編入試験 〜Rouge〜
レオニード先生の案内で、私達はみんなが入っていった建物の隣にある、少しおしゃれな感じの建物に案内された。
「本当は校舎でやるんだが、今は学校がまだ休みだから校舎を閉めている。代わりにこっちでやろう」
そう言って、先生は建物の入り口に掌をかざした。溶けるようにドアが消え、中に入れるようになる。
「わあ」
歓声を上げたのは、ユハナ。目がきらきらして、ドアのあった場所をじいっと見つめている。
私やノワにとってはちょっと古めの魔術。それはつまり、この世界にとってはかなり新しい技術になるんだろう。驚いた振りをした方が良かったかな。
心配になってノワを見上げると、ノワは興味深そうに中を覗いていた。目はいつも通りだから、フリなのかな。
「流石王立学院ですね。かなりの最新技術ではありませんか、これ?」
「お? 詳しいな、移民の割に。ここは貴族の子弟を沢山預かるからな、最先端の技術が結構あるぞ」
「なるほど」
感心したそぶりで頷いてみせるノワ。それを見て、レオニード先生はふっと表情を緩めた。
「多少は可愛げもあるようで安心した。あんまり落ち着いてるから、大人がガキの面倒見ているようにしか見えなかったんだが、それなら周りとも馴染めるか。んじゃ、行くぞ」
そう言って歩き出す先生は、さっきよりも楽しそうだった。それを見て肩をすくめたノワの表情は、それとは正反対だったけれど。
レオニード先生に連れて行かれた先は、机と椅子が3つ置かれただけの、がらんとした部屋。部屋の1番奥には、少し大きな机が置かれているけれど、こんなシンプルな部屋、初めて見た。
机の上には、1つずつ羊皮紙の巻いたやつと羽根ペンが置いてある。きっと、あれがテストなんだろうな。
「さて、筆記を始める前に、と」
言いながら先生が取り出したのは、小さな秤のような道具。秤のお皿の片方には板の形をした透明な石が、もう片方には黒い石が置かれている。
「これ、魔力測定器、ですか?」
ユハナが、首を傾げて尋ねた。ちょっと不思議そうな顔をしているから、珍しいのかな。
「おう。割と新しい型だな。魔力の量だけじゃなく、魔力属性の割合も測れるようになっている。2つ3つ属性が使えても、威力に差があるなんてザラだからな」
そう答えたレオニード先生が、楽しげにノワの顔を見上げる。
「お前も、その濃い色に紛れた「色」があるかも知れないぞ?」
「……それはないと思います」
無表情で反論するノワにとって、それは絶対の事実なんだろう。けれど、先生にとってはそうじゃないみたい。
「分からないぞ? 仮にそれが弱くても、鍛え方次第でいくらでも伸ばせるしな」
「そうだとしても、闇の属性を持っている以上、他属性はいくらでも操れます。分かったところで、然程変わりませんよ」
言いながら、ノワの魔力が僅かに動く。多分だけど、魔法陣を準備しているみたい。あれ、何かな?
「夢の無い奴だなー。まあいいか。んじゃまず、興味津々のユハナから行くか?」
「はい!」
目を輝かせて頷くユハナ。それを見てにこりと笑い、レオニード先生が使い方を説明する。
「やり方は簡単だ。透明な方の板の部分に手を当てて、ちょっとで良いから魔力を流せ。数値が黒い板に出るから」
言われたとおりに、ユハナが板に手を当てる。うっすらと輝くのが凄く綺麗。
「……えーと、3200? まあまあの量だな。で、属性は……水と風。水の方が少し得意か?」
「はい」
板に書かれた数値を読み上げるレオニード先生。先生の質問に答えながらも、ユハナはそっちの方が気になって仕方ないのか、身を乗り出して字を読んでいた。
「ん、まああの家の人間だし、その年ならこんなもんか。じゃあ、次はどっちだ?」
「はーい!」
元気よく手を上げる。こういう計測って、何だかわくわくするな。
「おう、良いぞ。手を乗せろ」
言われた通り、板に手を置こうとした時、ノワの声が頭に響いた。
『フウ、魔力は本当に少しで良い。普段身に纏っているものを少し強化するつもりでやれ』
『分かった』
こそっと念話を返して、板にちょびっとだけ魔力を触れさせる。本当にそれで十分だったみたいで、直ぐに板に文字が現れた。
「……へえ、4900か。かなりの量だな。属性は、火と水。水が明らかに強いな」
「そうだと思います。でも、水はどうも扱いにくいです」
ノワに何度も教わったのに、いつも量が多くなり過ぎちゃうのだ。ノワみたいに機械で計ったような正確さはなくっても、もう少し練習しないとなあ。
「魔力量が多いせいかな。その割には、測定器は壊れてないが」
「壊れるんですか?」
これくらいの魔力量計測で壊れるって何? と首を傾げて聞いてみると、先生は苦笑いを浮かべて頷く。
「魔力量が多いと、ちょっとと言われて普通の生徒が集中して流す量を一気に叩き込む。これは割と繊細な道具だ、そんな事をすれば直ぐに壊れるさ。だから、正直ほっとしてるよ」
言いつつ、先生がノワに視線を向けている。それに気付いたノワが、軽く肩をすくめた。
「気を付けますよ」
「……その時点で量が多いと言っているようなもんだし、お前がどれだけ優秀なのか分かるが。まあいいか、とりあえず計ってくれ」
「ええ」
ノワが頷くと同時に、さっき構築して途中で止めていた魔術が一瞬で発動する。あんまり早くて、私にも何だか分からなかった。
そして、消えると同時に、ノワが測定器に触れて、魔力を当てる。無事板に数値が出るのを見て、レオニード先生がほっとした表情になった。楽しそうに数値を覗き込む。
「……5200か。本当に、闇の属性だけなんだな。使いこなすまで、苦労しただろ?」
けれど、結果を読み上げる時の先生は、驚きと安堵を同時に浮かべていた。そして、最後の問いかけには、ノワが僅かに表情を崩す。
「……それなりには。1度コツを掴んでからは、それほどでもありませんでした。師匠も良かったですし」
「……随分優秀な奴に師事したんだな」
「ええ、まあ」
何かを踏まえて交わされる2人の言葉は、酷く慎重で、その何かについて確認しているようだった。よく分からないけど、ここで聞いても教えてくれないんだろうな。後で聞いてみようっと。
「ま、いいか。んじゃまず先に、筆記な。そこの紙とペンで問題を解いてくれ。時間制限は……まあ、そこまで気にせんで良いぞ。終わったらペンを置いて、紙を裏返してくれ」
「分かりました」
ノワが頷き、さっさと机に座る。私とユハナ君も、それに続いた。
「じゃ、始めー」
アダモフ先生ののんびりとした合図を聞きながら、ペンを取って、紙を裏返して、後は一生懸命問題を解いていった。




