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40.ギガース

 また遊んでね?

 彼女はそれに、はいと答えた。

 つい一分前のことだ。

 別れを惜しんでいた。

 笑って手を振りながら、何度も声を出していた。


 今はもう……聞こえない。


「そん……な」


 アリアは悲嘆にくれる。

 悲しむのは後にしろ、と言わなくてはならない。

 それを残酷だと理解しながら、俺は自らを奮い立たせるために叫ぶ。


「武器をとれ!」


 あれは俺たちの敵だ。

 今、この瞬間に理解すべきは、それだけで良い。


「――うん!」


 アリアは言葉を振り絞り、剣を抜く。

 ティアは弓を、マナは杖を構える。

 アレクセイとグリアナも、腰の鞘から剣を抜き、切っ先を向ける。


 破壊の巨人――ギガース。

 全長五十メートル超えの巨体で、小さな村を踏みつぶした。

 人間ではない。

 悪魔ですらない。

 あれはただの魔物だ。

 悪魔の手によって生み出された破壊の化身だ。


 ギガースは自然発生する魔物とは違う。

 あの巨体を隠していた何かがある。

 もしくは、魔物を操れる術者が近くにいるはずだ。


 ギガースがこちらに気付く。


「マナは俺の援護を! 他の皆は周囲を探索してくれ。おそらく巨人を呼び出した何者かがいる」

「了解した。ユーストス殿、巨人の相手は任せていいのだな?」

「ええ、そのつもりです」


 右腕を高らかに上げる。

 剣の加護を発動。

 無数の剣を空に高くに生成し、一斉に降り注がせる。


「剣の雨よ」


 降り注ぐ無数の剣。

 ギガースの巨体では避けられない。

 否、避ける必要がない。


「弾いてる」

「……やはりか」


 ギガースの表皮の硬度は、ドラゴンの鱗に匹敵する。

 生半可な攻撃では、ギガースの皮膚に傷一つ付けられない。


「マナ」

「任せて」


 だから彼女に援護を任せた。

 的は大きく狙う必要はない。

 隙のある強力な魔法でも、ギガース相手なら使える。


「こっちに来てる」

「大丈夫だ」


 巨大な剣を生成。

 四方を取り囲むように地面にさす。

 剣の檻といったところか。

 生成できる剣は、大きさや形を自由に選ぶことが出来る。

 剣というよりもはや壁だが、こういう使い方もある。


「いけ!」

「――プロミネンス」


 三段階の魔法陣が展開。

 炎が生まれ、次の魔法陣にぶつかり、巨大化してさらに次へとぶつかる。

 プロミネンスは炎魔法の中でも、インフェルノに次ぐ威力を誇る。

 以前の彼女は使えなかった大魔法。

 大魔法使いソロモンの技術を伝承による得たことで、巨大な力をコントロールできるようになっている。


 燃え盛る炎がギガースを包む。

 苦しむ声が挙げているが、依然として倒せてはいない。


「これでも効かないの?」

「いいや、ちゃんと効いてるよ」


 ダメージがない、というよりは体力が果てしなく多いという感じか。

 じわじわ削る攻撃だと時間がかかる。

 それに、火傷が徐々に治癒していくのが見えた。


「自己治癒能力も高いな」

「お兄さん、ボクの魔法じゃ倒せない」


 軽い怪我程度なら回復してしまう。

 ギガースを倒すためには、一撃で即死させられる威力を発揮する必要がある。

 残念ながら、今のマナでは火力不足らしい。


「だったら俺も手伝おう」


 俺は魔法陣を展開する。

 それを見たマナが意図を察し、プロミネンスを唱える。

 純粋な火力だけでは足りない。

 ならば、別の魔法を掛け合わせて相乗すれば良い。

 例えばこんな風に――


「プロミネンス!」

「――穿て」


 突風により炎の渦と化したプロミネンスが、ギガースの胸を直撃する。

 俺が発動したのは、竜巻を発生させる魔法だった。

 風魔法は炎魔法の威力を底上げできる。

 加えて微細なコントロールのお陰で、風の特性も消さない。

 荒ぶる風がギガースの表皮を削る。

 熱を加えて溶かしながら、炎の渦が胸を貫く。


「よし!」


 いくら高い再生能力をもっていても、内部から焼かれれば一たまりもないだろう。

 ギガースはうめき声を上げながら、どさりと地面に倒れる。

 巨体が倒れたことで、地面が大きく揺れる。


 それと同じタイミングで、アリアの声がこだまする。


「見つけた!」


 ――の二分ほど前。

 アリアとティア、アレクセイとグリアナは二手に分かれ、左右から術者を探索していた。

 違和感に気付いたのはティアだ。


「止まってアリア!」


 二人は立ち止まる。

 ティアが見つめる先は、ギガースの後方。

 アリアも視線を合わせるが、そこにはなにも見えない。

 しかし、エルフであるティアには、些細な変化が目に映る。


「あの場所だけ……風が避けてる」

「えっ、本当?」

「間違いない!」


 ティアが魔法弓を発動させる。

 距離はそれほど遠くないが、直線では狙えない。

 ギガースとの交戦で、剣の壁が射線を遮ってしまっている。

 だが、彼女も英雄の技巧を受け継いでいた。


 ティアが放った矢は、大きく弧を描いて飛ぶ。

 狙う場所が見えなくとも、一度でも視界に捉えたなら、あとはルートを絞るだけ。

 今の彼女は、動いていようと、隠れていようと狙い撃てる。


「当たった!」


 何かが砕ける音がして、そこから一人の女性が姿を現す。

 アリアが声をあげ、アレクセイたちも合流。

 ギガースを討伐した俺とマナも、同じ場所に集まった。


「あらら~ こんなにも早く倒しちゃうなんて驚きね」


 姿を見せたのは褐色肌の女性。

 頭から生える角と、背から生える翼。

 腰から伸びる尻尾が、彼女の正体を現している。


「悪魔か」

「ええ、見ての通りよ」


 俺は剣を構え、彼女を睨む。

 悪魔はニヤリと笑いながら言う。


「そんな怖い顔をしないで。ワタシの役目は貴方じゃないわ」

「どういう意味だ?」

「ワタシの役目は様子見なの。貴方の力を少しでも引き出すために」

「様子見?」

「ええ。だからそっちはお願いね?」


 誰に言って――


「ああ」


 と、返事をした。

 その人物の名は、騎士団長アレクセイ。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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