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10.まだ食べてる途中でしょうがー!

 森の入り口まで戻ってきたシイナとカエデ、彼女たちのデーヴァ。「もう特に用事は無いよね?」とカエデがシイナに確認する、シイナは黙って頷いた。


「それにしても、あのスキルは凄かったな。SSRスキルなんて初めて見たぜ」


 アーメスがストレンジアの方を向いて言った。

 “月光丸・紫電”。グリーンドラゴンを一撃で瀕死まで追い込んだあのスキルがアーメスは随分と気になっていた。

 ストレンジアがフフっと笑う。


「いやぁ、私も驚いたよ。まさかあれほどまでに強力だとは。うちのマスターは初めてのガチャでアレを引いたんだよ?“持ってる”としか言いようがないね。誇らしいよ」

「た、たまたまだって……」


 ガチャの運を褒められたシイナが照れ臭そうに頭を掻く。それを見ながらカエデは小さく笑みを浮かべてアクロスギアを操作する。


「それじゃターミナルに帰ろう。ポチポチ、っとなー」






  ◆






 こうしてターミナルへと戻ったシイナとカエデ。

 2人のデーヴァは「すまない。ちょっと疲れたので」「ギアの中で休ませてもらうぜ」とアクロスギアの中へと戻った。特にストレンジアはグリーンドラゴンからもらったダメージが大きかったらしく、また必殺技を撃つ際にも身体の力を消費したようで、声にも疲れの色が見えていた。


「あとは手に入れた薬草をニーナちゃんに届けるだけだね。えーっと、サウスエリアの110-2はどこだろう」


 アクロスギアで地図を開き、ニーナに渡されたメモに書かれている場所を検索する。


「遠っ」


 そして示された場所は……セントラルエリアから大きく離れていた。シイナが思わず驚きの声を漏らす。そもそもアリュビオンという街自体がかなり広大なことにようやく気付いた。


「ニーナちゃんって結構遠くから来たんだね……。あんなに小さいのに凄いなぁ」

「多分馬車か何か使ったんじゃない?街中の交通手段って結構あるからね。あ、ボク達プレイヤーはアリュビオンの各エリアの入り口までならアクロスギアの機能でワープできるよ。まずはここをタップして――」


 そうして再びシイナとカエデの身体が光に包まれてどこかへと転送される。シイナは思わず目を瞑った。

 そして次に目を開けるとシイナとカエデはアリュビオンのサウスエリアに降り立っていた。

 中世欧州を思わせる街並みだ。セントラルエリアと違って近代的な建物は見られない。

 突然その場に現れたシイナとカエデを見て、周りの人間がひそひそと何か喋りながら彼女達を指さす。


「えーっと、何?実はボクってセントラルから出たの初めてなんだけど、なんか……噂されてる?」

「よく分かんないけど、とりあえずニーナちゃんの家に行かないと。案内お願いね」


 シイナはアクロスギアにニーナという少女から貰ったメモに書いてあった住所を打ち込む。すると視界の右端に簡易マップが表示され、『それでは案内を開始します』とメッセージ文が出された。

 ここからさほど遠くはないようだ。2人は案内に従ってテクテクと歩く。


「そういえばさ、こっちの世界では名前で呼び合わない?」


 不意にカエデが口を開いた。


「プレイヤーネームはお互いに“カエデ”と“シイナ”だし、実際に顔を合わせてるのに“ドロ”とか“ナナ”って呼び合うのも変かなーって」

「……うん、そうだね。じゃあ改めて……カエデちゃん」

「ふふっ、女の子に名前呼ばれたのって久しぶり。こちらこそ改めて、シイナちゃん」


 そこから2人は軽い世間話を交わしながらサウスエリアの街を進んでいった。

 カエデは大学2年目にしてようやく友達のような仲の存在が出来たこと、シイナは昨年父親が再婚したのだが、未だに義理の弟とどうやって会話すればいいのか迷っていること、いろんなことを話した。


「彼とは一回ちゃんとまともに話したいんだけどね……。向こうがこっちを避けてる気がして……」

「1つ下の義弟君か……。スケベなこと考える年頃だろうし、もしかしたらシイナちゃんが美人で緊張してるだけだったり?」

「えぇ!?無い無い!私なんてそんな、全然可愛くないし……」

「いやいや可愛いって!最初に見た時ちょっとビックリしちゃったもん。あの破壊神がこんなこんな美人さんだったなんて」

「そ、その話はやめて。軽い黒歴史だから……。というか私なんかよりドロ――じゃなかった、カエデちゃんの方が綺麗だよ。スタイルだって――」


 シイナはカエデの胸へと視線をやる。

 ……大きい。果実でもぶら下げているのかというくらいには大きい。自分の平らに近いボディとは大違いだ。

 そんなシイナの目線の位置に気が付いたカエデは「……えっち」と意地悪そうに呟く。


「あわわ!違う違う!そういう目で見てたんじゃなくって!羨ましいなぁ!……って」

「冗談だよ。あー、シイナちゃんって面白いなぁ」


 溌溂と笑うカエデに対してシイナが「むぅ、意地悪」と口を尖らせる。

 そしてカエデは笑いが収まった後にこう言った。


「まぁでも、義弟くんも案外シイナちゃんと同じでちゃんと話してみたいとは思ってるんじゃないかな。お互いに緊張してるのかも」

「そうかなぁ……」

「話してみないと分かんないって。とりあえず思い切って一回話しかけてみたら?ボクもコミュニケーションは苦手だけど、気が合いそうな子に思い切って話しかけてみたら仲良くなれたんだし、何事もチャレンジだよ!」

「チャレンジ……うん、が、頑張ってみるね!」


 そうこう話しているうちに2人はマップが案内していた場所に辿り着いた。

 こじんまりとした1階建ての民家だ。シイナがコンコン、とその家のドアを叩く。


「ごめんください。ニーナちゃんいます?」


 するとドアの向こうから「はーい!」と元気そうな少女の声が聞こえた。

 初めてこの世界に降り立った時に出会った少女、ニーナのものだ。

 ドアが開かれ、シイナとカエデはニーナと顔を合わせる。ニーナは最初に出会った時にはいなかったカエデの方を不思議そうに見た。シイナが慌てて説明する。


「あ、この人はカエデちゃんって言って、薬草を採りにいくのを手伝ってくれた友達なの」

「カ、カエデだよ!よろしくね!」


 緊張したのか少し慌てて喋ったカエデに対し、腰のアクロスギアから出てきたアーメスが「お前は子供相手にも緊張するのかよ」と、呆れ気味に言った。

 それと同時にシイナのアクロスギアからもストレンジアが飛び出す。出てくると同時に美しいポニーテールをなびかせた。


「お久しぶり、お嬢さん。約束の品を採ってきたよ」


 いきなり現れたストレンジアとアーメスを見たニーナはそれに驚いたのか一瞬目を丸くしたが、その後それは何かを崇拝するようなまなざしへと変わった。


「凄い……!何も無いところから使い魔を呼び出した……!やっぱり“ぷれいやぁ”さんは神の使いなんだね!」

「「使い魔?」」

「「神の使い?」」


 ニーナの口から飛び出した“使い魔”、“神の使い”という聞き覚えの無いフレーズを聞いた2人の人間と2人のデーヴァはそれを繰り返す。

 ニーナはそんな4人の疑問には答えず、「入って入って!」と笑顔で4人を家の中へと招き入れた。






  ◆






「と、とりあえず自分の分は食ったぞ……」

「もう食べられません……」

「人助けはヒーローの仕事!……と思ったけど、これはしんどいね……」

「い、一生分の生クリームを食べた……。シューマ……これは貸しでいいよな……?」

「ああ。今度飯でも奢ってやる」


 シューマとシャルディに押し付けられたジャンボデラックスパフェの残りを食べていたモトカズ、カオルコ、ミナミ、ナギサの4人は恐るべき甘味の量に胸焼けし、バタリと机に突っ伏した。

 ただし、ソウハだけはピンピンしており、他の4人よりも多くよそわれたパフェをまだ丁寧に食べている。

 食べるのを断ったレウル、クオン、プロトの3人はそれを見ながら「やっぱりちょっと手伝えばよかっただろうか」と思う。


 シャルディが「この度はマジ申し訳なかったですわ!」と謝る。ソウハだけが「お安い御用ですよ」とスプーンを動かしながら大量のクリームとアイスを口に運んだ。


 そんな時、机に伏していたナギサの視界の端にメッセージウィンドウが開いた。


【アナウンス:尿意を感知】


「おっと」


 ANOを始めとしたVRゲームでは現実の世界に便意、尿意、空腹といった生理現象をダイヴ用ギアが感知するとそれを知らせるアナウンスが表示されることになっている。

 文字通り、現実世界のナギサの身体が尿意を感じているのだ。これは一旦戻らなくては不味い。ナギサは上体を起こす。


「ごめんなさい、ちょっとトイレに行くから一旦落ちます」

「トイレならあっちだぜ?」


 レウルが店の奥を指さす。「お店のトイレじゃなくて現実の方のトイレに行くんだよ」とナギサの代わりにクオンが返した。

 そういえばこの店の中のトイレは誰が使うんだ?デーヴァか?とナギサ達は疑問に思う。

 ナギサはアクロスギアを操作し、メニューから『ログアウト』を選択。


「お、食い逃げか?」


 モトカズがニヤニヤと笑う。


「すぐ戻ってきますって。もし長いこと戻ってこなかったら誰か一旦払っといてくれません?」

「分かったよナギサさん」


 ミナミが言った。それを聞いたナギサはログアウトを開始する。


『ログアウトします。店内で会計を完了していないため次回のログインポイントは現在位置固定となります』


「あ、食い逃げ防止ってことね。なるほど」


 ナギサの身体がアリュビオンから消滅しようとする。プレイヤーがログアウトしようとするとともに、ソウハの身体も消えようとしていた。


 まだパフェを食べ終わっていないソウハが自分の身体を見てハッとなる。

 そしていつも落ち着いた彼女があまり出さないような、大きな声でナギサに向かって叫んだ。


「ちょっとナギサ君!まだ私が食べてる途中で――」


 ――しょうがー!


 と、言おうとしたのかどうかは分からないが、ソウハの身体もナギサと同じタイミングで消滅した。

 持ち主が消えたことで床に落ちそうになった小皿とスプーンを、ソウハの隣に座っていたプロトが咄嗟にキャッチする。「セーフ!」と一息吐いた。


「ログアウトする時にデーヴァを外に出している場合は一声かけましょう。これ、マナーですわ」


 シャルディがわざとらしく人差し指を立ててそう言った。


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