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わかめ迷子事件

 だけどそれから2年程過ぎたある日のこと。

 とても不幸な事が起こってしまいました。

 私の家の猫部屋に、とある業者の人たちが入って、ある作業をしていたら、わかめがパニックになって逃げ出してしまったのです。

 わかめが逃げ出したのはわずか4センチ程の隙間。よくもまあそんな狭い隙間を通り抜けたものです。

 猫の体ってどうなっているのか、本当に謎です。

 だけど猫は、頭が通りさえすれば、どんなに狭いところでも通り抜けられるそうです。

 とにかく業者の人間の作業を見て、猫土間のトレリスの柵の天辺まで昇り、トレリスと天井との、そのわずか4センチの隙間を通り抜けて、出て行ってしまったのです。

 きっと、このままじゃ殺されるとでも思ったのでしょう。

 懐いているといっても、本質的には警戒心のかたまりのような仔ですから。

 それで、NPO法人の人に、

「大変申し訳ありません。わかめが迷子になってしまいました」とお詫びの電話をすると、その方が貴重な事を教えてくれた。

 それは、

「一度も外へ出たことのない猫は、脱走しても決して遠くへは行きません。せいぜい50mくらいの距離の、どこかに潜んでいる筈ですよ」というのです。

 そしてその翌日、その方に捕獲器を貸してもらいました。


 捕獲器は、猫の保護なんかのために使われていて、保護→里親探しというプロセスの他に、「地域猫活動」というものにも使われます。

 地域の野良猫を捕獲器で保護して、獣医さんに連れて行って避妊、去勢手術を行い、またその場所に放します。

 すると発情しなくなり、もちろん繁殖もしなくなり、不幸な仔猫が生まれてしまうことも避けられますし、もちろん猫の数も増えません。

 そしてNPO法人で餌を与え、トイレなんかも用意してあげます。

 するとそれらの猫は、その地域を縄張りにして、しかも食べ物には不自由しないので、泥棒猫をやる必要もなく、糞尿で街を汚すことも減り、だから人間に迷惑をかけることも少なくなります。

 それは、その地域のみんなで飼っている猫とも言えると思います。

 地域の子供たちが可愛がったりも出来ますし。

 そして、そうやって動物に触れあって育った子(人間の子)は、猫殺し、はたまた人殺しなどをやらかすリスクが少なくなるのではないだろうか。

 私は勝手にそう考えています。

 そして地域猫になったその猫は、幸せな、一代限りのにゃん生を過ごすことが出来るのです。


 それで、わかめの話の続きです。わかめ捜索、救出のため、わかめの行きそうな場所に数ヶ所、捕獲器を置き、近所にビラを配りました。

 ビラにはわかめの写真と、私の連絡先を書いておきます。

 するとその翌日の夜、近所の方から電話がありました。

 猫の声がするというのです。

 それで行ってみると、その方の家の近くの木の下に、この辺を縄張りにする猫がいました。わかめではありません。

 だけどその方は、木の上にもう一匹いるというのです。

 そこは団地のガス基地と言われる、プロパンガスのボンベがまとまって置かれた小屋のある場所。

 周囲には金網のフェンスが張り巡らしてあり、中には入れない。

 そしてそのフェンスの中に、その木が茂った場所があったのです。

 それで、フェンス越しに懐中電灯で照らしてみると、木の上で目が光りました。

 どうやら縄張り猫に威嚇され、木の上に避難している様子。

 とにかくわかめは(わかめに限らないけれど)何かに威嚇されると、高い所へ避難するようです。

 わかめは白にキジ。

 顔はずれたかちわれで、体はほとんどキジで、首が白です。

 だから正面から見るとほとんど黒です。

 だけど懐中電灯で照らし、よく見ると、ちょうど首を動かした時に、わかめの白い首が確認できました。

(やった! わかめ、いたぞ♪)

 ともかく、それから私は木の上のわかめに、「わかめ~~~!」っと呼んだけれど、もちろん反応ありません。

 猫という生き物は、住み慣れた場所を離れると、警戒心の塊になります。

 しかも猫部屋では業者の豪快な作業を見て「殺される」と思って逃げ出し、その上、多分その縄張り猫にも威嚇され… 

 それはそうと、ちなみに、電話をしてくれた方は、

「へ~、この仔、わかめちゃんというんですか。じゃ、他の仔は? かつおくんとか?」とか言って、それからその方も、

「わかめちゃ~~ん♪」と呼んでくれたけど、もちろんわかめはまったく動きません。

 それどころか、さらに後ずさりしようとしましたが、木の枝が邪魔になり、それ以上後ろへも下がれません。(わかめは困ったときは、まず後ずさりをやります)

 いずれにしてもわかめは身動きできない様子。

 それで、ともかくそのガス基地のフェンスの前に捕獲器を置き、(中に入れたエサはキャットフードとかつお君)それから様子を見ることにし、その方にも、

「そっとしておいてください。万一捕獲器に入って、中でぎゃーぎゃー言ってご迷惑の場合は、夜中でも構いませんから、どうかお電話ください」と頼んで、一度家に帰りました。

 それが夜10時頃。

 ちなみに、捕獲器にはバスタオルや毛布なんかを掛け、いかにも金属的な物々しい雰囲気をカモフラージュしておきます。

 猫は「隠れ家」という雰囲気の場所が好きなのです。


 さて、それから深夜の1時半ごろ、様子を見に捕獲器の所へ行ってみると、掛けていた毛布が半分はがれていました。

 もしや? と思い、そして懐中電灯で捕獲器の中を照らすと「しゃ~!」っという声。

 そして懐中電灯で、よくよく体を照らしてみると、黒っぽい部分と白っぽい部分が混ざったような動物!

 少なくとも白キジのわかめに矛盾しない姿。

 だけど暗くてよく分からない。

 それで捕獲器を抱え、家に持ち帰り、明るい所で見てみると、間違いなくわかめでした。


 やったぁ!


 それから捕獲器ごと猫部屋へ入れ、猫缶を小皿に出してから捕獲器の前に置き、それからそっと捕獲器を開けると、わかめが恐る恐る出てきて、辺りをうかがっていました。

 それで私が、「わかぁ~~~~~めちゃん。よかったね!」と言うと、突然わかめの顔が優しくなり、それからみゃーみゃーいいながら、猫缶をがつがつ食べ始めました。

 腹ペコだったはず。

 脱走32時間後の保護成功でした。

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