第13話「帝王学(という名の屁理屈)」
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「おのれギルドマスターめ……」
「我が可愛いアリスを、ゴミ拾いなどという下働きに使っているとは!」
その日、ギルドに激怒した領主(アリスの叔父)が、護衛の騎士団を伴って乗り込んできた。
視察に訪れた彼は、街角でほうきを持ってゴミを掃いているアリスの姿を見て、卒倒しそうになったのだ。
「責任者を出せ! 姪は次期騎士団長候補だぞ! すぐにアリスを連れて帰る!」
領主の怒鳴り声に、ギルドのロビーは凍りついた。
執務室から出てきたルークは、領主の前に進み出た。
「領主閣下」
「誤解でございます。アリス様は下働きなどしておりません。」
「彼女は現在、当都市における『最高環境責任者(CEO)』として、マクロな視点から都市防衛を学んでおられるのです」
「寝言を抜かすな! 剣を振らずして、何が防衛だ!」
領主がルークを睨みつけた、その時だった。
「お言葉ですが、叔父様(閣下)!」
ロビーの入り口から、アリスが堂々とした足取りで入ってきた。
その顔には、以前のような戦闘狂の面影はなく、知的で落ち着いた「できるビジネスウーマン」の風格が漂っていた。
「アリス! お前、そんな薄汚れたほうきを持って……!」
「これは『都市の基盤を正すための杖』です。叔父様、剣を振るうだけが防衛ではありません」
アリスは領主の前に立つと、ルークの受け売りを、100倍の情熱を込めて語り始めた。
「私はルーク殿から学びました。」
「剣は敵しか斬れません!」
「ですが、5Sは都市を救います!」
「整理!」
「整頓!」
「清掃!」
「清潔!」
「躾!」
「……」
「これこそ最強の防衛です!」
「な……」
領主は絶句した。
「ルーク殿は、私に『人を動かすシステム(コンプライアンス)』と『予防的防衛』という、真の帝王学を授けてくださったのです!」
「 このような素晴らしい教育環境を、手放すわけにはいきません!」
領主は震える目で、ルークとアリスを交互に見た。
そこにいたのは、剣しか知らなかった少女ではない。
国を語る為政者の顔だった。
「……ま、まさか。」
「国家を統べる理を教えたというのか……!」
(違う。俺はただ、怪我をさせたくなかっただけだ)
ルークは引きつった笑みを浮かべ、黙って一礼した。
――その沈黙は、領主には「肯定」と受け取られた。
「……なるほど」
「本物の賢者とは、自らを語らぬものか……」
(違う。本当に違う)
そして、その勘違いは王都へと運ばれていくことになる。
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