69.ボルカノ火山地帯
世界は広く、未だに未知で溢れている。
人間は小さく脆い生き物だから、世界の全てを知ることは難しい。
長い年月、世代をかけて解明してきた真実ですら、まだほんの一部でしかない。
人間が世界を知り、理解する日が来るのはいつになるのか。
そのためにはせめて、どんな場所でも自由に行き来するだけの力が必要だ。
人間の弱い肉体には限界がある。
過酷な環境、生きることすら難しい地獄のような土地は存在している。
その名も特別災害指定区域。
勇敢な冒険者たちですら避けて通る危険の極致であり、未知があると知りながら踏み入ることのできない土地。
うち一つが、【ボルカノ火山地帯】だ。
十を超える活火山が横並びになっていて、十秒に一つは噴火し、それを絶えず繰り返している。
地面は溶岩で固められ、また溶け、破壊と再生を繰り返している。
気温は言わずもがな超高温。
雨は降ろうと地面にたどり着く前に蒸発してしまうほどだ。
「さぁ、ここからが地獄だぞ。覚悟はいいか?」
「うん!」
「はい!」
「大丈夫」
俺たちはそんな耳にするだけで恐ろしい場所に足を踏み入れていた。
出来る限りの暑さ対策と、魔法による結界で身を包んで。
「よし。じゃあ行こうか」
火山地帯入り口に到着したのは、日の出から一時間が経過した頃だった。
まだ比較的涼しい時間帯。
にも関わらず、俺たちは肌が焼けるような暑さに襲われていた。
「あ、暑い……」
「聞いていた以上だね」
「汗も、出ない」
後ろを歩く三人に目を向ける。
三人ともきつそうだが、歩くペースは落ちていない。
暑さ対策で用意した道具たちの力か。
いや、それよりも魔法による効果が大きいか。
身体から微弱な冷気を放ち、周囲の気温を下げる魔法。
結界と呼ぶにはいささか不細工だが、暑さから身を守るには最適だ。
俺とマナで周囲を冷却し、暑さを緩和しているからこそこの程度で済んでいる。
そうでもしなければ、俺たちは踏み入ることすら出来なかっただろう。
「マナ、魔力の調整は大丈夫そうか?」
「できてる」
「なら良い。でも無理はするな? いつ戦闘になるかもわからないんだから」
「うん」
大自然のエネルギーを自身の魔力に変換する術式。
偉大な魔法使いソロモンが考案し、俺が完成させた力。
真っ暗闇や無風状態の場所でない限り、この術式で無制限に魔力を生成できる。
事実上の魔力切れをなくす術式だが、制御がかなり難しい。
制御できないまま発動すれば、術式発動に消費する魔力が吸収する魔力量を上回ってしまう。
そうならないように微弱な調整をしながら、別の魔法も発動させている。
並みの魔法使いなら歩くことすら難しい。
「成長したな」
俺も、彼女も。
しみじみと感じながら脚を進める。
険しく不安定な坂道を登りながら、溶岩エリアは避けて通る。
いかに成長したとはいえ、溶岩に飛び込めるほどの強度は人間にはないのだから。
道中、地面は頻繁に揺れる。
「わっ、また揺れたね」
「どこかの火山が噴火したんだよ。ほらあそこ」
俺はアリアに指をさして教える。
左上に見える火山が赤く燃え上がっているように見える。
今目指している火山は、ボルカノ火山地帯で最も高く大きな火山だ。
噴火したのはその隣の火山らしい。
「本当だ。ってまた揺れた」
「聞いてた通りの噴火ペース。これは頂上に着く頃には一回くらい溶岩を――!?」
突然、大きな地響きが俺たちを襲う。
アリアが慌てながら耳をぴくぴく動かす。
「な、何!?」
「この揺れは――」
さっきまでと明らかに違う。
噴火の揺れじゃない?
だとしたら別の……ただの地震なのか。
「……違うな」
ただの直感に過ぎない。
俺は感覚的にそう思っただけだ。
普通の地震じゃない。
それに何だ?
周囲から感じる視線……圧迫感は。
揺れはさらに大きくなる。
地面にひびが入り、一部が裂けてマグマが噴き出す。
噴き出したマグマは俺たちを狙ったように波となって押し寄せる。
「俺が止める! マナは結界を強化してくれ!」
「わかった」
俺は両手を合わせる。
押し寄せるマグマに水や氷をぶつければ、急激な温度変化で爆発が起こってしまう。
ここは素直に大地の力を借りよう。
合わせた手を離し、しゃがみ込んで地面に触れる。
「グランドウォール」
地面を変形させ、周囲を遮る壁を生み出す。
俺を中心にした円状に、壁はなるべく高く反り返しもつける。
溶けた地面は後から生成して補強。
マグマが治まるまでの間、この壁は再生し続ける。
「これで一先ず大丈夫だ。だが……」
何なんだこの感覚は。
さっきから身体を締め付けられるような視線を感じる。
感知した限りじゃ、俺たち以外には何もいない。
それでも消えない圧迫感と視線。
「お前たちは何か感じないか?」
「え?」
「暑さのことですか?」
「もう少し冷やす?」
「……いや、そのままで良いよ」
この反応、感じているのは俺だけなのか。
どういう理屈なんだ。
「仕方ないさ」
「――!?」
この声は――
「この力を感じ取れるのは、同じ次元に立ったことのある者だけだよ」
「先生?」
「今の声、どこかで」
「お兄さんの身体から……霧?」
俺の身体から霧が発生する。
自分の意志じゃない。
これは間違いなく、彼の力だ。
霧は濃くなり一つに集まり、人の姿に変わる。
「ローウェン」
「やぁ、ユーストス。ここはとても窮屈だね」
彼は妖艶に笑う。
いよいよ明日8/10が第二巻の発売日です!
(早売りの所はもう置いてあるみたいですよ)
二巻は9割以上が描きおろしの新作になっています。
かなり面白くなっていますので、ぜひとも手に取って頂きたいです!
新作も随時更新中!






