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2 約束の日

あの約束から7年後......。


「ママ、パパ、行ってきます」


家族の想い出が眠る家に挨拶をし、ペンタはあの丘へ向かう。

今日はちょうどペンタが20歳になった日。


(誕生日なんていつから祝ってないだろう)


特別になる筈だったこの日は、ペンタにとってはまた別の意味で特別になる。


丘に着き、景色を眺める。

あの時交わしたあの約束を果たす日がついにきた。

あの後、朝起きるとサルビアの姿はなくなっていた。

ペンタは夢だったんじゃ?と思ったが、丘の隅にひとつだけ白い花が咲いているのを見て現実だったと確信した。

それからは7年後を夢に見て毎日ひたすら歌の練習をした。サルビアの横に並んでも恥じないアイドルになりたくて。


(今までありがとう)


丘に向かって一礼し、ペンタは門を目指す。


(今日出る人、私以外にもこんなにいるんだ……)


門の前には数人の列ができていた。

ペンタは1番後ろに並び、証書を出す。


―――――――――――――――――――

         【許可証】


  下記の者、満20歳を過ぎた事を証明する。

  レア度についても”J”だった為、許可を出す。

その場の判断については、門番に全て託す事とする。


      ◯ ペンタ・レーチェス◯

――――――――――――――――――――


(良かった、これでやっとこの街を出られる)


役所が前日から受け付けてくれたお陰で、なんとか当日に証書を受け取ることができた。

これを見せれば他に問題がない限り、門を通る事が許される。


ちなみに、レア度について。

AJQKの順でレア度が定められている。

AJの者はレア魔法。

QKの者はレアではなく、そこまで強くない魔法。

AJとQKの二つにもそれぞれ強さや、レア度の差はあるが、基本は一緒にまとめられる。



「次の者!」


はいよ、と返事をしてペンタの前に並んでいた人物が門番の前に出る。


(お爺さん、大丈夫かな)


腰も曲がり、ヨロヨロと進む老人を心配そうに見るペンタ。


「証書を見せろ」


老人はノロノロと皮でできた鞄を開き、漁り始める。


「早くしろ」


門番が急かし始める。


「ちょいと待ってくれ。あれえ、可笑しいなあ。ここに入れたと思ったんだが」


「よこせっ!」


門番は我慢の限界が来たのか、手荒く老人の鞄を奪い中を見る。


「あるじゃないか」


鞄から出てきたのは、クシャクシャによれた証書。

門番が紙を開くと、黄ばんで所々破れていた。


「おい、貴様。この証明はいつ頃申請したやつだ?」


「あーっと、いつだったかな。もう90年も生きていると記憶が曖昧でなあ」


「悪いが、この門を通す事はできん。帰れ」


「どうしても会いに行きたい人がいるんだが、見逃してはくれんか?」


老人が門番に頭を下げる。


「いかん!!こんなボロい証書で通すわけがなかろう!どうせ魔法でそこらの紙切れに小細工でもしたんだろ?俺は騙されんぞ!」


「……そうか、残念だ」


老人が振り向き、トボトボとペンタの横を通り過ぎようとする。


「待って」


ペンタは老人の腕を掴んで止める。


「なんだい?ワシに用かい?」


老人がペンタを見るが、ペンタは老人の腕を掴んだまま門番を睨み付けていた。


「なんだ、俺に文句でもあるのか?門番に刃向かったらどうなるか分かっているよな?」


「お嬢さん、ワシの事はもう良いから。君も目的があってここにいるんだろう?さあ、行った行った」


老人が、腕を掴んでいたペンタの手を優しく取り門を指す。

するとペンタが口を開く。


「門番さん。私、証書は魔法でコピーとかされても分かるようになってるって聞いた事ありますよ?」


それを聞いた門番がペンタを睨む。


「そんな事は知っている」


「では、何故この方の証書がダメなんですか?」


門番が鬱陶しそうに舌打ちをする。


「こんなボロボロでいつ許可が出たのかも分からない。レア度の基準もずっと一定ではないとなると、この申請を許可した時はAだったのだろうが、今はどうか分からないじゃないか。だから、通す訳がなかろう」


門番の言うように、レア度は30年もあれば基準が変わり更新される時もある。

前年Aだった者が、翌年ではQだったなんて事もままある。

それはペンタも知っていた。


「じゃあ、この場でこのお爺さんの魔法を見て貴方が判断すれば良いじゃないですか」


ペンタは老人を申し訳なさそうに見る。


「ただ、貴方が魔法をこの場で見せて良ければですけど......」


「おお!良いぞ良いぞ。それで通れるのならいくらでも見せてやろう」


老人は嬉しそうに門番の前に戻る。


「ふん、どうせ大したことないだろう。まあ良い、見せてみろ」


老人が鞄を足元に置き、拳を握りしめる。


「ふんっ!!!!」


力を込めたと同時に、老人の身体がいきなり筋肉質になりみるみる成長していく。

それもかなりでかい。

腰が曲がり140くらいしかなさそうだったのに、一気に3メートルくらいまで大きくなった。


「は、はは。凄いよお爺さん!」


「こ、これは間違いなくレア魔法だろう。良いぞ、通れ」


上を見上げたまま、門番が許可を出してくれた。


「良かった……」


老人は門番の許しを貰うと、しゅんしゅんと縮んで元に戻った。


「ありがとうなあ。お嬢さんのお陰だよ」


「へへ、良いんだよ。気をつけてね」


ペンタは老人と握手をした後、その後ろ姿を見送る。


「で、貴様はちゃんと証書持ってるだろうな?」


そう言ってペンタをイタズラな顔で見る門番。


「もちろん!!」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「えっと、これ借りて良いんだよね?」


門を通った後、暫く歩くと箒がずらっと並んでいた。

これを使って何処でも行けるらしい。


「まずはサルビアが教えてくれた街を目指そう。確かファンタムだったかな」


ペンタは門番に教えて貰ったように、箒にまたがり命令をする。


「ファンタムまでお願い!」


すると、箒が浮いてペンタをはるか上空へ連れて行く。


「わ!これ、結構難しいかも」


本来なら小さい頃に箒の乗り方を教わる筈だが、ペンタの街ではそんな学びの場は無い。

それどころか箒を見かける事すら無かった。

幸い少しぐらついてはいるが、ペンタ自身は箒の操縦が上手かった。


「あ、落ち着いてきたかも。気持ちいい〜!!」


いつも見上げていた空を飛ぶ経験は、ペンタを爽快な気分にさせてくれる。


「こう見るとあの街ってほんと小さかったんだ」


上から見る街はとても寂しそうに見える。


「ファンタムってどんな所なんだろう。楽しみだなあ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


暫く飛んでいると、小さな街がポツポツと見えてきた。


「お、人も増えてきたなあ。……私少し緊張してるかも」


周りを見ると、沢山の人が箒で空を飛び回っている。

その中に、絨毯で飛んでいる人もいる。


「あれ、自分で買ったのかな?高そ〜」


「や!きみ何処から来たの?」 


ぼ〜っと眺めていると知らない男が声をかけてきた。

ペンタより少し年下に見える。


「え、えっと、何処……。遠い所……」


慣れない突然の会話にペンタの鼓動は早まる。


「遠いとこって、何処だよ!」


男は笑いながらツッコミを入れる。


ペンタのいた街はあまり好かれていない事を知っていたから、ペンタ本人も答えを濁すしかなかった。


(会話を逸らすか)


「ねえ。あの絨毯って自分で買うの?」


「ん?あー、あれは資格持ちだよ」


「資格持ち?」


「そ、箒は基本誰でも乗れるんだけどあれは資格取らないとダメなんだよ。何でもめちゃくちゃ操作が難しいみたいでさ、楽しそうだけど勝手に買ったらサポーターの奴らに捕まっちまう」


「サポーター?」


「きみ、何にも知らないんだな。遠いとこってだけあるわ。仕方ないから、教えてやる!」


男は何故か嬉しそうに説明を始める。


「まず、警備隊ってのがいるんだよ。警備隊は悪い事をした奴を捕まえて処罰を与える奴ら。その手伝いをしているのがサポーターだよ」


「なんで手伝い?人手が足りないの?」


「んや、手伝えば報酬としてそれなりに金が貰えるんだよ。んで、サポーターの奴らが動いてくれれば警備隊は楽ができるだろ?」


「楽って……」


「分かる。仮にも警備隊ならちゃんと仕事して欲しいよな。でもな……」


男はここだけの話、と耳打ちをする。


「警備隊のトップが魔王様と繋がりあるっぽいんだよ。そういう噂をよく聞く。んで、楽してる分魔王様と何か悪事を働いてるって。だから誰も文句を言わない。」


「そんな!」


男は慌ててペンタの口を押さえる。


「これ、誰にも言うなよ?あくまで噂だしな」


(そんな事になっていただなんて……)


「お、じゃ俺ここで降りるから。達者でな!」


そう言うと男は爽やかに去っていった。


「あれ?この街」


下を見ると、カラフルな屋根に大小様々な建物。

人も他の街より遥かに多い。


「もしかして」


その時、箒が角度を変えて降り始める。


「やっぱり!ここがファンタムだ」


ゆっくりとコンクリートでできた地面に降りる。

他に足が付いた時、箒は小さく縮んで球体になった。

ペンタはそれを無くさないようにと、ウエストバッグに仕舞う。


「素敵な街だな」


ペンタがいた街とは比べ物にならないほど、溢れる人、声、音。


「いたた、」


慣れない世界に少しだけ頭痛がする。


「サルビア何処にいるんだろう」


約束では、この街で会うように言っていたが何処で集合かは話していなかった。

 

「あの、ペンタさんでしょうか?」


「サルビア!?」


この街でペンタの名前を知っているのはただ1人。

ペンタは嬉しくなり振り返る。

が、そこにいたのは見知らぬ女性だった。

黒のスーツに、高くまとめられたポニーテールはその人の存在を凛とさせていた。


「私、凛と申します」


その姿に見合った名前。

ふと、ペンタは思い出す。


「マネージャーの凛さん!」





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