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5.アリュビオンを歩こう -オシャレのお時間

「よーし、次はあずみさんと野村あまねのデュエット曲を――」

「烏龍茶が無くなったのでドリンク入れてきます」

「あ、行ってらっしゃい……」


 そうだね。30分だからこまめに飲まないと勿体ないよね。

 ナギサは一人でマイクを握りしめ、お次は恥ずかしいくらい電波な歌詞のラブソングを熱唱し始めた。





 そんなこんなで30分はあっという間に過ぎ、最初は「仮想世界でカラオケってどういうことだよ」と思っていたナギサもそこそこ楽しんでいた。

 今まではアプリの中だけの存在だと思っていたソウハとこうして一緒に遊ぶのはやはり不思議な気持ちで楽しかった。

 清算を終えようと階段を降りてカウンターへと向かう。ソウハも「行きはエレベーターだったので帰りは階段がいいです」と言っていた。


 カウンターには店員がいなかったのでナギサは店員呼び出しボタン……ならぬ、店員呼び出しベルをチリンチリンと鳴らした。ここは世界観に合わせるのか。

 奥から「少々お待ちくださーい」と、受付の時に対応してくれたエルフの店員とは違う声がした。


「やはり30分では歌い足りないな。次はフリータイムで行かないか?」

「でも今のアタシ金欠なんだよな……。バトルなりクエストやるなりして、もっとコインを稼がないと」


 そんな時、ナギサの後ろから同じくカラオケに来ていたらしい2人の声が聞こえた。一人は活発そうな少女の声、もう一人は堅物そうな印象を受けるが、まるで機械のようなエフェクトがかかっていた。

 ナギサはそれらの声に勿論聞き覚えがあった。振り向く。


「……ミナミさん?」

「あれ?ナギサさんだ」


 それは本日のフリーバトルでナギサとソウハを打ち負かしたミナミと、マスクドポリス・プロトの姿であった。







「まさかこんなに早く再会するなんてねー。しかも同じカラオケ店に行ってて、ほぼ同時に出てくるなんて凄い偶然じゃないか?……あ、そうそう。なんなんだあのプロフィール文、思わず笑っちゃったよ」

「あはは……。とりあえず何か書いておこうかなと思ってね……。それにしてもゲームの世界でカラオケに行くとは思わなかったなぁ」

「あたしも最初は驚いたよ。でも自分のデーヴァと歌うのって楽しくない?プロト、凄くいい声で歌うんだよ!」

「ははっ、それは確かに。それにうちのソウハも綺麗な声で歌うんだ。今日初めて聞いたけどビックリしたよ」


 あっという間に再会を果たしたナギサとミナミはお互い色々と話しながらアリュビオン・セントラルエリアを歩いていた。2人の後ろにはソウハとプロトが並んで歩いている。


 2人とも自身のマスター以外とはバトル以外の時にどう話せばいいのか分からないのか、黙って後をついていく。


「でもちょっとビックリしたな。あいつ、最初に入れた曲が10年以上前に僕が好きだったヒーロー番組の主題歌で……」


 “ヒーロー”という言葉にミナミの眉がピクリと反応する。

 そして目を輝かせながらナギサへと顔を向けた。


「ヒーロー番組!一体なんなんだ!あたしなら大体分かるぞ!」

「え、えっと……。剣撃戦隊サムライVってやつで……」

「サムライV!あたしも大好きだ!」


 そうか、バトル中での『武器を使って戦うヒーローもカッコいいけど~』という台詞や服装、プロトの姿からして、彼女は大の特撮好きか。そもそもプロフィールの自己紹介文にそう書いてあったしな。

 ナギサは彼女の勢いに若干押されながらも話を合わせる。自分の好きな作品の話題でもあるし。


「か、カッコいいよね!僕が一番最初に見たヒーロー番組で……というかミナミさん、あれ見たことあるんだ?ボクが3歳の時の番組だったけど」

「あたしはサムライVの放送年に産まれたからリアタイはしてないね。小学生になってからBlu-rayで見たよ」

「へー、そうなんだ」


 女の子なのにヒーロー番組に詳しいなんて珍しいね、と続けようとして出かかった声をナギサは慌てて飲み込む。

 この手の「男なのに~」「女なのに~」という話から相手の趣味に触れるのは大変に失礼な行為であることが全く理解できないほど自分は愚かではない。誰が何を好きでいても構わないのだ。

 だがミナミはそんなナギサの一瞬の表情のブレに気が付いたのか、先ほどよりもほんの少しだけ顔を下げて言った。


「……やっぱり変かな。女なのに、こういう話で盛り上がるのって」

「いや、そんなことは――」


 慌てて何か言おうとしたナギサ。そんな2人の前に、突如現れた何者かがいた。


「あっらー!可愛いお嬢ちゃんに男の子!後ろのデーヴァも超素敵じゃなーい!ちょっとうちの店、寄っていかなーい!?」


 それは非常にガタイの良い体格と、胸元の空いたセクシーなシャツを華麗に着こなした、身体の半分を機械で覆っているお兄さん――いや、オネエさんであった。








 何故自分たちはこんなところにいるのか。

 そんなことを考えながら、4人は半分こオネエさんに半ば無理矢理連れてこられた感じでやってきた、オシャレな洋風の建物の中にいた。高級さを感じる看板には”リリィ・ローズ”と書かれてあった。


 店頭のショーウィンドウには煌びやかなドレスやスーツが並べられており、ブティックらしき施設であることは理解できた。だが店内には和風から洋風、中華、何故か兜やら鎧やらが並べられており、武具屋なのか服屋なのか判断に困る。


 様々な衣装が並べられてあるため店内は非常に広く、様々な商品を眺めるプレイヤーの姿も多く確認できた。


「ナギサくんにミナミちゃんにソウハちゃんにプロトくんね。……ごめんなさいね。あまりにもワタシ好みの外見だったものだから攫っちゃった。ワタシはフランソワ。ここの店長をやってるわ」

「攫っちゃったって」


 舌(これも半分機械だった)をペロリと出しながらも申し訳なさそうに頭を下げるフランソワ。

 フワフワしたお嬢様のような印象を受ける名前とその外見はやたらとミスマッチであり、半分機械で性別不明ってとんでもなく個性強いな!とナギサとミナミは同じようにそう思った。


 こういったユニークな外見であるということはNPデーヴァであることは間違いないのだが、細く引き締まったガタイと鋼鉄のボディが戦っても強そうな印象を与える。


「とっても普通の格好をしてたからまだオシャレしたこと無い人達かと思っちゃってね。うちの店、今セールやってるのよ!良かったら色々見ていって!というか、色々着せるわ!」

「着せるのか……。というか、あたしこの服結構気に入ってるんだけど」


 あら、そうなの?それはごめんなさい。と、今度は結構真面目に申し訳なさそうな顔と声でフランソワが言った。いいっていいって、とミナミが愛想よく笑う。


「でもここは仮想空間!着たい服が何だって着れちゃうわ!たまには着たこと無い種類の服を着てオシャレしてみたら?貴方達、現実の方でもちゃんとオシャレに気を使ってる?」

「あたしはお母さんがバーゲンで買ってくれるやつと制服以外着たこと無いぞ」

「僕も大体そんな感じですね」

「ワーオ!それは勿体無い!是非色々見て回って!そ、れ、と――」


 2人の後ろで立っているソウハとプロトの方へとフランソワの視線が映る。うん?と2人揃って軽く首を傾げた。


「いつも貴方達のために戦ってくれてる相棒にも、オシャレを楽しませてあげなくっちゃ!この店には人間からロボットから翼や尻尾の生えた人たちまで、誰だって満足のいく品が揃ってるのよ!」






 そんなわけで、ナギサ達は色々な服を見て回ることになった。

 セール中ということだが、申し訳ないことに2人はコインを全然持ってないのでそこまで高い物は買えない。

 だが自由に試着して楽しんでいってもらえれば、とフランソワが言うので、お言葉に甘えて何か自分やソウハに似合いそうなものは無いかと探している。


「ナギサ君ナギサ君。凄いもの見つけましたよ」

「……うわお」


 ソウハが抱えて持ってきたのは、背中のパックリと空いた異常に露出度の高い服だった。確かにこれは凄い。着る人によってはこのゲームのR-15指定をうっかりオーバーしてしまいそうなくらいだ。


 値段は……げっ、0が一杯だ。こんなに布面積が小さいのに?服ってよく分からん……。


「え、それ着たいの……?」

「いえ、なんだか凄いなーと思って持ってきただけです」

「……ふむ、オレには服なんて似合うのか?そもそもこの身体に衣服など不要なのだが」


 そう言うのはプロトだ。確かに鋼鉄の装甲で覆われたその全身に衣服は必要無い。そもそも人間が装甲を着こんでいるといった外見をしているため、何も着ていなくても違和感が無い。


「あーら、そんなこと無いわよ?例えば一枚こんなのを上に着てみれば――」


 プロトに対してフランソワが持ってきた1枚の青いレザージャケットをプロトに手渡す。金属の腕と腕が少しぶつかり、カキン、と金属音を立てた。

 そして手近なところにあった姿見にプロトを連れていき、それを羽織わせる。


「……ほう!自分で言うのもなんだが、カッコいいな!」

「でしょ?貴方にも似合う衣装やパーツなんかが沢山あるわよ」


 表情は分からないが、プロトの声色はなんだか嬉しそうだった。

 そんなプロトを眺めて、ミナミがフフっと笑う。戦いではいつもカッコよく活躍してくれている相棒が、服を着て楽しんでいる光景がなんだか微笑ましかった。


「貴女は?何かしてみたい格好とか無い?スラっとした体形だから何でも似合いそうよ」


 お次はソウハがそうフランソワに問われ、ふむ……と考える。


「そういえばアクロステージの時にナギサ君が好きだと言っていた衣装がありました」

「あら、そうなの?じゃあ一緒に探しましょうか!」

「オレも行こう。次はオレに似合う帽子を探してくれ」

「お安い御用!」


 こうしてデーヴァ3体はその場を離れて別の衣装を見に行った。その場には人間2人が取り残される。

 さて、自分達はこれからどうすればいいのだ。特に着たい服も無いが……。そうナギサが思っていると、ミナミが口を開いた。


「さっきのこと、なんだけどさ」

「うん?」

「女なのにヒーローの話で盛り上がるなんて変かなって話」


 ミナミは服を見ているばかりでナギサの方は見ていなかった。


「別に学校で友達に馬鹿にされたことなんてないよ。“そうなんだ”で終わりさ。でも、たまに思うんだ。やっぱりヒーローが好きなことを他人に言うのはちょっと恥ずかしいなって。この歳にもなって、しかも女で子ども向けのヒーロー番組見てるなんてさ」

「……少なくとも、この世界ではそれを恥ずかしがることなんてないよ」


 ナギサが言った。

 自分でも偉そうなことを言っている恥ずかしさがあるのか、顔はミナミへと向けていない。


「だって、みんなこの世界じゃ趣味趣向をオープンにしてるようなもんだ。デーヴァのデザインって自分の“好きな要素”の塊みたいな存在だろ?それを連れ歩いている時点で、みんな“私はこれが好きです!”って宣言してるようなもんだ。僕のソウハなんて好きな漫画とテレビ番組の主人公の要素のごちゃまぜみたいなもんだからね。あ、刀要素はサムライVから取ったんだよ。

……だからさ、“恥ずかしい“なんてこの世界で思う必要無いんじゃない?」


 それはかなりヘタクソな言葉だと自分でも理解していたが、とりあえず“恥ずかしい”なんてこの世界で思っている人間は誰もいない、ということが伝わればいいなと思った。


「……あぁ、そうだね」


 元気を取り戻したのか、ミナミはナギサの方へと視線を向けた。それに遅れてナギサも振り返る。そこには笑顔のミナミが映っていた。


「つまらないことで悩んでたみたいだな、あたし。ごめんね、変な空気にしちゃって」


 ――そうだな、デーヴァを連れて歩いている時点で、皆自分の好きなものをアピールしているも同然か。自分の“好き”を恥ずかしがるってことは相棒であるプロトを否定することにもつながるもんな。ごめん、プロト……。


「ソウハちゃん着替え終わったから見に来ない?……それにしてもナギサくん、凄い趣味してるのねぇ」


 それから少しして、フランソワが2人を呼びに来た。

 ――はて、僕の相棒は何を選んだのだ。昔僕が言った”好きな服”ってなんだっけ――?





 試着室から現れたソウハはとんでもない格好をしていた。

 腕や脚の露出度が高いとスラリとしたスタイルがハッキリ分かってエロ……ではなかった。美しい。

 だが、しかし。

 それにしても、である。やはりこの服は……駄目だろう。


「どうでしょうナギサ君。“スクール水着は犯罪的に可愛い!”と仰っていたことがあったので着てみたのですが」


 ソウハの着ているのは間違いなくスクール水着であった。その表情に恥じらいや戸惑いは無い。


 ――言ったなぁ。昔言ったなぁ。そんな犯罪者みたいなことを昔言ったなぁ。


 後ろの3人が自分を見る目がなんとなく怖い……。奇妙な目で見られている。ミナミさんにまで……。


「デーヴァにどんな格好をさせようと自由だし、貴方達が気にしてないならいいけど……、その格好で外を歩いたら絶対に周りから白い目で見られるわよ?」

「ナギサさん、これはちょっと恥ずかしがった方がいいよ……」

「――ナギサ君、流石に実力を行使せねばならん気がするのだが」

「待って、待って、違うんです。やめてくださいプロトさん。暴力反対。確かにスクール水着は好きだけど、無理に着てほしいとは思ってないです」


 ちょっと一瞬“むっ!これは良いなぁ……!!”とか思っちゃったけど、違うんです。本当に違うんです。凄く似合ってるけど。

 ……というかなんでスクール水着なんて置いてあるんだよ!


「あとはそうですね。和風メイド……女給さんの格好が最高に萌えると以前言っていた覚えが――」

「それにしなさい」

「それはいいんだ」


 即答するナギサに対してミナミが冷静にツッコミを入れる。

 それはいいのだ。

 絶対に似合うからいいのだ。









「あらお似合い!キリっとした眉してるからこういうカッコいい衣装絶対に似合うと思ったのよ!」

「な、なんか照れるな……。でもいいねこの服!一昨年放送されてた”ドライザー・ダブルゼロ”に出てくる敵組織の”唯我毒尊”の幹部、ポイズンの人間体がこんな格好してたよ!」


 灰色っぽいシャツに黒いライダースジャケットを羽織り、クールに決めるミナミ。それを見たフランソワが両手をパン、と鳴らして褒め称える。


 値段はやはりそれなりにするのだが、ゲーム内で金銭を稼ぐ方法がそれなりにあるので、決して手が届かない存在というわけでもなかった。

 聞けばミナミの通う高校はアルバイトが禁止らしく、「服を買うほどお金に余裕無いけど、ANOの中なら色んな服着れるかも」と楽しそうな顔で言っていた。


 そんな自身のマスターの格好にプロトも興味を示したのか、「中々カッコいいじゃないか」と褒める。


「でもナギサさんには負けるよ。最初はどうかと思ったけど、それめちゃくちゃ似合ってるな!」

「ははは……。それはどうも……」

「一目見た時から絶対これが似合うって思ったのよ!貴方、化粧とか覚える気は無い?磨けば光るわ!」


 恥ずかしそうにナギサが笑う。笑うというよりは、笑うしかないと言うべきか。

 彼の着ている服は確かに似合っていた。鏡で自分を見た時「これが……自分?」と唸るほどに。だがやはり猛烈に恥ずかしい。

 これが……これが、セーラー服でなければ。


「可愛いですよナギサ君」


 女給姿のソウハが長い袖から半端に掌を出してパチパチと拍手。

 君の方が可愛いよ、という決まり文句を言うほどの心の余裕は、残念ながら無かった。








「お金が無くてもいいからまたいらっしゃい!……そりゃ何か買ってもらった方がいいけど。とにかく、これからもリリィ・ローズをどうぞよろしく!」


 ナギサ達はそういうフランソワの機械の右腕に見送られ、店を後にした。

 結局彼――ではなかった、彼女としておこう――に着せ替え人形にされるばかりで、何も買わなかった。これに関しては本当に申し訳ないのだが、お金が無いのだから仕方ない。

 オシャレな店の外見通り、高い服が多かった。


 ナギサは別に買えるアイテムが無かったわけではないが、自分の今のANOでの目標はバトルに勝つことでランクを上げることだ。しばらくコインはスキルカードガチャや武具の強化に使いたい。


 ――でも、こうしてたまに遊ぶくらいのコインは常に持っておきたいな。


 オシャレに娯楽施設に、アクロコインの使い道は多岐に渡ることを今日初めて知った。こうしてソウハや他のプレイヤー達と遊ぶのは悪くない。

 ANOはバトルだけじゃないのだ。


「――それじゃあアタシは今日はここで失礼するよ。またね、ナギサさん、ソウハちゃん」


 そう言って、ミナミは自分のアクロスギアを操作してログアウト処理を開始する。 

 その隣でプロトが軽く頭を下げた。挙動から察するに彼は真面目な性格らしい。


「またミナミと遊んでやってくれ。勿論、バトルも大歓迎だ。ソウハ君、またいつか戦おう」

「ええ、次は負けません」

「じゃあ、また」


 ソウハとナギサは光と共に消えていく2人を見送ると、また歩き出した。


「ナギサ君」

「何?」

「今日は楽しい日ですね」

「そうだね」


 ――次はどこに行こうか?他にはどんな施設があるのかなぁ。

 ――あれはなんでしょう?建物の真ん中に大きな蟹がいますよ。


 あちこちに見える建物を指さしながら、歩き続ける。

 この世界はまだ自分達の知らない驚きと発見が一杯あるに違いない。これからもこの世界を見て回ってみよう。

 そう思いながらナギサは、ソウハと過ごすこの時間の楽しさを感じていた。









 そしてその日の最後はふらりと立ち寄ったカジノ施設で残りのコインを一気にすり減らした。

 5連続で玉が赤に入るわけが無いだろう。あんなのイカサマに決まっている。

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