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61.湖の精霊ウルネ

書籍化に伴い改題しました。

 足りないなら水を増やせばいい。

 という安直な考えで実行した作戦だった。

 ほぼダメ元やってみたわけだが、どうやら的外れでもなかったらしい。

 水でいっぱいになった湖の表面が青く光り出し、俺はそう思った。


「せ、先生! 光ってる! 光ってるよ!」

「ああ。試してみるものだね」


 湖から魔力を感じる。

 さっきまで何も感じなかったのに、水が満タンになった途端だ。

 精霊は自然に宿るものだという話を思い出す。

 本当に、この湖には精霊が宿っている。


 そして――


 青い光は増し、大きな水の柱を生み出す。

 しぶきを舞った水が一か所に集まり、形が変化していった。

 丸くなり、縦に細長くなって、手足がつく。

 そこからはあっという間で、気づけば湖の上に、美しい女性が立っていた。


「あれが……湖の精霊」

「ウルネ様?」


 アリアは疑問形で名前を口にした。

 そういえば、彼女たちも精霊を見るのは初めてだったな。

 かくいう俺も、精霊として知っているのは呪いの王だけだ。

 あれを同じと一括りにしたくないけど、確かに似た雰囲気を感じる。

 圧倒的で、そこにいるの自然で、当たり前のような……


「どなたか存じませんが」


 美しい声が聞こえた。

 思わず背筋がピンとなる。


「湖に水を注いでくださり感謝いたします。お陰で僅かにですが、力を回復することが出来ました」

「そ、そうですか。それは良かったです」


 何だか妙に緊張する。

 言葉を交わして良いものかと考えてしまう。

 彼女たちも緊張しているのか、黙ったままでいる。


「私は湖の精霊ウルネ。あなたの名前をお聞かせください」


 あなたと、俺に視線を合わせている。


「俺はユーストスです」

「ユーストス。あなたは何を求めてこの地までやってきたのですか?」

「貴女に聞きたいことがあってきました。精霊ウルネ、この世界から呪いの王という存在を、二度と生み出さない方法はありませんか?」


 俺がそう尋ねると、ウルネは少し考えるように黙り込んでしまった。

 そして数秒あけて、再び口を開く。


「もう少し、詳しくお聞かせください」

「はい」


 俺は彼女に語った。

 自分の中に眠る英雄たちの話を。

 そして、過去に彼らが戦い、現代で俺が倒した呪いの王のことを。

 

「事情はわかりました。方法はあります」

「本当ですか?」

「はい。世界の精霊、彼女であればこの世の理を変えることも可能です」

「世界の精霊……」


 そんな存在がいるのか。

 どういう精霊なのだろう。

 英雄たちの記憶にも、ローウェンからも聞いたことのない名前だった。


「ですが、それを成すためには順序があります」

「順序?」


 ウルネは右手を前に出し、手のひらの上に石の円盤を生成した。

 太陽のような模様を中心に、四方には半円状の窪みがある。


「この円盤が、世界の精霊と邂逅するための鍵。そして四方の窪みには、世界を構成する四人の大精霊……その試練を超えた証をはめ込みます」

「四人の大精霊……それに試練?」

「そう、試練です。大地の精霊、大気の精霊、海の精霊、太陽の精霊。彼らの試練を乗り越えることが、世界の精霊に至る条件。あなたのやろうとしていることは、世界の理に触れることです。故にその試練も厳しいものになるでしょう」


 そういう話か。

 最初から簡単に済むとは思っていなかったし、試練を受けろというなら望むところだ。

 

「わかりました。それで、円盤を貰うためにも試練が必要なんですよね?」

「はい。その通りです」

「何をすればいいんですか? まさかここで戦えと?」

「いいえ。試練とは戦いではありません。他の精霊の方々は違うかもしれませんが、私は争いを好まない。私が望むことはただ一つ。この湖に起こっている異変を……どうか解決してほしい」

「異変? 水を戻すだけじゃ足りないってことですか?」

「はい。これも一時的なものでしかありません。原因を取り除かなければ、いずれ私は消えるでしょう」


 消える?

 そこまで深刻な状態だったのか。

 いや、元は枯れかけていた湖だったんだ。

 ここに宿っているというのなら、あの状態で生き残っていたことが奇跡に近いのかもしれない。

 それに異変と言うなら、村の人たちにも関わっていることだ。

 となれば、試練を抜きにしても放ってはおけない。


「わかりました。異変とは何なのか、聞かせてもらえますか」

「はい。始まりは……二十年ほど前に遡ります」

 

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