表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/21

第19話「粉飾決算の看破と、完全なる出向(左遷)」

翌日。王都の王城、大広間。

ルンデルハウス大公の最終査問会議が開かれていた。


「見よ、この帳簿を! 大公領の税収と、国庫への納入額に『金貨一万枚』ものズレが生じておる! これぞ横領の動かぬ証拠!」

バルバトス侯爵が、勝ち誇った顔で分厚い羊皮紙を突きつけている。大公派の貴族たちは反論できず、アリスの父である大公は青ざめて俯いていた。


「もはや申し開きはできまい! 衛兵、大公を捕らえ……!」


「お待ちください」


大広間の重厚な扉が開き、響き渡ったのは、底冷えするような平坦な声だった。

アリスを伴って現れたのは、仕立ての良いスーツ(のような黒い礼服)に身を包み、分厚いバインダーを抱えたルークである。


「な、なんだ貴様は! 外部の人間が神聖な会議に……!」

「私は大公家の『外部監査役(ただの助っ人)』として参りました、ルークと申します」


ルークは侯爵が突きつけた帳簿を手に取ると、パラパラと一瞥し、鼻で笑った。


「侯爵閣下。こんな『単式簿記(お小遣い帳)』で、大公ほどの国家予算を監査しようとは、王室の経理レベルも随分と牧歌的なのですね」

「な、なにぃ!?」


ルークはバインダーを開き、徹夜でザックに書き写させた「エクセル風・複式簿記」の巨大な表を、会議の円卓にバサリと広げた。


「ズレが生じている金貨一万枚。これは横領ではありません。領内の治水工事に対する『インフラ投資』として処理されており、すでに今年度の『減価償却費』として適正に計上されています。つまり、帳簿上の利益が減っているだけで、キャッシュ(現金)が消えたわけではない。これは基礎的なファイナンスの概念です」


「げ、げんか……なんの魔法の呪文だそれは!」

侯爵が顔を赤くして吠える。


「さらに」ルークの反撃は止まらない。

「侯爵閣下が提出された、この監査資料。よく見ると、調査費用として『裏ギルドへの工作資金』らしきものが『交際費』として計上されていますね。これは明らかに税法上の損金不算入……つまり、侯爵閣下ご自身の『粉飾決算』および『脱税』の証拠エビデンスとなりますが」


「なっ……!?」

侯爵の顔から一瞬で血の気が引いた。ルークは、敵の提出した証拠書類の中から、逆に敵の不正を数式と論理の力で暴き出したのだ。


「そんな馬鹿な! そのような難解な数字のカラクリ、誰も理解できるはずが……!」

「理解できなくても、事実としてここに数字が合致バランスしております。……違いますか?」


ルークが冷徹な視線を向けると、侯爵派の監査官たちは、その完璧すぎる帳簿の前に誰一人として反論できず、目を逸らした。

勝負は決した。


「衛兵! バルバトス侯爵を、国家反逆および横領の疑いで拘束しなさい!」

アリスの凛とした声が響き、侯爵は崩れ落ちるように連行されていった。


数時間後。大公の執務室。


「ルーク殿。貴方のその知略がなければ、大公家は今頃滅んでいた。なんと礼を言えばよいか……!」

アリスの父、ルンデルハウス大公が、ルークの手を固く握りしめて感涙にむせいでいた。


「いえ、私はただ『数字の辻褄』を合わせただけでして……(これでギルドが燃やされずに済む、よかった)」

ルークは愛想笑いを浮かべながら、早く辺境のぬるま湯に帰りたくてウズウズしていた。


「しかし、今回の件で王都は魔窟だと痛感した」

大公が深刻な顔で、アリスを見る。

「アリスよ。お前は真っ直ぐすぎる。このまま王都の中枢にいては、いずれまた侯爵のような輩に謀殺されかねん。……お前には、真の『生き残るための政治力』を学ぶ必要がある」


「父上……」


「ルーク殿!」

大公が突然、ルークに向かって深々と頭を下げた。

「我が娘アリスを、貴方のギルドへ『出向(※事実上の左遷兼保護)』させてはいただけないだろうか! 期間は無期限。貴方の側近として、その深遠なる帝王学を学ばせてやってほしい!」


「えっ」

ルークの笑顔が固まった。


「よろしいのですか、父上!」アリスの顔がパァッと輝く。

「はい! ルーク事務長の『エグゼクティブ・アシスタント(専属秘書)』として、ギルドのコンプライアンス維持に一生を捧げる覚悟です!」


(ちょっと待て。なんで俺の直属に、王族の超武闘派エリートが常駐することになってるんだ!?)

ルークは内心で激しくツッコミを入れたが、相手は大公である。ここで断れば、不敬罪で首が飛ぶかもしれない。


「……喜んで、お引き受けいたします」


ルークは引きつった笑顔で、そう答えるしかなかった。


かくして、王家のお家騒動は、事なかれ主義のおっさんによる「書類上の暴力」によって解決された。

そしてその代償として、ルークの辺境での平穏な生活には「絶対に逆らえない超強力なVIPの専属秘書」が、物理的に居座り続けることになったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ