グリーンマン、冬支度をする ~薪集め大作戦!~
北風が、ルークの畑を吹き抜けていく。
空気は澄み、遠くの山のてっぺんが白く染まり始めていた。
ミーナはマフラーをぐるぐる巻きにして、畑の真ん中を走り回っていた。
「にぃにぃー! 寒いのですぅ! でも気持ちいいのですぅ!」
「走るからだ、ミーナ。もう少し落ち着け」
ルークが苦笑いを浮かべながら、木箱を抱えて歩いてくる。
箱の中には、小さな鉄製のパイプ。どう見ても、畑には似つかわしくない。
「にぃに、そのパイプ、なぁに…?」
「ストーブの煙突だ。冬のあいだ、温室で使う予定でな」
「へぇぇ、畑でお料理するのかと思いましたぁ」
「……ミーナ、それは違う」
そう言ってルークが地面にパイプを立てた。
だが、なぜか設置場所は――畑のど真ん中。
「……にぃに、そこに立てるの?」
「風通しがいいから、ここが一番だ」
「にゃぁぁぁ!! 煙突の下にボクの寝床があるニャ!」
「ミーナの畑、ニャたちの寝床、そして煙突……混ざるニャ……」
猫たちが抗議の声を上げる中、ルークはまったく動じない。
そして、トンテンカンと音を立てながら、煙突をしっかりと固定した。
――その時である。
ミーナが、なにやら土の中から“モゾモゾ”と動く影を見つけた。
「にぃに、なんかいるのですぅ……!」
「……出たか」
土の間から、ぬぅっと伸びた緑の手。
グリーンマンだ。
彼は、煙突をじぃっと見上げていた。
「……(見慣れぬ鉄の塔……暖かそう)」
「にぃに、グリーンマンさん、煙突に興味しんしんなのです!」
「まさか、また何か企んでるんじゃ……」
そうルークがつぶやいた瞬間――
グリーンマンは、煙突の根元に座り込み、手にしていた枯れ枝を丁寧に積み始めた。
「……薪……?」
「にゃーっ!? あれ、ボクの遊び枝ニャ!」
ミーナが笑いながら駆け寄る。
「グリーンマンさんも冬支度してるんですねぇ!」
ルークは腕を組み、少し考える。
「……なら、みんなで薪を集めるか」
こうして、急遽“薪集め大作戦”が始まった。
森の入り口。
ルークは斧を肩に担ぎ、ミーナは籠を背負い、猫たちは鼻をひくひくさせて先頭を歩く。
「にぃに、この木の枝はぁ?」
「それはまだ青いな。乾いたやつを選べ」
「はいぃっ!」
トトが「こっちニャ!」と叫んで駆け出した。
その先では――倒れた木の幹に、冬眠前のリスたちが集まっていた。
「ミーナ、邪魔するな。巣作り中だ」
「はぁい……。がんばってね、リスさん!」
やがて、丘を越えたあたりで、リックとアニーが合流した。
「おお、薪集めか! 俺たちもだ、手伝うぞ!」
「ふふ、ミーナちゃん、ほっぺ真っ赤ね」
「薪集め、楽しいのですぅ!」
猫たちはというと――木の上で追いかけっこ中。
「うわぁぁぁ! 枝が折れるニャ!」
「ニャハハ! あたし飛べるニャー!!」
「やめんか、お前たち!」(ルーク)
その下で、グリーンマンは静かに木を観察していた。
そして、枯れ葉や枝を丁寧に集め、束にしてミーナの籠にそっと入れる。
「ありがとですぅ!」
「……(冬には、温かい火。火には、木。木には、土。土には、命)」
「にぃにぃ、なんか詩人みたいですぅ」
「そうだな、妙に深いこと言うな……いや、言ってる気がするだけか?」
夕暮れ。
畑の中央、煙突の下に薪が山のように積まれた。
ルークはストーブの調整を終え、火をつける。
――ぼっ。
やわらかな火が灯り、煙突から白い煙が立ちのぼった。
その煙は、空の高くへと伸びていく。
「わぁぁぁ、きれいなのぉ!」
「にゃぁぁ、あったかいニャ」
「……(火、いい……心も、あたたまる)」
グリーンマンは、火の前で小さく手を合わせた。
まるで、感謝しているかのように。
ルークがぽつりとつぶやく。
「……あいつ、やっぱり心があるんだな」
「にぃにぃ、グリーンマンさん、いい人ですよぉ」
「“人”かどうかは微妙だがな」
やがて、猫たちはストーブのそばで丸くなり、ミーナは毛布にくるまってあくびをした。
火のはぜる音だけが、静かな夜に響く。
ルークはそっと帽子を脱ぎ、焚き火越しに空を見上げた。
「……今年も、もうすぐ雪が降るな」
「にぃにぃ、雪、楽しみなのですぅ。グリーンマンさんも、雪だるま作りますかねぇ?」
「さあな。もしかしたら……自分が雪だるまになるかもな」
「えぇぇぇぇっ!?!?」
その声に猫たちがびくっとして、いっせいに毛を逆立てる。
「にゃにゃにゃ!? 雪だるまニャ!? 冷たいのはイヤニャ!!」
ルークが笑い、ミーナも笑った。
その笑い声に誘われるように、グリーンマンもわずかに肩を震わせた。
――まるで笑っているように。
翌朝。
畑はうっすらと霜に覆われていた。
煙突の先には、丸い雪玉が一つ。
その雪玉には――緑色の葉っぱでできた“顔”があった。
ルークは思わずつぶやく。
「……まさか、本当に雪だるまになったのか……?」
「にぃにぃ、グリーンマンさん、冬のあいだは“雪の守り神”なんですねっ!」
「……まあ、そういうことにしておくか」
畑の真ん中、煙突のそばで、
“緑の雪だるま”は今日も静かに立っていた。




