第13話「領主の視察と、帝王学(という名の屁理屈)」
「おのれギルドマスターめ……我が可愛いアリスを、ゴミ拾いなどという下働きに使っているとは!」
その日、ギルドに激怒した領主(アリスの叔父)が、護衛の騎士団を伴って乗り込んできた。
視察に訪れた彼は、街角でほうきを持ってゴミを掃いているアリスの姿を見て、卒倒しそうになったのだ。
「責任者を出せ! 姪は次期騎士団長候補だぞ! すぐにアリスを連れて帰る!」
領主の怒鳴り声に、ギルドのロビーは凍りついた。
執務室から出てきたルークは、胃薬(ファンタジー世界の胃薬)を水で飲み下しながら、領主の前に進み出た。
「領主閣下。誤解でございます。アリス様は下働きなどしておりません。彼女は現在、当都市における『最高環境責任者(CEO)』として、マクロな視点から都市防衛を学んでおられるのです」
「寝言を抜かすな! 剣を振らずして、何が防衛だ!」
領主がルークを睨みつけた、その時だった。
「お言葉ですが、叔父様(閣下)!」
ロビーの入り口から、アリスが堂々とした足取りで入ってきた。その顔には、以前のような戦闘狂の面影はなく、知的で落ち着いた「できるビジネスウーマン」の風格が漂っていた。
「アリス! お前、そんな薄汚れたほうきを持って……!」
「これは『都市の基盤を正すための杖』です。叔父様、剣を振るうだけが防衛ではありません」
アリスは領主の前に立つと、ルークの受け売りを、100倍の情熱を込めて語り始めた。
「私はルーク殿から学びました。真の脅威は、ドラゴンや魔物だけではないと。道端のゴミ一つが市民の心を荒ませ、治安の悪化を招き、やがては経済を衰退させる。剣は目の前の敵しか斬れませんが、環境と規律を整えれば、都市全体を根本から守ることができるのです!」
「な……」
領主は絶句した。
「ルーク殿は、私に『人を動かすシステム(コンプライアンス)』と『予防的防衛』という、真の帝王学を授けてくださったのです! このような素晴らしい教育環境を、手放すわけにはいきません!」
領主は震える目で、ルークとアリスを交互に見た。
単なる戦闘マシーンだった姪が、都市の経済や治安のメカニズム、そして為政者としてのマクロな視点(?)を身につけている。
「……ま、まさか。ただのギルドの一事務員が、我が姪に王族すら持ち得ない高度な統治理論を叩き込んだというのか……!」
領主のルークに対する視線が、「無礼な平民」から「底知れぬ賢者」へと変わった瞬間だった。
(違う。俺はただ、あいつに怪我をさせないように安全なところで遊ばせておいただけだ)
ルークは顔を引きつらせながら、ただ無言で頭を下げた。




