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41.高みを目指して

 振り返る。

 疑念と疑問を抱きながら、俺は彼を目を合わせる。

 手に握られた黒い剣を、アレクセイは地面に突き刺す。


「じゃ、そっちはよろしくね~」

「ああ、そちらは頼んだぞ? パリカ」

「もちろんよ~ あとで祝勝会を開きましょう」


 黒い剣から影が広がる。

 影は俺とアレクセイの足元に伸び、沼のように沈み込む。


「くっ……」

「先生!」

「自分たちに集中しろ!」

 

 そう言い残し、俺は黒い影の中へと消えていく。

 残された彼女たちは、悪魔の女と向かい合う。


「ワタシと楽しく遊びましょう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 暗く重たい空気が漂う。

 地に足がついている感覚はある。

 空間が広くどこまでも続ている様子だ。

 漆黒の世界に、二人だけが存在している。

 互いを意識せずにはいられない。

 向き合い、睨み合う。


「ここは特殊な空間でね? 我々二人のどちらかが死ぬまで、決して外には出られない」


 アレクセイは淡々と語りだす。

 それに耳を傾けながら、俺は考えていた。


 ずっと疑問だったことがある。

 王都で広まっていた呪いは、一体どこが始まりだったのか。

 呪いには種類があって、移り方もそれぞれ。

 王都に蔓延していた呪いは、その中でもスタンダードな種類だ。

 呪いの種を持つ者と長時間一緒に過ごしていると、近くにいた人に呪いが伝染する。

 そうして広まった呪いは、徐々に増幅して、命を吸いつくす。

 刻まれた文様が体中を覆った時、その人は死に至る。


 呪いは自然発生しない。

 元を辿れば必ず始まりにたどり着く。

 おそらく、王都には呪いの眷属が潜伏していたのだろう。

 どこかで一人でも呪いの種を移せば、日々の接触を繰り返すことで種は育つ。


 ただ、それでは王女様は誰に移された?

 彼女の呪いは、明らかに他よりも進行が早かった。

 個人差があるとは言え、彼女だけ異様に早いなんて不自然だ。

 それ以前に彼女は王女で、街の人間と接触する機会は限られている。

 街に眷属が潜伏していたとして、彼女に呪いをかけることが出来たのか?

 考えられるとすれば、眷属は街の住人ではなく、王城内にいた。

 そして、意図的に王女様を呪った。


 その答えが今、目の前に立っている。


「貴方だったんですね。アレクセイ騎士団長」

「ああ、姫様のことかな? あの方の力は脅威だったからね」


 アレクセイは王女様の天啓スキルを知っているようだ。

 彼は続けて言う。

 

「完全に呪いきる前に引き籠ってしまったのは想定外だったよ。いや……もっと想定外だったのは、君たちを呼び寄せたことだ」

「……理由を聞いてもいいですか?」

「ん? 何の?」

「呪いの王に従う理由です。貴方も、最初からそうだったわけではないでしょう?」


 呪いの王の眷属には、大きくわけて二種類存在する。

 初めから眷属として誕生した者と、後から王に見初められ眷属となった者だ。

 不完全な状態では、新たに眷属を生み出すことは出来ない。

 今、この世界に存在する眷属は、すべて後者だ。


「貴方は王国の騎士団長だ。そんな人がなぜ?」

「騎士団長……か。そうだな、一言で言うなら、より高みを目指すため」


 抽象的な発言が飛び出す。

 俺は意味を理解できず、首を傾げる。


「ユーストス、私はね? 王国も、民も、最初からどうでも良かったんだよ。ただ私は、己の剣術を極めたかった。最も偉大な剣士になりたかったんだ」


 そのセリフを、俺は聞いたことがある。


「騎士団に入ったのは、剣術を極める場として最適だと思ったからだよ。王国に仇名す敵は、それなりに手強かったからね」


 少し違う。

 それでも、同じだと思った。

 剣聖と呼ばれた男と、彼は同じセリフを口にしている。


「強くなった自信はあった。王国最強、世界最強の剣士と呼ばれて、高みに至ったのだと。だが……その折に私は見せられた」


 呪いの王、その意志との接触。

 それは彼にとって不運であり、運命でもあった。


 彼は知ったのだ。

 真に高みの領域に至った剣士の存在を。

 同時に悟った。

 自分では、その領域には至れないということを。


「ユーストス、君の剣は()と同じだ」


 アレクセイは知っている。

 剣聖と呼ばれた男の強さを、呪いの王に見せられている。

 だからこそ、俺と剣聖の姿を重ねている。

 彼は腰の剣を抜く。


「ならば君と私が戦うことは、偶然ではなく必然だ」


 両手で剣を握り、隙のない構えをとる。


「剣聖を超え、私の選択が間違いではなかったと証明しよう」

「……」


 アレクセイが見ているのは俺じゃない。

 俺を通して、剣聖を見据えている。

 これは挑戦だ。

 だったら、俺のするべきことは決まっている。


「構えたまえ」

「ああ」


 その挑戦を受けて立つ。

 剣聖を受け継いだ者として、彼の選択が間違いだったと示そう。

 俺は剣を生成し、切っ先を彼に向ける。

 すると、彼は穏やかにほほ笑む。


「それでいい。あまり長く時間をかけると、パリカに怒られてしまうからね」

「パリカ……さっきの悪魔か」

「そう、星降る魔女パリカ。彼女はとてもせっかちで、待たされるのが嫌いなんだ」

「その言い方だと、もう向こうは終わってるみたいだな」

「ああ、そう言っている。パリカは強い。彼女たちでは万に一つも勝ち目は――」


 俺はくすりと笑った。

 アレクセイは途中で言葉を詰まらせ、眉間にしわを寄せる。


「何を笑っているのかな?」

「いや、何でもない。ただ……あんたが思っているほど、俺の弟子とあんたの部下は弱くないよ」


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