7.VS初心者狩りコンビ -おブッパですわ!
“イグニッション”。それはプレイヤーとデーヴァの同調を告げる合言葉だ。デーヴァの名前とその合言葉が同時に紡がれることにより、プレイヤーの意識や感覚は支配するデーヴァと一体となる。
それによりデーヴァは主人であるプレイヤーの思考と感覚、そして戦いに必要な4つのスキルを獲得するのだ。
ナギサはソウハと、シューマはシャルディとそれぞれ一体となり、2体のデーヴァが己の姿を戦闘時のスタイルに変化させたと同時に武器を構える。
「人生は二度あり、そして三度もある!“白銀の魔弾”シャルディ、絢爛華麗に改めて参上、ですわ!」
シューマが己のデーヴァであるシャルディとリンクした直後だった。軍服を纏った彼女はババーン!という効果音でも背景に背負っているのかという勢いで謎の口上を叫び、気取ったポーズをとった。
そんなシャルディの姿を、西洋の騎士風衣装へと姿を変えたソウハと、彼女とリンクしたナギサが呆然と見つめる。それは敵の魔女っ娘・ヒナと女騎士・ジェシカも同様だった。
……え?ナニコレ?
そんな周りをよそにシャルディは大きな胸を張り、フン!と得意げな顔。
「フッフッフ……。ワタシたちの華麗な登場に声も出ないようですわよシューマ様」
『引いてるだけだと思うぞ?』
そんなシャルディに対してシューマが冷静に言った。いきなりそんな名乗りを上げて出てこられたら普通の人間は呆気にとられるに決まってるだろう。
それに口上の内容もおかしい。“白銀の魔弾”はまだいい。美しい銀髪とドレスと軍服を合わせたような高貴な衣装と魔法の弾丸を放つ拳銃、まあマッチしている単語だ。
なんだ?最初の“人生は二度あり、そして三度もある”って。せめて“人生は二度ない”とかだろう。何故三度もある!?
ただ、そんなシャルディの姿をソウハだけがキラキラとした眼差しで見ていた。
「カッコいいですシャルディ……!ナギサ君、私達も何か考えるべきでは?」
『嘘だろおい』
そんな2人のやり取りを見て、ヒナとジェシカ、そしてリンクしている“ヨムヨム”と“シロップ”が笑い声をあげる。
「おっかしー!人生は一回しか無いんだよ?」
『おかしいよねヒナっち!あいつら馬鹿なんだよきっと!』
「戦いの前にそんな見得を切るとは……。二流、いえ三流のやることですね」
『ANOを始めたばかりで調子に乗ってる初心者なんだ。多めにみてや――』
『"バルカン・ショット"』
ズダダダダダダン!
突如、銃声が響き渡る。言葉を交わす2人に幾多の銃弾が迫っていた。
シューマが弾丸を連射させるスキル、"バルカン・ショット"の名を呟くと同時に、先ほど大声で名乗りを上げたシャルディが冷静な面持ちで魔銃の引き金を引いていた。完全な不意打ちだ。
『お喋りしている暇があるなら手を動かすべきだな、カス共め』
「三流……いえ、四流のやることですわね」
――さっきのトンチキな口上って油断を誘うためかよ!?やることが汚い!
シューマ達に対してナギサはそう思ったが、この場合汚いのは向こうの2人なので何も言えない。
「ワタシのオシャレな名乗りを笑った罪、万死に値しますわ!」
――あ、作戦でもなんでもなく本気で言ってたんですか。
『“エレキカーテン”!』
ヒナとリンクしているプレイヤー、ヨムヨムによりスキルが発動されると、ヒナとジェシカの前に電流の壁のような物が出現し、それが魔法の弾丸を弾く。
チッ!とシューマが大きく舌を打った。
「あらあら、防がれてしまいましたわ」
「へっへーん!こんな攻撃へっちゃらなんだから!」
<エレキカーテン>
レアリティ:R
チャージ時間:小
分類:防御/魔法
・電流の壁を作り出す。威力の低い魔法攻撃は無効化される。
シャルディの銃弾を全て防いだヒナがにこやかに叫ぶ横で、ジェシカがソウハの方を向いて言った。
「攻撃を仕掛けてきたということは、わたし達と剣を構えるということですね?」
「先に仕掛けてきたのはそちらですけどね。……ええ、相手になりますよ。ナギサ君たちもその気ですし」
「そうですか、では」
カチャリ、とジェシカが背中の煌びやかな西洋剣を引き抜き、両の手で構える。そして――。
『――“高速化”!』
次の瞬間、ジェシカは風を切るかの如き速さで駆けだしていた。
ジェシカのマスターによるスキル“高速化”が発動されたのだ。ソウハとの間合いを一気に詰め、相手が油断しているうちに一撃を――。
『こっちも“高速化”!』
浴びせることは出来なかった。その一撃はソウハのサイドステップにより躱され、宙を切った。
ナギサはジェシカが駆け出したとほぼ同時に、自分も“高速化”のスキルを発動させ、ソウハのスピードを上げた。スピードならばおそらくこちらに分がある。同じスキルを発動したならばこちらの方が有利だ。
「なっ――。素早い!」
ジェシカによる連撃をソウハは華麗なステップで回避する。そして速度を上げたままバク宙して背後に回り、空いた隙をつくように刀による攻撃。そんな派手な動きにリンク状態のナギサは目が回る思いをする。
「くっ……!」
「スピードには自信があるんです」
ジェシカに斬撃をお見舞いしたソウハが涼しげにそう言い、手を休めることなく攻撃を続ける。
実は彼達もナギサ達と同じでほぼ初心者同然の状態だった。自分の育てた可愛い女性キャラを、勝てるかどうか分からないバトルに出したくはない、そういった考え故に対人戦を全く経験していないのだった。
だがランクは上げたいしコインも欲しい、そう考えた彼らがとった行動が“自分達よりも経験の少なそうなガチの初心者を狙って狩りを行う”というものだった。
だからこの探索ミッションに挑む初心者たちを狙ったのに。
なのに。
(なんだよこいつら……。結構バトル慣れしてるじゃないか……!予想と違った……!)
シロップとヨムヨムは完全にアテが外れた。ナギサとシューマはANOを始めてから日が浅いとはいえ、彼らのデーヴァは数度のバトルやミッションで多少なりとも戦闘慣れしていた。
なので咄嗟の判断や反射神経は初心者狩りの2人よりも優れているといっていい。
剣を交えるソウハとジェシカから少し離れた場所で、シャルディとヒナがそれぞれ魔法の弾丸とエネルギー弾をぶつけあっていた。空中で魔法の弾ける音が響く。
お互いに接近戦を行うタイプではないのか、互いの距離が縮まることは無い。これでは埒が明かないと見たヨムヨムが2枚目のスキルを発動させた。
『ヒナっち!“グランドフレイム”!』
それと共にヒナの杖の先端から巨大な炎の球体が出現する。グランドフレイム、その名の通り高火力の火炎弾を浴びせるSRクラスの魔法攻撃カードだ。
チリチリと大気の焼ける音がする。
「燃えちゃえー!」
そして元気のよい掛け声とともにそれが放たれようとした瞬間だった。シューマも高らかにスキルの名前を宣言して発動させた。
『ハッ、そんなもので俺達を倒せるとでも?やれ!“一角銃”ォ!!』
「おブッパですわ!!」
シャルディは繰り出された獄炎に対して魔銃を素早く向けるとトリガーを引く。
構えた魔銃の銃口から魔法陣のようなエフェクトが展開され、そこから一瞬の閃光が煌めき、まるで一角獣の角のような鋭い光線が凄まじい勢いで発射された。
『フハハハハ!!この一撃で消え失せろ!!』
<一角銃>
レアリティ:SR
チャージ時間:大
分類:射撃/魔法/魔銃限定
・一角獣が駆け抜けるが如し鋭い魔法の銃撃を放つ。スキル発動時、物理攻撃力の半分の数値を自身の魔法攻撃力にプラスする。
スキル発動中は他の行動不可。発動終了後1秒間は硬直状態となる。
ズドオオオン!と大きな爆発音が響き、グランドフレイムは一角銃の威力に耐えきれず消滅した。
「うそっ!あれヒナ達の全力なのに!?」
『ヒナっち!避けて!』
「えっ――」
火炎弾を破壊した光線は多少勢いを弱めたものの、そのまま空気を裂いて突き進み、そしてヒナの身体を撃ち貫いた。
「きゃあああああああ!!」
『うわー!ヒナっちー!』
大きく吹き飛ぶヒナを視線でとらえたシャルディはわざとらしく銃口にフッと息を吹きかける。
「あら、可愛らしい女の子のお腹に穴を開けちゃいましたかしら?」
『なあ、その”おブッパ”とかいう偏差値の低そうなワードはなんとかならないのか?』
「なりませんわ!」
『……そうか。じゃあいい』
シューマが若干呆れたような声でそう言った。
どうやらシャルディのセンスはかなり独特らしく、彼は常に振り回されているらしかった。
「ヒナさん!?」
「余所見をしている場合ですか?」
「くっ――!」
味方の危機に気を取られたジェシカに対してソウハは手を休めることなく刀を振り下ろす。身に纏う鎧がダメージを軽減してくれているものの、防ぎきれない斬撃が着実に鎧を削っていた。
ジェシカは大きくバックステップして距離を一旦取る。
『こうなったら、SRスキルで一気に決める……!』
追い詰められたとみたジェシカのマスターが宙に浮かぶ1枚のスキルカードに手をかけ、それを発動させる。
『“クロスカリバー”!』
直後、ジェシカの剣が巨大な十字の刃をもつ光の大剣に変化した。
クロスカリバー、それは一時的に自身の武器による威力を大きく上昇させるスキルだ。
大振りの十字剣が振り下ろされる。ソウハはそれをまたもや回避するが、リーチの上昇した一撃はソウハの衣服を掠めた。
「ッ!」
『うわ!かすっただけなのに思ったよりダメージ入ってる!』
ナギサはソウハのHPの減少を確認した。一撃の威力が必殺技並みになっているのだろう。まさかここまで上がっているとは。
『そのまま続けろジェシカ!』
「分かっています!」
大振りの一撃がソウハの服を、髪を、そして時には肌を掠める。一撃を食らうごとにソウハの身体からデータの乱れのようなエフェクトが発生し、HPを削った。
そしてついにその一撃がソウハの身体を真っ直ぐに捉えた。
『これで終わりだ!“パワーエッジ”!』
勝利を確信して更に別のスキルを叫ぶシロップ。それとほぼ同時に、ナギサの視界に浮かぶスキルカードが1枚、“発動可”の表記へと変わった。
『……来た!ぶっ壊せ!“ザンテツスラッシャー”!』
ナギサはアクティブ化されたそのカードに触れ、スキルの名を叫ぶ。ソウハの持つ刀の刃が鈍く光り、全ての力が刃に収束していく。
「迎え撃つつもりですか!しかし!」
スキル、パワーエッジの発動により更に十字剣の威力は増している。どのようなスキルを発動してもこちらの攻撃力を上回ることなど不可能だ。そうジェシカは思った。
だが。
バキイイイイン!
光の十字剣はソウハの刀にぶつかると同時に大きな音を立てて破壊された。クロスカリバーの状態が解除され、大きく刃こぼれした西洋剣へと姿が戻る。
「なっ――」
『嘘だろ……!?』
ザンテツスラッシャー。スキル発動中は自身の防御力を半減させることになるが、当たればもれなく大ダメージを与えることが出来る火力重視の必殺技。
発動までに時間がかかり、一度使用すれば再使用までかなりかかるが、それは鍛え上げられていない武器や防具ならばたやすく破壊してしまう。
あいにく敵の武器はスキルによって強化されていたため破壊は出来なかったが、スキルによる強化状態を解除し、武器へダメージを与えることには成功したようだ。
「えっへん。どうですか私達の必殺わ……ざ……、あっ」
『あっ』
だがジェシカの一撃も効いていないわけではなかった。ソウハの持っていた刀の刀身にひびが入っていき、そして……。
『わ、割れたァー!?』
パキン!と音を立てて崩れ去った。
パラパラと刃の破片が崩れ落ち、地面に落ちきる前に光となって消える。
「そちらはもう終わりましたー?」
持ち手と柄の部分だけになった刀を呆然と見つめるソウハに向かって、離れた場所からシャルディが声を掛けてきた。
見るとシャルディが地に伏したヒナの可愛らしいお腹を右の足で踏みつけていた。
目に涙をためた苦悶の表情でヒナがシャルディを見上げている。一方のシャルディは余裕ぶった笑みを浮かべていた。
そしてシャルディとリンクしたシューマがそれを眺めて、「フハハハハハハハ!!」と、まるで悪の魔王のような邪悪な高笑い。
『ハハハハハ!!俺に弱者をいたぶる趣味は無いが、こいつはいい眺めだなぁ!!おいガキ、もっと泣け、喚け!命乞いでもしてみせろ!そうすることで俺とシャルディが貴様達よりも圧倒的に上なのだと実感出来るんだからなぁ!!おい、リンクしている貴様も何か言ってみろ。ん?どんな気分だ?なぁ、どんな気分だ!』
「えーと……シューマ様、そこまで言います?」
『なに、二度と初心者狩りなんてふざけた真似がしたくならないよう、完全に心を折りにいっているだけだ。俺はこのゲームの平和を守ろうとしている』
「でもさっきの台詞はあまりにも邪悪過ぎませんこと……?」
悪役そのもの、と言った台詞と声で笑うシューマに対して、流石にシャルディも軽く引いてしまう。
「ひっ……!ヒナ達の負けだよぉ……。もう、もう許してぇ……」
『も、もうやめろぉ!ヒナっちは防御力が低いんだよ!それに、こんな小さい娘を虐めて君たちの心は少しも痛まないのか!?』
「そんなこと言われても、ワタシ達デーヴァは戦うのがお仕事みたいなものですし」
ヒナの背中から出現した、ドット絵にデフォルメされたヨムヨムの顔アイコンが必死にそう呼びかけるも、シャルディは少し困った顔で答える。
『痛まんなぁ?ちっとも痛まん。所詮は他人のデーヴァだ。そもそも貴様はそのロリガキを全く傷つけないように戦うつもりだったのか?甘いにも程がある。それともそんなことが容易に出来るとでも思ってたのか?もしそうなら俺達も舐められたものだな』
シャルディの背後からもデフォルメされたシューマの顔アイコンが出現し、心底呆れたような声で言った。
『自分が育てた大切な相棒を傷けられたくない気持ちは分からんでもないが、それくらいの覚悟はしておくべきだろうに』
「ワタシはシューマ様に傷つけられたいですわぁ~」
『お前には聞いてない』
ふざけた会話を交わしながらもシャルディはヒナの上に乗せた足を退けることはない。
せめて魔法で攻撃出来ればよいのだが、魔法攻撃を放つための武器である杖はヒナが倒れた場所から少し遠くへと放り投げられている。
「……向こうはもう勝負あったみたいですね」
「ですがこちらはまだ終わっていない!」
「っ!」
ジェシカが刃こぼれしたままの剣を振り下ろす。ソウハはもう使えなくなった刀を投げ捨てると同時に大きく後ろへと飛ぶ。
『もうそっちに武器は無いだろ!“ファイアブレイド”だ!』
ジェシカの持つ剣が炎を纏った。スキル、ファイアブレイドによって炎属性を得て再び強化された剣の攻撃がソウハへと迫る。
『っ!“ファイアボール”!』
武器が無くても使える技はある、とナギサは以前モトカズとの戦いで手に入れた魔法スキル“ファイアボール”を発動させるも、それは振り払われた炎の剣によってかき消された。
――そりゃ炎属性の剣に炎の弾なんか効かないよなぁ。
内心効かないだろうなとは分かっていたが。
「これで終わりだ!」
攻撃の手段を失ったソウハへとジェシカが迫る。
その時だった。
『“シールドブーメラン”!』
突如、ひし形の盾が回転しながら空気を裂いて飛んできた。それはジェシカの一撃を弾き、スキルを繰り出したと思われる者のもとへと帰っていく。
『だ、誰だ!?』
シロップがそう叫ぶと、一人の騎士が木の陰から歩いてきた。
『あれって……』
それは短く切った真紅の髪をなびかせた、青銅の鎧を着た騎士だった。ナギサとシャルディには彼の姿に見覚えがあった。初めてANOの世界にダイブした日、団体戦で活躍していた騎士だ。
「俺か?俺は――」
『それにはボクが答えよう』
名乗ろうとした騎士の背後からドット絵の顔アイコンが現れた。ボク、という一人称だが声の感じからすると女性だろう。
『通りすがりの、ただのナイトだ』
――変な奴が来た。
一同はそう思った。




