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75.人類史最強

 渾身の一撃を腹に受ける。

 俺は全ての力を一点に集中して、その一撃を受け止める。

 衝撃は外へも広がり、囲っていた岩をも吹き飛ばす。


「先生!」

「師匠!」

「お兄さん!」


 弟子たち三人の声が響いて聞こえた。

 ばらばらに砕けた岩の壁に遮られ、彼女たちの視界にはまだ俺が映っていないのだろう。

 心配そうな声を聞いた俺は、大丈夫だと返してあげたかった。

 だけどさすがに、声をあげられるような状況でもない。

 

「ねぇユーストス、私は心から誇りに思うよ」


 そんな俺に、彼が呟く。


「君はもう私たちを越えた。君は間違いなく人類史最強の英雄だよ」

「――まったくだぜ」


 彼の言葉に続いたのは大地の精霊ノロムだった。

 彼女の拳は重く深く、大地の重みをそのまま感じるようだった。

 それでも――


「耐えやがったな」

「あ、ああ……さすがに重かったけどね」


 拳は腹にめり込む勢いで襲い掛かってきた。

 全てを一点に集中しても尚、痛みと衝撃は抑えられないもので、俺の口からは血が流れ出る。

 正直、立っているのもやっとな状況だった。

 そんな状態でも格好つけて耐えているのは、ただの意地でしかない。

 弟子たちの前で情けない姿を見せたくない。

 精霊の前で、弱さを見せたくない。

 格好つけたがりな人間らしく、俺は両脚で立っていた。


「今の拳にはあたしの怒りを全部乗せた。それを耐えたんだ。だから認めてやるよ。お前の馬鹿げた理想と覚悟をな」

「は、はは……ありがとう……ございます」

「馬鹿言え、礼を言われる筋合いはねーよ。あたしは今でも人間は嫌いだし信用してねえ。ただお前のことは、ほんのちょっぴり期待しても良いかと思っただけだ」

「それで……十分だ」


 少しでも期待をしてくれるなら、俺は全力でそれに応えよう。

 たださすがに、そろそろ立っているのも限界だ。


「ん? おいおい、珍しいこともあるんだな」


 と、思っていたところで彼女が空を見上げる。

 予想外の一言。

 こんなことは俺も予想していなかった。


「奇跡に近いぜ。あっちから出向いてくるなんてな」

「まさか……」


 一目でわかった。

 それが姿を見せた途端に、全ての時間が停止したように固まる。

 認識できているのは俺とローウェン、ノロムだけ。

 神々しい光に包まれ、輪郭もぼんやりとしか見えないが女性に近い。

 光が強すぎて顔も見えない。

 

「喜べよユーストス、お前が会いたがってたやつが向こうから来てくれたぜ?」

「じゃあやっぱり……」

「ああ。あのお方が世界の精霊だ」


 世界の精霊。

 この世の全てを司る存在。

 世界の概念すら変えられる偉大な精霊……なのに、何も感じない。

 そこにいるのい、目の前にあるのに。

 圧倒的な力も存在感もわからない。

 強大すぎるからなのか、それとも世界そのものだからなのか。

 どちらにしろ、あれが世界の精霊だと言われれば納得する。

 でも……


「どうして? まだ試練は全部終わってないのに」

「さぁな。たぶん挨拶かなんかで、お前に興味があったから出て来たんじゃないか」

「興味って……」


 願いを聞き届けに来た、とかではないのか。

 当たり前か。

 俺はまだノロムにしか認められていないわけだし。

 そんなことを考えていると……

 

 人の子よ――


 なんだ?

 頭の中に直接声が響いてくる。

 透き通るような女性の声が。


 汝は精霊になることを望むか?


「……はい」


 その決意に偽りはないか?


「ありません。覚悟は出来てます」


 しかと聞き届けた。

 ならば試練を終え、再び我々の前にたどり着くと良い。


「そのつもりです」


 ――期待している。


 その言葉を最後に、止まっていた時間が動き出す。

 世界が動き始めたことを、俺は三人の弟子たちを見て実感する。


「本当に挨拶だけだったんだな」

「だから言っただろ? まぁでも、期待してるなんて言葉を残すなんてな。よほど気に入られたんじゃねーの?」

「そうなのか?」


 期待……か。

 ただの期待じゃなくて、世界からの期待を向けられているということ。

 そう考えると恐ろしさもある。

 誇らしくもあるけど。


「期待されてるなら応えなきゃな」

「そういうこった。精々頑張れよユーストス」

「ああ」

「あ、そうだ忘れる所だった。円盤出せ」


 ノロムがぶっきらぼうに手を差し伸べる。

 俺は言われた通りに円盤を出すと、彼女がそれに触れる。

 円盤は赤く光り、彼女の印を刻み込む。


「これであたしの試練は終わりだ。後の三人はあたしみたいに単純じゃねーからな? 気張ってけよ」

「ありがとう。頑張るよ」

「あったりまえだ。ただ頑張るくらいじゃ足らねーぞ? 世界を傾けるくらい頑張りやがれ」

「世界を傾ける……か。そうだな、それくらいか」


 無茶苦茶なことを言われているはずなのに、不思議と出来てしまいそうな気がする。

 それだけ強くなったから?

 覚悟が決まったから?

 それとも、一人じゃないから?


「……いや、全部か」


 俺の人生、始まりから今日まで、その先も続く物語。

 いつか語られてる時は、どんな語り出しになるだろうか?

 昔々ある所に……違うな。


 これはある男の物語。

 人類史最強の冒険者が、世界を旅する物語だ。

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