16 林間合宿
カアー!!カアーー!!
アオーーーン
キエエエエエエエエエ!!!
バサバサバサ……。
「ええー、今日から2泊3日の林間合宿が始まる。ここでは魔力よりも、心身の成長や協調性を養って貰う。今回はAからKの全クラス合同になる。面倒くさいから変な揉め事は起こすなよ。特にお前ら」
ナナシがペンタ達を見る。
「普段から問題があるように言わないで下さいよ……」
ペンタが恥ずかしそうに言う。
「大アリだろ」
「それより、ここの治安めちゃくちゃに悪そうですが危険はないのでしょうか?」
ベクターがナナシに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。あんなのそこらの子猫と大差ない」
「子猫って……」
「いつも通り、いい加減な人だな!」
「えーっと、ナナシ先生だっけ?林間合宿ってどんな事やるんだ?」
ロイが手を挙げて質問をする。
「普通に山を散歩して、普通にカレー作って、普通にキャンプファイヤーして、普通に寝る。それだけだ」
「普通すぎる!!!いやいや、もっと特別な事やんねーの?魔法を使った訓練とか!」
「そんな事はやらない。なんなら、今回は魔法を使うのはNGだ。もし、使ってしまったら罰としてカレー抜きだ」
「何だそれ!?」
「それは何か目的があってのルールなのでしょうか?」
今度はハルが手を挙げて聞く。
「言っただろ。今回は協調性を養って貰いたい。それぞれが自分の出来る事をやり、助け合う。その為に、魔法は使ってはいけない」
「なるほど……」
「……」
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「では、これから会議を始める」
綺麗な満月が浮かぶ夜中、学長を中心に、1年の教師が集まっていた。
「学長、オークスは?」
ナナシが聞く。
「ああ、今夜は親睦会があって来られないみたいだよ」
「親睦会?何やってんだあいつ……」
「学長がお優しいからって、会議に参加しないのはどうなんでしょうね?」
Qクラス担任のクロナが言う。
「ははっ、まあまあ。彼が自分のクラスを持つのは久しぶりなんだ。大目に見てやってくれ」
「確かにそれもそうですね……」
「学長、そんな事より今回大事な話があるのでは?」
リーが聞く。
「ああ、そうだな。君たち、今年入ってきた子たちはどうだい?」
学長がナナシを見る。
「俺のとこは自由ですね。真面目そうに見えてやんちゃな奴らが集まってます。力はバラバラですね。強力な奴もいれば、ひ弱な奴もいる。これからの成長次第です」
「そうか。クロナ君のところは?」
「うちの生徒は……しっかりした子が多いわ。たまに口喧嘩をしているけれど、喧嘩するほど仲が良いって事だと思って見守っています。魔法については皆んな上手く扱えています。丁寧な子たちなんでしょうね」
「私の生徒は言葉使いがなってないですね〜。でも、力は確かですね。あと、一応クラス決めの時に全員を見た私から言わせて貰うと、オークスの生徒たちは大人しいですね。けれど、芯があります。力については知りません」
「そうか、ありがとう。……いやね、実は裏の情報ルートからある噂を聞いてね」
突然、学長の表情が暗くなる。
「噂ですか?一体どんな……」
クロナが不思議そうに聞く。
「魔王……いや、ルシファーの子が、この学校に潜り込んでいるという噂だよ」
「……!?」
「なんだと?」
「そんな……」
それを聞いて、ナナシたちは驚く。
「でも、そもそもルシファーの子自体、学長が調べて仮定として存在している者ですよね?まさか本当に実在していたという事ですか?」
リーが問う。
そして、学長が頷く。
「魔王の子は、実在している」
「「「……!!」」」
ナナシたちは言葉を失う。
「それがスクオーラ内に潜んでいるかもしれない。目的は分からないが、警戒はしないといけない。だが、ただ黙って様子を見ているだけでは恐ろしすぎる。せめてどの子が魔王の子なのか、それだけでも把握しておきたい」
「なるほど。タイミングを考えても今年入った生徒の中にいるのは明白。それを先に見つけて監視するのが学長の考えですね」
ナナシは顎に手を当て考えながら言う。
「しかし、どのように見つけるのです?現時点で私たちにバレずに入り込んでいるという事は、それほど力を制御するのが上手い、潜入が得意って事よ。難しいのでは……?それに、入試に受かっているという事は……」
クロナがそこまで言って口を閉じる。
「とりあえず、今は見つける事さえできれば良いんだ。そこで、林間合宿を行う」
「林間合宿?例年より3ヶ月も早いじゃないですか」
ナナシの言うように、スクオーラの林間合宿は夏に行われていた。
それが、今年は春に行うと言うのだ。
「探りやすい行事がそれしかないんだよ。魔王の子にバレないようにするなら、これが1番都合が良い」
そう言って学長が林間合宿の資料を配る。
「確か魔法を使ってはいけないんですよね?」
1ページ目の中心にでかでかと、『魔法は禁止とする』と書かれた文字を見てクロナが言う。
「そうだ。だからこそ、本性がでやすい。そして今回、生徒たちには悪いが、度々合宿の邪魔をさせて貰う」
「これか。『1.山中での遭難』他にも色々書いてあるな……」
「極力生徒側にバレないようにそれを実行して貰う。そして、これが1番大事な事だが、何があっても決して教師たちは手を出さないでくれ」
「何があっても、ですか……」
ナナシの頭の中では、ペンタ達の顔が浮かんでいた。
「魔王の子と関係のない子たちはどうするんですか?」
リーが聞く。
「そこは申し訳ないが、ギリギリまでは頑張って貰う。魔王の子を野放しにする方が危険だからね。奴も身の危険を感じれば、流石に何か行動に出る筈だ。それを見逃さないように」
「それは良いですが、こんな大事な話だったのなら、やはりオークスを呼ぶべきなのでは?」
「何言ってんだクロナ。あいつに隠し事ができると思ってんのか?」
ナナシがクロナに半笑いで言う。
「……できないわね」
学長がおっほんと咳をする。
そして、真剣な目でナナシたちを見る。
「ここまで話してもう1度君たちに尋ねる。今年入ってきた子たちはどうだい?」
学長の目を見て、クロナが1番に口を開く。
「揉める事はあっても、それはごくありふれた女の子同士の言い合いです。ハナも真面目でクラスをまとめようとしてくれていますし、ムーは1人だけ男の子ですが、それを感じさせないくらい女の子たちと仲良くしています」
次にリーが手を挙げる。
「ロイは口は悪いけれど力があります。それで言えば1番可能性がありますが、それでもあの可愛げは疑いたくないですね。個人的な情になってしまいますが……」
「良いんだよ。人として正しい感情だ。ナナシ君はどうかね?」
「俺のクラスは……」
1人だけ、ナナシには浮かぶ顔があった。
ただ、それを口にするとペンタが悲しむ気がした。
「全員良い奴ですよ。ちゃんとお互い助け合う事ができている」
「……そうかい」
学長は軽く微笑んで資料へ目を戻す。
「今回、私は同行できないが頼んだぞ。もし必要となれば、オークス君にも共有してやってくれ」
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「……んじゃ、これからランダムで名前を呼ぶ。呼ばれた順で並べ。騒ぐなよ」
生徒たちは目を輝かせてナナシを見る。
(全く……。呑気な奴らだな)
「ペンタ」
(早速!???)
1番に呼ばれ驚くペンタ。
「は、はい!」
「マット」
「……はい」
マットはペンタの後ろに並び、その背中をじっと見つめる。
(うう……)
「ロイ」
「はい〜」
「この3人でとりあえず区切るか。次呼ばれる奴はペンタの横に並べ」
(え、まさか……?)
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「最後にムー」
「はい」
「ここの班は4人になっちまったけど、まあ良いか」
「適当ですね」
ムーが並んだ列の先頭に立っているベクターが、呆れたようにナナシを見る。
「お前らよく聞けよ。林間合宿の間、大体はこのチームで動いて貰う」
(やっぱり……!!)
ペンタの予想したように、ナナシが生徒たちを並ばせたのは、チーム決めの為だった。
「は!?僕こいつと一緒なんて嫌ですよ!」
マットが叫ぶ。
(私だってやだよ〜!)
「最初に言っただろ。この合宿の目的は、心身と協調性を育てる為のものだ。だったら、より相性が悪そうな奴らを一緒にする方が面白そ……ああ、いや、効率がいいだろ?」
「今面白そうって言いましたよね!?」
「とにかく!今回文句は1つも無しだ!文句言った奴もカレー抜きだからな!」
ナナシがビシッと生徒たちを指差す。
「「そんな……」」
ペンタとマットはショックを受ける。
「お前ら相性良さそうだけどな」
ロイが言う。
「「どこが!!」」
「ほら」
ペンタがチラリと見るとルージーと目が合った。
声には出していないが、大丈夫とペンタに伝えている。
(うう、悪い人では無いって分かってはいるんだけど、やっぱりまだ少し気まずいよ……)
「俺が今適当に付けたチーム名が書かれた紙を渡す。それに従って山を歩いて貰う。ただ、歩くだけじゃ暇だと言う奴もいるだろう。だから追加ルールだ。今夜のカレーに入れる具材を拾ってこい。より多く、より安全な物を拾ってきたチームにはご褒美をやる。せいぜい楽しみながら頑張ってくれ」
「ご褒美かあ……肉まんとか?」
「りんご飴じゃないですかね?」
「お菓子が良い」
「お菓子はともかく、肉まんとりんご飴ではないでしょうね。てか、このチーム名偏り過ぎてるな……。ほんと適当だなあの人」
ベクターのチームがボソボソと話す。
「地図は絶対無くすなよ?あと20分後にはスタートだからな。トイレに行きたい奴は行っておけ。じゃ、とりあえず解散〜」
ガヤガヤと生徒たちが散らばり始める。
「ペンタ、別々になってしまいましたね」
「ベクター……」
顔を上げたペンタの表情は暗かった。
「どうしたんです?何か言われましたか?」
「何だか気まずくてさ……。なるべく普通に接しようとは思ってるんだけど、話しにくいというか、空気が悪いというか……」
「無理に話す必要は無いですよ。向こうが話しかけてきたらそれに返答する。そのくらいで思っておけば、少しは気も楽になりますよ。あと、空気は無視しておけば良いも悪いもないですから。何事も気にし過ぎない事が大切ですよ」
「ベクター……。ありがとう〜」
「なあ、あんたペンタだったよな?なんでマットに睨まれてたんだ?何かしたのか?」
後ろに立っていたロイが声をかけてきた。
マットはトイレに行ったのか、いなくなっていた。
「え?私睨まれてたの……?ん〜。初めて会った時に小石をぶつけちゃったんだよね。謝ったんだけど、その後も会うたびに何かと言いあっちゃって……」
「小石!?そんな小さい事をあいつまだ根に持ってんのか?」
「心が狭過ぎて潰れてしまっていますね」
「いや、でも私も悪いの!なんだかあの子に何か言われるとすぐ腹たっちゃうの。もしかしたら……初対面でも普通に話しかけられるあの子に嫉妬してるのかも?」
それを聞いて、ロイがフッと笑う。
「お互い素直じゃねえって事だな」
「嫉妬ですか……あ」
向こうの方からマットが戻って来るのが見えた。
「では、戻りますね。ペンタ、怪我しないように気をつけて」
「うん、ありがとう」
ベクターは手を振ってその場を去った。
「あいつペンタの事好きなのか?」
「好き!?そんなんじゃないと思うけど……。家族というか、仲間というか、そんな感じじゃないかな?」
そう言うと、ペンタはいそいそと先頭へ戻った。
「家族ねえ……」
「今眼鏡に凄い睨まれたんだが、何の話をしていたんだ?」
マットが怯えながら列に戻る。
「さあな」
(……家族ではないだろ)
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「そろそろ時間だ。皆んな戻っているな?俺たちも見回りをするがくれぐれも怪我しないよう気をつけてくれ」
「「「はい!」」」




