39.束の間の休息
何もかも救えるとは限らない。
力を手にした今でも、俺は矮小で無力だ。
そう実感させられても、旅は続く。
呪いの王を倒すまで、立ち止まることを許さない。
世界が、仲間が、かつての英雄が。
突き進めと告げている。
俺たちは旅を続けている。
王国の領土を超えて、西の果てを目指す。
「次の街までは数日かかる。当分は野宿が続くだろう」
「ですね。しばらく安心して眠れそうにない」
「君は眠っておいた方がいい。いざというときに、君が戦えないのであれば話にならない」
「そういう意味なら、団長さんもそうでしょ? 悪魔と真っ向から戦えるのは、俺と団長さんだけですし」
現在の地点は、王国と目的地の中間地点。
ここに至るまで、二度にわたって呪いの王の眷属と交戦した。
悪魔の中でも上位の実力者は、呪いの力がなくても強大な力を持っている。
成長したとはいえ、アリアたちでは劣勢を強いられる。
そんな中で、アレクセイには何度も助けられた。
「王国最強……いや、現代最強の剣士。その名は伊達じゃないですね」
「買い被りだよ。私など、名だたる剣豪たちの末席に過ぎない」
「それこそ謙遜でしょう。少なくとも、俺は団長さんより強い剣士を知りませんよ」
もちろん、現代ではという意味だが。
「ふっ、君がそれを言うのか」
「えっ?」
「いいや、何でもない」
夜が更けていく。
人知れぬ森の中は、冷たくて、薄暗くて不気味だ。
翌日。
さらに西へと進んでいく。
地図上だと、俺たちのいる地点は森におおわれている。
しばらくは緑の景色が続きそうだ。
すると、マナが何かを見つける。
「お兄さん、あれ」
「ん? 建物……か?」
彼女が指さした方向に、木製の小さな小屋が見えた。
明らかに誰かが建てた建造物。
地図を再確認しても、この周辺に街や村は確認されていない。
「警戒しておこう」
「ああ」
俺とアレクセイが先頭に立つ。
新たな刺客に備えて、武器を構え前へ進む。
すると――
ガサガサガサ。
近くの草むら可愛らしい耳が二つ。
「おじさんたちだ~れ?」
「子供?」
「それも獣人種か」
茶色い犬耳をぴくぴく動かす男の子。
一人が顔を出したと思ったら、次々と他の子どもたちも姿を見せる。
「こんなにたくさん……」
「そういうことか」
小屋の方へ視線を向ける。
そこには獣人の大人たちの姿があった。
地図に載っていない獣人の村。
俺たちは偶然そこへたどり着いたらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「良かったんですか? 俺たちまでご馳走になって」
「もちろんです。建物の修繕を手伝ってい頂いたお礼です。子供たちとも遊んでくださって、本当に助かりました」
「いえ、そんな大したことは」
小さな村だった。
住んでいるのは獣人だけで、老人から子供まで合わせても百に届かない。
建物もこじんまりとしていて、豊かな生活とは言い難い。
それでも、彼らは楽しそうに暮らしていた。
数日前、魔物の襲撃にあい建物の一部が壊されていた。
魔物は何とか追い払ったが、負傷者も出たらしい。
それを聞いた俺たちは、村の修繕と負傷者の手当てに協力した。
先を急ぐ身ではあったけど、困っている人を放ってはおけない。
全員意見を一致させて、こうして共に食事をとっている。
「アリアお姉ちゃん! 外で遊んでー!」
「駄目だよ。今日はもう真っ暗だもん」
「えぇ~ 大丈夫だよ? 僕たち夜でもちゃんと見えるもん」
「だーめ。また明日ね」
アリアは子供たちに大人気だ。
同じ獣人族だから、というだけじゃなくて、元々面倒見が良いから。
微笑ましさを感じつつ、穏やかな時間を過ごす。
「こういうのも悪くないですね」
「ああ、偶にはな」
同じことを、アレクセイも思っていた様子。
戦いの渦中にいる俺たちにとって、平穏は一番遠い場所にあるはずだ。
のんびりしている暇はない。
嘆いている暇すらないのに、こんな風に寛いでもいいのかと思ってしまう。
「まぁ、いいのではないか? さすがにこんな小さな村で、奴らも待ち伏せたりはしていないだろう」
「そこは心配していませんよ。獣人、というか亜人が眷属になることはありませんから」
「そうなのか?」
「はい。理由は俺にもわかりませんが」
彼らの記憶にも、行く手を阻んだ眷属は、人間か悪魔だけだった。
当時は現代よりもっと亜人種がいたけど、誰一人として呪いの王の味方にはいなかった。
単なる偶然にも思えるけど、そうではないと彼らの意思が語る。
そうして夜が更けていく。
一夜明けて、俺たちは出発の支度を整える。
さすがに何日も休んではいられない。
名残惜しいけど、もう出発の時間だ。
「えぇ~」
「もう行っちゃうの?」
「ごめんね。また遊びに来るから」
アリアが子供たちの頭を撫でる。
寂しそうな表情を見せる子供たちに、アリアは微笑みかける。
「ぜったいだよ?」
「待ってる!」
「うん」
また遊ぼう。
戦いが終わったら、村に立ち寄る。
今度こそ気のすむまで遊んで、疲れて一緒に眠れば良い。
「先生」
「ああ。全部終わったら、もう一度来よう」
「うん! ぜーったい勝たなくっちゃね!」
アリアは気合を入れ直す。
小さな村だったけど、とても暖かくて心地よかった。
彼女だけでなく、他の皆もまた来たいと思っているはずだ。
約束を守るため、俺たちは前を向く。
そんな小さな約束さえ、呪いの王は許さない。
「え……」
轟音が鳴り響く。
後ろからだ。
さっきまで話していた場所を、徐に振り向く。
そこにはもう……何もなかった。
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