第21話「最高環境責任者(CEO)の帰還と、魅惑の魔導チェア」
その日の午後。
新興錬金術師ギルドの施設は、文字通り「物理と書類の挟み撃ち」に遭っていた。
「ひぃぃっ! なんなんだお前は!」
「ふははは! この『産業廃棄物処理法違反』および『ギルド規約第12条違反』の証拠書類が見えねえのか! てめえらの裏帳簿はすでに俺が完全に解読した! 脱税の追加徴収だけで、お前ら全員、炭鉱行きだ!」
ザックが分厚いバインダーで錬金術師のリーダーを壁に追い詰め、完全にマウントを取っていた。
一方、外の下水道周辺では。
「はぁぁぁッ!! 浄化の光!!」
ズドォォォン!!
アリスの聖剣から放たれたまばゆい光が、巨大化した汚泥スライムの群れを、街の石畳を傷つけることなく一瞬にして蒸発させていた。
「見よ! あれがかつて街を綺麗にしてくれた、白銀の清掃騎士様だ!」
「アリス様が帰ってきてくださったぞ!」
避難していた市民たちが、歓声を上げてアリスを取り囲む。
アリスは額の汗を拭い、堂々と宣言した。
「市民の皆様! 安心してください! ルーク事務長の命により、私アリスは本日をもって、この都市の『最高環境責任者(CEO)』に復帰いたしました! もう二度と、不届き者にこの街を汚させはしません!」
ワァァァッ!! と沸き起こる大歓声。
その報告はすぐに領主(アリスの叔父)の耳にも入り、「やはりアリスにはあの役職が天職なのだ。ルーク殿の適材適所の人材運用、恐るべし……!」と、またしてもルークの評価が勝手にストップ高を記録することとなった。
夕方。
問題の錬金術師ギルドは完全解体され、首謀者たちは領主の騎士団に引き渡された。
ギルドの執務室には、凱旋したアリスとザック、そしてなぜか大きな布を被せられた「謎の物体」が置かれていた。
「ルーク殿! 任務、完了いたしました! スライムは完全駆除、悪徳業者は摘発済みです!」
「ルーク様。奴らの隠し金庫から、違約金と罰金として金貨百枚を徴収してきました。これで我がギルドの今期の黒字は盤石です」
「お、おう。二人ともご苦労だった(金貨百枚!? どんだけ追い剥いできたんだ……)」
ルークは二人の過剰な戦果に若干引きつつも、労いの言葉をかけた。
「そしてルーク殿! こちらを!」
アリスがバサッと布を取り払う。
そこに現れたのは、漆黒の高級な革で覆われ、肘掛けに謎の魔石が埋め込まれた、見るからに座り心地の良さそうな巨大な椅子だった。
「これは……?」
「錬金術師ギルドのマスターが、自分用に開発していた最高傑作の魔導具『絶対安眠チェア』です!」
アリスが誇らしげに説明する。
「座る者の体型に合わせて座面が自動変形し、内蔵されたスライムの弾力が極上の座り心地を提供します。さらに肘掛けの魔石が『最適な室温』と『完全防音の結界』を半径一メートルに展開し、外部のストレスを一切遮断する魔法の椅子! 悪徳業者から没収し、我らが総帥であるルーク殿への献上品としてお持ちいたしました!」
(な……なんだその、俺の事なかれ主義のために作られたような神アイテムは……!!)
ルークの目が、かつてないほどに輝いた。
「素晴らしい……! アリス、ザック。お前たちの働きは見事だ。この椅子は、私の『深遠なる思考(という名の昼寝)』のために有効活用させてもらおう」
ルークが震える手でその魔導チェアに腰を下ろすと、椅子が優しく体を包み込み、適度な暖かさと静寂が彼を包み込んだ。
「……あぁ、ダメになりそうだ」
「ルーク様が、深い瞑想に入られたぞ……!」
「静かに。都市防衛の次なる一手(マクロ戦略)を練っておられるのです。我々は外で警備にあたりましょう」
二人の勘違いした部下は、安眠の結界に包まれてうたた寝を始めたルークを崇拝の眼差しで見つめ、そっと執務室を退室していった。
かくして、アリスは念願の「CEO(新規事業・環境防衛部トップ)」としてギルドに正式に返り咲き、ルークは「絶対に邪魔されない最高のサボり環境」を手に入れたのだった。
ルークが欲しかった「平和」を具現化したようなアイテムをゲットし、アリスも本来の輝きを取り戻しました。




