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海斗たちは犠牲を出すことなく無事に基地に戻ってきていた。
既に報告は完了し琥珀との一件は、不意に接敵してしまいやむを得なく戦闘したものだと偽った。
オルカ隊、オルキヌス隊共に治療を終えそれぞれの部屋へと戻っている。診察の結果愛歌は特に問題はないという結果がでたものの、それならばあの液体はなんだったのかという疑問が残る。
作戦中に日付は変わっており、報告や治療などを終えた現在は既に日が高く昇っている。
そんな中愛歌はサラの部屋を訪れていた。カーテンが閉められ電気もついていないため部屋は薄暗い。
「サラちゃん……大丈夫?」
部屋の主はベッドの上でうずくまっていた。元々小柄なサラではあるが、より一層小さく感じられる。
「ぐすっ……愛歌……」
顔を上げたサラは既に涙目になっており、辛そうな表情で愛歌を見上げた。任務中は気丈にふるまっていたサラだったが、自室に戻ってきて一人になり気を張る必要が無くなったがために、素直な感情が溢れだしたのだろう。
そんなサラを見た愛歌はゆっくりと近づいていき、優しくぎゅっと抱きしめる。
「サラちゃん、辛かったよね。琥珀ちゃんとお友達だったのにこんなことになっちゃって」
「うん…………ね、愛歌。ちょっと聞いて。私たちの昔話」
「勿論」
「琥珀はね、明るくて優しくて、勉強はできなかったけど運動が得意で、みんなから人気があって。私の憧れでもあった」
サラが語るのは昔の、愛歌が仲間になるよりもずっと前。それはサラがSB教団に捕まるよりもさらに前の、ただの少女だった時の話。
「学校で一番人気があって、ほんとは私なんかと一緒にいるような子じゃなかったのに、一人でいる私のことを気にかけてくれて」
涙声ながら、昔を思い出して懐かしむように話し出すサラ。
「とっても笑顔が魅力的で……、でも虫が嫌いで近くに虫がくるとすぐ怖がって【怖い、サラ助けてっ!】なんて言いながら抱き着いたりしてきて、可愛かった」
「そうなんだ」
「うん。唐揚げが好きで一緒にご飯食べに行くと絶対頼んでて……たまにダイエットしてるんだったとか言って頼んでから私にくれたりして。最初から注文しなきゃいいのにね…………食べながらお互いに好きな人の話とかもした」
サラの愛歌に抱き着く力が強まる。
「色々悩みも聞いてもらったり、とってもとっても、いい子で。それで、それで……」
「うん、うん……」
「ぐすっ…………。あんなことがあって。私だけ助かっちゃって。琥珀とはもう思えないと思ってたけど…………」
あんなこと、とはSB教団にサラと琥珀が捕らえられた時のことだろう。
「琥珀……うぅ。生きてたのに。私が、私が…………」
「違うよ、サラちゃんのせいじゃないよ! ああするしかなかったんだもん。それに琥珀ちゃんもそれを望んでたよ」
「……ぐずっ、それでも、それでも私はもっと頑張って琥珀を助ける方法を探すべきだった。私は琥珀と、友達なんだから」
それが夢物語であることはサラにも分かっている。白鯨の力を使って洗脳していたらしい琥珀を、どうにかするすべは今の世の中には存在しない。
それでも自分を責めてしまうのは友を自分の手で殺したという受け入れがたい事実からだろう。サラ自身経験がなく初めて知ったことだったが、友達を亡くすのと戦友を亡くすのではまた、心を襲う辛さが別物だった。
「ううん、違う。サラちゃんはすっごく頑張った。自分の命を賭けてでも琥珀ちゃんを助けようと頑張ってたもん。私が保証する。サラちゃんは精一杯のことをやった。しっかりやったよ、偉い!」
抱きつく腕の力を僅かばかり強める。少しでも離れてしまえば、壊れてしまいそうな一人の少女を支えるために。人肌を感じて安心してもらうために。
「そうかな、私ちゃんとやれたかな……?」
「うん誰も文句を言わないよ。だからサラちゃんもそんな自分のことを褒めてあげて」
「なら、良かった……。琥珀、琥珀……うああああああああああああああ琥珀うううううううううううううう」
ついに堪えられなくなったサラは生まれたての赤子のように、恥も外聞もなくただ泣きじゃくる。
そんなサラをあやしているといつの間にか愛歌の瞳にも雫が溜まり、つられるようにして涙を流す。
涙が枯れるまでの数分間、思いっきり泣いたサラはゆっくりと愛歌から離れる。
「なんで愛歌まで泣いてるの」
「辛そうなサラちゃん見てたら、つい……えへへ」
照れ隠しに笑いながらもう大丈夫そうだとサラを見つめていた愛歌は、右手に琥珀のヘアゴムが握られていることに今になって気付いた。
「髪、それでポニーテールにしてあげよっか」
「うん、お願い」
涙をぬぐい、背を向けるサラの髪をまとめ髪を結う。
「サラちゃん髪の毛さらさらしてるね、綺麗」
「そう? 気にしたことない」
「そうなんだ。羨ましいな」
「私は愛歌の髪好き。白くて光で反射してキラキラするから」
「ふふっ、ありがとねサラちゃん……はい、できたよ」
しっかりと結われたポニーテールを確かめるように触ったサラは満足そうに微笑む。
「ありがと」
「……。サラちゃん、やっぱり笑ってる方が可愛いよ。泣いてる顔は似合わないって」
「ん……。愛歌、ほんとにありがと」
「え? 髪結っただけでそんなにお礼言わなくてもいいよ。これぐらい何度でもしてあげるって」
サラは愛歌の目を見据え、首を横に振る。
「そうじゃない。私のこと励ましてくれてありがとうってこと。愛歌に頼んでよかった」
「そう言ってもらえたら私も嬉しいよ。サラちゃんはもう大丈夫?」
「完全に大丈夫……とは言えない。でもあとは一人でも大丈夫」
泣きはらしたせいで目元は赤くなっているものの、目はいつも通りの光を取り戻している。
「何かあったらまた頼ってね。いつでもサラちゃんの味方だから」
「海斗と喧嘩しても?」
「うっ……まあ、それは二人の話を聞いてから、かな」
「正直だね。でもだからこそ愛歌を頼りにしてる」
「……じゃあ、私は部屋に戻るね。サラちゃん、一人でゆっくり休みたいでしょ」
「ん。じゃあまたそのうち」
「うん、またね」
そう告げると愛歌はサラと別れ、自室へと戻っていった。
そして部屋に戻ってきた愛歌は明かりをつけることもなくそのままベッドへと入る。
夜間任務を終えこれまで一睡もしていないため、まだ日が高いものの眠気が襲ってきていた。
オルカ隊に配属された当初はこういった任務の後は眠ることができなかったものの、経験を積んだ今ではそんなことは無い。
(そういえば、なんでSB教団はあんなに白鯨のこと詳しかったりするんだろ)
海斗たちからの報告で、愛歌たちがいなかったときのメンカルが言った言葉なども愛歌は聞いていた。それだけでなく琥珀が白鯨装備を使用していたり、白鯨に関連する力で洗脳していたりとAMSFでも知らないことを知っている様子だった。それが不思議なのだ。
(なにかあの場所に残ってる物でわかればいいんだけど……)
だがそれは解析班の仕事であり、愛歌の出る幕はない。一先ず目を閉じ眠ることを優先する。緊急の任務ができることもあるため、こうした時はすぐ眠ってしまうのが得策だ。




