21
「リーダー」
愛歌と共に何事もなく無事に解決した後日。
海斗の部屋に愛歌が訪ねてきた。
「見て見て。これ、どう。似合ってる?」
自らの首元を指さす。
「前に言ってたのってそれか」
愛歌の首には海斗がプレゼントした弾丸のネックレスが、チョーカーとしてそこにあった。
「こうしてるとリーダーに束縛されてるみたいで、嬉しい。それにネックレスだと任務中に無くしちゃいそうで怖くて」
「……そうかい」
「えへへ。リーダーお昼まだだよね? 食べに行こ」
嬉しそうにほほ笑む愛歌は、海斗の腕をとり部屋から引きずり出す。
「確かにまだだったけど。狙ってきただろ」
「だって、一緒に食べたかったんだもん」
「しょうがない。……行くか」
「やった」
小さくジャンプし体全体で喜びを表現する愛歌はまるで子供のようで、銃を向けられても動じなかった人物だとはまるで思えない。
そんな愛歌と共に食堂に向かっていると、途中で小さな人影と出会った。
「あ、サラちゃん」
「……デート?」
「第一声がそれか」
「デートだって、リーダー。私たちそういう風に見えるんだって!」
「はいはい、よかったな」
人の目を気にせずに嬉しそうにはしゃぐ愛歌を、適当にあしらっているとサラが意外そうに見ていることに気付く。
「どうした」
「愛歌と海斗の距離感が近付いてる、気がする」
「そうか? 前と同じだと思うけど」
「鈍い海斗には聞いてない。愛歌?」
「やっぱり、サラちゃんには気付かれちゃうか……」
ちらりと海斗を見上げ、少し恥ずかしそうにしながらも愛歌は話始めた。
「その、リーダーに銃を向けられたとき撃たれたくない、怖いって気持ちは勿論あったんだけどそれと同時にリーダーになら殺されてもいい、とも思ったの。復讐心が少しでも和らぐのなら、それでいいって。死ぬのは嫌だけど、好きな人のためになら死ぬのならまだ納得できるなって思った。でも結局リーダーは私を撃たなかった。その時に気付いたんだ。私は自分の命を懸けられるほどリーダーのこと好きなんだって。そう実感したら、今までよりももっとリーダーのこと好きになってた」
「……もしかしてヤンデレ?」
「病んでないもん! 重いだけだもん!」
「重いのは分かってるんだ」
そう言いながらサラは珍しいものを見るような目で愛歌を見つめる。
「普通、銃を向けられてさらに好きになることなんてない。愛歌変わってるね」
「それが私だから」
堂々と言い放つ愛歌にサラは呆れながらも好意的な表情を見せる。
「そっか。……それで海斗」
「ん?」
「ドーナツ」
「あ。忘れてた。今度買ってくるよ」
「だめ。愛歌と食事したらそのまま一緒に買ってきて」
そう言いつつ海斗に気付かれないように愛歌に視線を送る。二人で出かけてこいという意味だ。
「……まあ愛歌がいいならそれでいいけど」
「全然いいよー」
「じゃあ、飯食ったら買いに行くか」
そうと決まれば早く昼食を済ませるべきだと、海斗はサラと別れ愛歌と共に食堂へと向った。
少し歩いてたどり着いた食堂へ入ると、見知った顔が見知らぬ美人に話しかけているところに出くわした。
「昼間っからこんなとこで……」
海斗の視線の先には、絶賛ナンパ中のレオンがいる。
どうやら上手くいっていないようで振り手振りを交えながら会話しているが、やがて女性は興味を完全に失ったらしくレオンの前から去っていった。
「はあー……」
大きくため息をするレオン。ここは見て見ぬふりをするべきだろうと海斗はこの場を去ろうとするが、一歩遅くこちらを偶然見たレオンと目が合ってしまった。
こうなると無視するのもどうかと思い、何とも言えない表情をするレオンに合流する。
「情けねえとこ見られちまったな」
「もう見慣れた」
実を言えばレオンがナンパに成功しているところも失敗しているところも、これまでに何度も目にしたことがあった。
「そうかい……そっちはデートか。あんなことがあってすぐによくやるわ」
「えっへへ。羨ましいー?」
「お前らが二人でいるとこなんかもう見慣れたって。今更何とも思わん」
「ちぇー」
つまらなさそうにむくれる愛歌を見てレオンは嬉しそうに表情を緩める。
「まあこうして誰一人としてかけることがなくてよかった。あんときの海斗は何するか分かったもんじゃなかったからな」
「悪い、色々迷惑かけた」
「いいさ。結局何もなかったし、そういう時に力になるのが仲間ってもんだろ」
「助かるよ。これからドーナツ買いに行くけど、レオンも食べるか?」
「あるなら食うぜ」
「じゃあ、今夜はみんなでドーナツパーティにしよう!」
サラほどではないがドーナツ好きでもある愛歌は、その時を想像したのか口元を緩める。
「ね、私もお金出すからいいでしょ?」
「任せる」
「俺も」
海斗とレオンからの承諾を得た愛歌は、当初のサラのためドーナツを買うということも忘れ何を買おうか考え始める。
「そういや愛歌が海斗のために飯作ってるとこ見たことねえな」
「なんだよ突然」
「お前らが揃って飯食ってるとこは何回か見たことあるけど、愛歌が手料理ふるまってるとこ見たことないし。男でも女でも料理できる異性って魅力的に映るだろ。愛歌ならアピールのためにそういうのやりそうだからちょっと意外でよ」
男をつかむなら胃袋をつかめ、とは昔からよく言われていることだ。それなのに愛歌が実戦しないのが不思議だった。
「んーと、それはね。そこで選んで欲しくないから、かな」
「? 普通そういうのも選ぶポイントになるんじゃねえのか?」
レオンはナンパするときによく料理が出来ることを話のタネにする。女性側が料理できるのであれば共通の話題にできるし、できないのであれば豆知識などを披露することができるからだ。
「リーダーには"私"を好きになって欲しいから。……えーと、料理できる私を好きになるのはいいんだけど、美味しい料理を作れる私を好きになって欲しくない……って言って伝わるかな?」
「あー、なんとなくだけど。それだと料理できなければ愛歌のことを好きにはならない、みたいな感じがするってことだろ」
「料理できても、できなくても私は私だから。餌でつるような真似はしたくないんだ。別にそれが悪いことだとは思ってないんだけどね。結婚とかするなら必要になってくることだし。ただ、私の感情がそれを許せないの。ちょっとしたこだわり」
「いいな、そういうの」
ぽつりと海斗がつぶやくと、さっと素早く愛歌が視線を向けた。
「ほんと!?」
「わざわざそんな嘘つかないって」
思わぬところで好感度があがったことで嬉しそうにはしゃいでみせる。
「じゃあお邪魔虫は消えるとするわ。あとはお前ら二人で楽しんできな」
気を使って去っていくレオンと止めるはずもなく、海斗たちは黙って見送る。
そして二人で他愛のない話をしながら食事をとると、行きつけのドーナツ屋へいこうとした海斗を愛歌が呼び止めた。
「ねえリーダー。どうせならいつもは行かない方のお店に行こうよ」
「なんで? そっちの方が遠いだろ」
「だからだよ」
「……まあいいけど」
愛歌の言葉が意味することを理解しかねながらも海斗はそれを承諾した。
「やった。それじゃあれっつごー!」
体全体で楽しいという気持ちを表現するようにしている愛歌を見ていると、撃たなかったのは正解だと感じられた。
「リーダーなんだか嬉しそうだね?」
「気のせいだろ」
いつの間にか表情が緩んでいたのを、目ざとく見つけ指摘される。
最近どんな生まれでも大事なのはそこではなく、それからの生きざまなのだと海斗は愛歌を見て思うようになっていた。
どれだけ辛い過去があって自分が人とは違う存在であっても、それを受け止めしっかりと向き合って生きる愛歌はとても美しく見えた。
「……なあリーダーって呼ぶの、やめないか」
「え、なんで?」
「いや愛歌も記憶戻ったし、いい加減命の恩人とかオルカ隊のリーダーとかって見方じゃなくて俺個人として見て欲しいからさ」
「んー、じゃあご主人様とか?」
「なんでだよ」
おどけてみせる愛歌に思わず笑みを浮かべる。
「ごめんごめん、冗談。なんて呼べばいい?」
「そうだな……」
愛歌に決めてもらうのでもいいと思う海斗であったが、そう尋ねられた時頭に思い浮かんだものが一つあった。
「俺のことは海斗って呼んでくれ」




