かべたりしないもん。


…気味悪がられるのは変わらないけどね。


度々、子供に指差される事もあるけど、親が保護して連れ去って行くから何も問題はない…と思う。


でも、まぁ、ミミリィが居なければ、きっと僕は子供に指差される事もなかっただろうけどね。

だって、僕が見ただけで座り込んで泣き始めるもん。


「聴いてます?」


「うん、聞いてるよ」


「そうですか。それじゃあ、続けますね」


そう言ってから、続きを話す。


「あの赤い屋根の建物が”冒険者ギルド”。その隣の青い屋根が”魔道ギルド”。見分け方は、看板を見れば分かりますよ。剣と槍が”冒険者ギルド”で、杖とスクロールが”魔道ギルド”です」


成る程。


”冒険者ギルド”は聞いた事がある。

冒険者を名乗る人達が僕を討伐しようとして来た事がよくあったから、その人達の口から直接聞いた。


けれど、”魔道ギルド”は聞いた事がない。

どんな事をする所なのかサッパリだ。


それから暫く、ミミリィに街中を案内してもらい、太陽が真上に登った頃。僕はお腹が空いた。


案内も一段落した所だし、丁度良いタイミングだと思う。


「ミミリィ。さっき教えてくれた中で食事できる所って、あったかな?」


「えっと…ない、かな?」


案内した箇所が多過ぎて、何を案内したのか覚えていないような反応だ。

僕の記憶では案内してもらってなかったけどね。


「だったら、僕みたいな人でも入れる所に案内してくれないかな?」


「…?分かりました」


ミミリィは僕の意図を掴めないでいるようだけど、案内してくれるみたいだ。


そして、ミミリィの案内の元、辿り着いたのは少し薄暗く感じる路地に位置するボロボロの食事所。

看板には皿にスプーンとフォークが乗ってる絵があるから、間違いないと思う。


「ここなら大丈夫だと思います。でも、どうして?」


「お腹空いたから」


ミミリィの小さな疑問に答えてから、僕は食事所に入って行く。

続いて、ミミリィも追い掛けるように食事亭に入った。


「あっらぁ、いらっしゃ〜い。お二人様ですねぇ〜、って、あらぁ?ミミリィちゃんじゃないの。どうしたのぉ?」


入ってすぐに声を掛けてきたのは、巨漢の男だった。

喋り方は少しアレだけど……あれ?どこかで見覚えが…?


「えっと…」


ミミリィは僕をチラリと見て、


「今日は食事を取りに来ました」


「そうなのねぇ。残念だわぁ。でも、ミミリィちゃんったら、男を連れてくるなんてーー」


僕と目が合った瞬間、男は驚愕に目を見開いて、歯をガチガチと鳴らし始めた。


「し、死神ッ!?や、やめっ!殺さないでくれっ!お、俺は何もしてない!何もしてないんだぁ!!」


腰を抜かせた男は、尻餅を着いた後、ガクガクと震える両足を引きずるように僕から距離を取ろうとする。

しかし、すぐに壁と言う名のカウンターに背を当てて、その場で頭を抱えて縮こまった。


どうしてそこまで怯えるのか。疑問しか浮かばない。


いや、心当たりがない事はないのだけど、有り過ぎて分からない。

なにせ、破壊した街や村は数知れず、襲い来る冒険者や盗賊を皆殺しにしたのは数え切れない程にあるのだから。


だから僕は、記憶の片隅に残る彼を思い出す事が出来ないでいる。


「ど、どうしたんですか?アーリーさん」


男ーーアーリーの言動に驚きを隠せないでいるミミリィが彼の側に寄ろうとした。その瞬間、


「すまなかった!あの時は本当にすまなかったと思ってる!だから、殺さないでくれっ!頼む!頼むぅぅ!!」


アーリーは狂ったように頭を何度も地面に打ち付けて謝罪を口にし始めた。


そんな彼を見た事ないのか、驚きながらも引くミミリィ。


僕だって、こんな無様な人を見た事無い……とは言えない。


取り敢えず、僕はお腹が空いている。

別に、その辺に生えてる草でも、虫でも、魔物でも、口に入れば何でも構わないのだけれど、美味しい物を食べれるのならば食べたいじゃないか。


「君が誰かは知らないけれど、僕達はお客さんだよ?早くご飯を作ってくれないかな?」


「は、はいぃぃ!!」


少し催促しただけなのに、アーリーは僕から逃げるかのように厨房へと四つ足で駆けて行った。


「アーリーさん、どうしたのかな…?」


何も知らないミミリィは不思議がってばかりだ。

僕も、彼が怯えている理由が良く分からないけど。


ミミリィに勧められるまま机席に座り、食事が出来上がるのを待つ。


店内は誰も居なくて、閑古鳥が鳴きそうな程に静かだ。

そんな中でミミリィの疑問が静かに響く。


「ケイイチさん、アーリーさんと何かあったんですか?」


「有ったと言えば、有ったんだと思う。けれど、何が有ったのか分からないんだよね…」


彼と何処で会ったのかさえ分かれば、思い出せると思う。


「凄く怯えてましたけど…」


「怖がられるのはいつもの事だよ」


「………」


何とも言えない表情を浮かべたミミリィ。


それから暫く無言で居ると、アーリーが顔を真っ青にして、カタカタと震える手で料理を運んで来た。


今にも料理を落としそうなほどに全身が震えているのには、少し笑いそうになった。


「お、お待たせ致しました…」


震える手で料理を机に置いて行く。

その量は、とても多い。

10人分を運んで来たのではないか、と思ってしまうほどだ。


でも、僕にとっては嬉しい事でもある。

美味しい物を沢山食べれるんだもん。嬉しくないはずがない。


「アーリーさん…」


ミミリィが心配そうな顔でアーリーを見る。

僕も吊られて見ると、その顔は青を通り越して白くなっていた。

今にも倒れてしまいそうだ。


「だ、大丈夫だよ、ミミリィちゃん。私は、大丈夫。大丈夫だから…」


まるで自分に言うかのように『大丈夫』を連呼するアーリー。

絶対に大丈夫じゃないはずだ。


全ての料理を机に置くと、アーリーはフラフラと何度も倒れそうになりながら厨房へと戻って行った。


「す、少しアーリーさんの様子を見て来ます」


そう言って、厨房へ向かったアーリーの後を追って行った。


………お腹空いてるし、先に料理を食べていよう。


「頂きます…」


料理を食べながら、厨房に聞き耳を立てていると、彼等の話し声が聞こえてくる。


「ミミリィちゃん。あの人は絶対に怒らしちゃダメよ」


「えっ…と、突然どうしたんですか?」


「前に一度だけ話した事があるじゃない?私が冒険者だったって」


「確か、人生をやり直す為に辞めたって…」


「そう。そうなのよ。何を隠そう、私は元Sランク冒険者だったのよ。そんな私が冒険者を辞めた理由が、あの人なの。あの人は本当に危険なの。だからね、ぜーったいっに彼を怒らせちゃダメよ。良いわね?」


「は、はい」


声から判断するに、アーリーは釘を刺すように言ってるけど、ミミリィは困惑気味なようだ。


それにしても、Sランク冒険者…何処かで聞き覚えがあるような…あ、この肉美味しい。


「それじゃあ、私は少しここで休憩させてもらうわ。……気を付けてね」


どうやら今ので会話を終えたようで、ミミリィが厨房から戻って来た。


「どうだった?」


椅子に着いたばかりのミミリィに、アーリーの様子を尋ねる。

ある程度は声で判断できているけれど、魔法を使わなければ状態までは把握しきれないからね。


「疲れていたみたいで、少し休むそうです」


「そうなんだ」


それから無言で食事を取る僕とミミリィ。

僕は、ただ単に料理が美味しいから食べるのに一生懸命なだけだけど、ミミリィは何かを考えているようで、余り食事の手が進んでいない。


それはダメだ。


食べれる内に食べなきゃ、いざって時に体が思い通りに動かなくなってしまう。

いついかなる時にでも、身体は万全にしておかなけれらならない。


だから、僕は彼女の疑問を解消してあげようと思った。


「気になるの?」


「えっ…」


「アーリーと僕の関係」


「えっと…その…はい…」


図星だったのか、ミミリィは目を見開いて僕を見た後、視線を机の上の料理に向けて小さく頷いた。


けれど、僕はまだアーリーとの関係を思い出せてない。

だから、とは言えないないが、ミミリィには申し訳ないけど諦めてもらおう。


「実は、僕も知らないんだ。アーリーの事を覚えてないんだよ」


事実を告げた。

何事も、真実を教えるのが一番だ。

まぁ、場合によっては嘘を付く方が良い時もあると思うけど。


「だから、食事をしよう。……もうほとんど残ってないけどね…」


視線を料理に向けてみれば、10人分ぐらいあった料理は、半人分程しか残ってなかった。

要するに、ミミリィの取り皿の上に置いてある料理だけしかなかった。


なんだか申しなく訳感じる。


だけど、ミミリィは何も言わずに食事に手を付けた。

彼女が食べ終えるのを待ちながら、僕は店内を見渡す。


これと言って特徴すべき事や、目に付く物などもない。普通の飲食店だ。

外見はボロ屋だったけど、内装は案外綺麗で、建て付けもシッカリとしている。


カチャリと食器を置く音が聞こえ、そちらへと視線を向けると、ミミリィが食事を終えていた。


「少し待ってて。会計を済ませてくるから」


ミミリィが頷くのを確認してから、僕は立ち上がって厨房へと向かう。


この店にいる店員は、アーリー1人だけのようなので、厨房に行かなきゃ会計ができない。


まだお金の価値観を僕は知らないけれど、あれだけ僕に怯えてた人ならば、お金をくすねようとはしないだろう。


そう思って、僕は1人で厨房へ向かった。

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