苦悩するギャリソン 〜猫たちに愛されすぎる男〜
朝、まだ空が薄紫色に染まる頃。
ギャリソンはきちんと整えた黒のコートを羽織り、光沢のある靴を揃えて立っていた。
今日も完璧に、仕事の段取りは頭の中で組み立てられている。
王都でも、貴族の館でも、どこへ行っても彼の動きは正確で無駄がない。
「さて、まずは屋敷の見回り――」
すると、廊下の角から小さな気配が。
目を向けると、あの猫たちである。
「……また、君たちか」
ギャリソンは淡々と頭を下げ、そっと足を進める。
しかし、猫たちは一瞬で彼を取り囲んだ。
「にゃあ!」
「みゃあ!」
その声と勢いに、ギャリソンは思わず立ち止まる。
お子様やおば様方なら、ひと言の仕草で相手をなだめることができる。
だが、猫たちは違う。
目を輝かせ、しなやかな身体で飛びかかってくる。
「ちょ……待ってください……落ち着いて……」
しかし猫たちの愛情表現はさらに加速する。
ギャリソンの足首に絡みつき、腰に飛びつき、背中をつたって肩まで登ってくる。
「……これは仕事にならないな」
心の中でつぶやきながら、仕方なく一匹ずつ丁寧に下ろして歩き出す。
だが、それはまるで“猫の縄跳び”状態で、どれも油断できない。
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◆午前の戦場:庭園
庭園では、ルークとミーナ、そして村から預かった数匹の子猫たちが遊んでいる。
ギャリソンは一息つこうと芝生に立った瞬間、
「にゃー!」
と猫の大合唱が始まる。
子猫たちはギャリソンの足元でじゃれ合い、ルークの帽子を奪おうとする。
一方で、ミーナは笑顔で「ギャリソンさぁん、助けて〜!」と声をあげる。
「……助けてくださいって、私は……いや、私は……」
ギャリソンはあくまで冷静を保とうとするが、子猫たちが腕や足にまとわりつき、完全に翻弄される。
ルークも苦笑しながら、そっと猫たちを押さえる。
「ギャリソンさん、手伝うよ」
「いや、これは私が耐えるべき……!」
ギャリソンは必死に手を振りながら、猫の愛情攻撃に耐え続ける。
しかし、彼の渋い顔に小さな猫が登り、首元に顔を押し付けると、ついに声を漏らした。
「……ぐ、ぐぬぬ……!」
庭園は笑いに包まれる。
ルークもミーナも、そして猫たちも、なんだか楽しそうだ。
ギャリソンは悔しげに目を細めながらも、どこか満更でもない表情をしていた。
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◆昼下がり:お茶の時間
館に戻ると、イザベル嬢が優雅に紅茶を手にして待っていた。
「ギャリソン、少しお休みなさいな。メイドだっているのですから。猫たちに囲まれて、少しお疲れのようですわ」
「……おお、お嬢様……ありがとうございます……」
ギャリソンは渋い顔でお辞儀をするが、実際は猫に押されて座れない状態。
イザベル嬢はその様子を見て微笑む。
「ふふ……動じないつもりでしょうけれど、猫たちの愛情には抗えませんのね」
ギャリソンは顔を赤らめつつ、猫たちに囲まれたまま紅茶を差し出す。
猫は紅茶に手を出そうと鼻を近づけ、さらに混乱を招く。
「……この……っ!」
渋い声で呟くギャリソン。
猫たちはさらに背中に飛び乗り、座る場所さえ失う。
イザベル嬢は微笑みながら、静かに一言。
「……可愛いですわね」
ギャリソンは小さくため息をつく。
しかし、その顔には、少し柔らかい笑みも混じっていた。
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◆午後:雑用も大変
午後になると、館の庭仕事や書類整理も待っている。
ギャリソンは庭に出ると、またもや猫たちの襲撃を受ける。
一匹は帽子をかじり、別の一匹はポケットに顔を突っ込む。
ルークは「ギャリソンさん、頑張って!」と声援を送り、ミーナは「猫たちと仲良しなのです!」と微笑む。
「……仲良し……?」
ギャリソンの心の中は複雑だ。
猫たちは言うことを聞かないが、全力で慕ってくれる。
おばさま方やお姉さま方は、彼の渋い顔ひとつで魅了できるのに、猫たちには完全敗北状態。
猫の爪がコートに引っかかる音。
ギャリソンはうなだれる。
「……ふぅ……今日も一日、猫に翻弄されるのか……」
しかしその瞬間、猫たちが一斉に彼の手に体をすり寄せる。
ルークが小さく笑った。
「猫たち、ギャリソンさんに甘えてるね」
ミーナもにっこり。
「そうなのです、ギャリソンさん、大丈夫なのです」
ギャリソンは肩を落としながらも、どこか穏やかな気持ちになった。
「……仕方ない……今日も君たちには、降参だ……」
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◆夕方:ほのぼのエンディング
夕暮れ、館の窓から西日が差す。
猫たちは暖かいストーブの周りで丸くなり、ルークとミーナもそばで座る。
ギャリソンは椅子に腰かけようとするが、猫が膝に飛び乗る。
「……もう、座れませんね……」
しかし渋い顔で耐えるギャリソン。
心の中では、今日一日の疲れと同時に、確かな充足感があった。
イザベル嬢はお茶を受け取りながら、静かに微笑む。
「……ギャリソン、猫たちに愛される男、ここにありですわ」
ギャリソンは小さく目を細め、暖かな空気に包まれながら一言。
「……降参、です……でも、悪くない」
ミーナがそっと手を伸ばして、猫たちと一緒に彼の肩に顔をうずめる。
「ギャリソンさん、大好き!」
ルークもそっと笑う。
「お疲れさま、ギャリソンさん」
猫たちは満足げに「にゃー」と答える。
そして、一日中背中に張り付いていたクロは「ゴロゴロ」と鳴らしている。
――館には、今日もほのぼのとした笑い声と、ハチャメチャな愛情があふれていた。
渋くても強くても、ギャリソンには“猫たちに敵わない日常”が、確かに存在するのだった。
猫に翻弄されつつも、心は穏やかに。
ギャリソン、今日も一日お疲れさま。




