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タタラ ~ナイト・ブラッド~  作者: 寝坊助
第一章 鬼狩り一族の里
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5−1 一族 ‐亀裂の音‐

「結果は、最悪だ」


 共喰討伐から数日が経った。

 戦いが終わり、里の者たちが迎えたのは敗走の空気をまとった戦士たちだった。

 この戦いにおいて最重要課題である、共喰の討伐には成功したが、それ以外の被害が尋常ではなかった。

 武器、若い戦士たちのメンテナンスをある程度終え、タタリたち里の上層部は今回の任務を振り返っていた。


 鬼狩り本部の会議室。

 長いテーブルとその上に、出席している者の確実好みの飲み物と、それ以外には資料が乱雑に散らばっている。

 タタリとリドウを中心とする鬼狩り一族上層部たちの放つ空気は、重苦しく険悪だった。


「前線部隊の一班よりも、支援部隊である二班の方が被害が大きい。言葉で表すより、コレはとんでもない失態だ」


 自他共に対して悪態混じりに聞こえるリドウの言葉に、誰もが納得せざるおえず、頭を抑え苦悩の声を上げた。

 一班は歳と経験を重ねた一族屈指の実力者たちだが、二班は一族の未来を担う若き戦士たちで構成されていたのだ。

 彼らの多くが死亡したことにより、鬼狩り一族は今、将来的に重大な危機に陥っていた。

 

「まずなぜ、共喰の吸血鬼は二体いた?」


 リドウの繰り出した話題に、答えるものはいなかった。

 それこそがこの件の失態全ての原因であり、誰もが黙然としてしまう。

 歴代の戦士たちが残した資料を調べ、共喰は一度に一体しか現れないとされていた。

 しかし生き残った二班の言葉から口調、戦闘技術を聞き出し、それが一班が戦った共喰の特徴とほとんどが一致したのだ。


「二体いた、というよりも……姿以外は全くの同一人物だったらしいな」


 一班が戦った共喰は、長髪で細身の吸血鬼だったが、二班が戦ったのはオールバックで筋肉質な吸血鬼と聞かされた。

 常夜の生み出した吸血鬼はそれぞれ、異なる強化と生態を持つ。ましてや、中身が同じという可能性は極めて低い。


「…………同じだ」


 皆の意見を聞き、タタリは顔を強張らせた。


「二十年前、私とリドウは共喰を倒した。その五年後、私の妻を殺した共喰は……姿が全く違っていたが、性格や口調が同じだった」


「それは知っている。だが、今回は二体現れた。それとなにか、関係しているとでも?」


 あの時は五年も月日が経っていたため、誰も違和感を覚えなかった。

 しかし、


「奴は、私のことを覚えていた。記憶があったのだ」


「ッ……そうか、時間を整理してみれば、二班の共喰が現れたのは一班が共喰を倒した直後だったらしい。別に二体いたというわけではない」


 タタリの言葉にリドウは資料を読み返し、内容を整理して共喰の実態に気がついてきた。


「我々は、共喰は吸血鬼の亜種もしくは突然変異のような存在だと思っていた。しかし、もしかすれば……中身は全く同じ人格なのかもしれない」


「吸血鬼の肉体を乗っ取る……か?」


 共喰は一班に倒れた直後、二班の方に配置していた吸血鬼に取り付いた。

 そんなこと知らない……否、知るよしもないため、タタリたちはまんまと乗せられ、多くの若き鬼狩りの戦士を失ってしまったのだ。

 タタリとリドウの考えに場が騒然となり、次々に考察が飛び交うようになる。

 だとしたら、その人格はいったい何者なのだろうか。なぜ、今まで今回のような戦法をとらなかったのか。まず、なにが目的なのか。


「問題が山積みだな」


 タタリはレッテツ特製のお茶を含み、吐きかけていたたため息とともに飲み込んだ。

 隣に座るリドウは、彼が平常心を必死に保とうとしているのが容易に理解できた。

 ……息子が死んだのだ。無理はない。

 タタリとて人の子なのだ。冷徹かつ冷静を装って皆を率いているが、やはりやせ我慢が続いて若干痩せている。

 リドウはそれを見て「頃合いか」と呟き、今里が直面している問題へと話題を切り替えた。


「特に問題なのは、若い戦士たちについてだ。このままでは、一族の存続すらも危うい。共喰討伐に集中したいため、一時保留にしていたが……」


 タタリはリドウの方へ視線を向け「まさか……」と、目を見開いた。

 

「リオネル王国の軍から、協力の申し出が来た」


 場が再び騒然に包まれる。

 リドウはそれに構わず、両手をテーブルにつき話し始めた。


「我々、鬼狩り一族と人間には決定的な不可侵条約が結ばれている。そうすることで鬼狩り一族は、各国の政府との戦争や権力争いには干渉しないという、独立した組織として世界を守って来た」


 吸血鬼を相手にできるのは、鬼狩り一族のみ。人間の問題は人間が、吸血鬼の問題は鬼狩りが。それは遥か昔から受け継がれてきた、世界共通の掟であった。

 鬼狩りの里は、リオネル王国の国土に入っているため、土地的に国に管理されている形ではあるが、それは表向きな話しである。

 しかしその王国の軍は、鬼狩り一族と協力関係を結ぶよう提案を申し出て来たのだ。


「しかし、俺はこの提案に……乗ろうと思っている」


「正気かッ!?」


「リドウ、自分がなにを言っているか分かっているのか?」


 周りから動揺の声が上がり、タタリは目を鋭く尖らせる。席から立ち上がり、リドウに向かって歩を進めた。

 先祖たちの誇りや、里の掟を重要視するタタリにとって、たとえ戦友であろうともリドウの言葉に憤りを抱いていた。

 対してリドウは腕を組み、堂々とした姿勢でタタリと真っ直ぐ目を合わせる。


「近年は戦士の質の低下が目立っている。今回の件もそうであるように、これから我々の情報網だけでは限界が来るだろう」


「た、確かに……前の蛹偽による一件のように、少しずつ吸血鬼による被害は増えていっている」


 上層部の一人が一枚の資料を手に取り、リドウの言葉に共感する姿勢を見せた。


「これには王国も手を焼いており、一部には我々に対する不信感を抱くものも少なからず出ているらしい」


 一族の存亡と吸血鬼の被害。それらを同時解決するには、今まで不可侵だった人間との協力が必要だと、リドウはそう訴えているのだ。

 

「今こそ、一族は変わらなければならない」


 リドウの発する圧もさることながら、一族の存亡は誰もが問題視し、各自解決の糸口を探していた上層部にとって、納得せざるおえない意見だった。


「これまで、人間たちと保ってきた均衡を壊せと? そうなれば大小にしろ、必ず混乱が起きるぞ」


 だが、タタリだけはリドウに食って掛かる。

 どのような形にせよ、鬼狩り一族が協力するというのは、その国にとって大きなアドバンテージとなり得る。

 そうなれば近隣国と諍いが起こるのは必然だろう。


「変化には必ずリスクが伴うものだ。斬鬼刀が作られた時のように、リスクを恐れては前には進めない。 犠牲も覚悟の上だ。一族の明日が切り開けるのならッ!」


「リスクを伴うというのなら、我々一族の中でだけでいいだろう。 もし各国との戦争になり、人間たちが我々を兵士として活用しようとしてみろ。それこそさらに一族の民が犠牲になるッ!」


 二人の意見は混じり合うことはなく、対立が続いていく。その対立の渦に、上層部の者たちも呑まれいった。


「たしかにリドウの言うことも一理ある」


「私たちも変わらなければならない時かもしれん」


「何をバカな。先祖が託してきた掟に背けと?」


「そもそも、人間が我々に対して軍事利用を目的に干渉してきたことは、一度や二度ではないだろう」


「それなら、新たな掟を一から作り直してだな……」


 やがて、意見は……

 一族の中で問題を解決し、先祖の残してきた掟を守ろうとするタタリ派。

 不可侵条約を撤回し、人間と協力関係を結んで新たな時代を開こうとするリドウ派。

 この二つの派閥に別れることとなった。


 やがてこの派閥により、鬼狩り一族はさらなる混沌の渦に巻き込まれて行くことになる。

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