これから 〜Rouge〜
ノワが眠って、3日。けどノワは、目を覚ます気配がない。マスターの予想していた以上に、ダメージを溜め込んでいたみたい。
「全く、馬鹿が……」
苦々しい表情で、眠り続けるノワを見下ろすマスター。私はその隣で、椅子に座って足をぶらつかせていた。
「ねえマスター、そろそろ1度起こした方がいいんじゃない? 国の人がいつここに調べに来てもおかしくないんでしょう?」
ノワの話に出てきた事だ。マスターは、3日くらいなら大丈夫だと言っていたけれど、ノワがこれ以上眠っているようだと、国の人達が来てしまう。
「……いや、もう少し待とう。ミアに話を聞いた事から考えると、中途半端にダメージを残すと、後々に影響を及ぼしそうだ。そうだな……、後、2日。それでも起きんかったら、起こす」
けどマスターは首を振って、そう言った。逆らう理由もないので、頷いておく。
「マスター、ノワが起きたら説教するの?」
「ああ。言いつけを破って魔力を暴走させたようだからな。叱らねばならん」
「そっかー。ノワ、だから起きないのかな?」
ノワはあれで、マスターの説教が苦手だ。命の恩人だから、蔑ろに出来ないとか言っていた。かもなあ、と笑うマスターの顔を見ると、どうもそれだけじゃなさそうな気がするんだけど。
しばらく沈黙が続く。その間、迷いに迷ったけれど、ずっと気になっていて、けれど聞きたくなかった事を、思い切って聞いてみた。
「……ねえ、マスター。成り行きで私も学校行く事になったけど、いいの?」
「いいよ。フージュも随分、我慢できるようになった。それにな、少し調べてみたが、こちらの学生は、化け物退治の依頼を受けられるそうだ。定期的にそれを受けられれば、フウも問題無いだろう?」
あっさりと暖かい言葉が返ってきて、私は嬉しくなった。
「うん、それなら我慢できると思うよ。ちょっと心配だったけど、大丈夫なんだね」
「ああ。ただ、ノワールの言う事はきちんと守りなさい。それだけは絶対だ」
「はーい」
ノワの言う事に逆らうつもりは、無い。ノワはいつでも、私にとって大事な事を教えてくれてきたから。
だから、これからも、ずっと。
「……フージュ、思っていたよりも早くなってしまったが、聞きなさい。お前はそろそろ、ノワールに依存するのをやめなければならない」
そう思っていた矢先にマスターにそう言われて、私はどきっとした。どきっとして——怖くなった。
「……出来ないよ。私、まだ分かんないもん」
「少しずつ考えなさい。分からないで済ませてはならない。ノワールが分からないからと考えるのをやめた事があるか? ない。ノワールはいつでも、答えを出してきた。必要な時には、お前に命じる時にも、理由を説明してきただろう? あれを、自分で考えられるようになりなさい」
「やだ」
「フージュ」
マスターの声が厳しくなった。顔を見たくなくて、背ける。
「マスター、ミアの事考えてる。でも私は、ノワの側にいるの、やめないよ。考える努力はする。でも、理解できないものは理解できないもん。理解できないのを止めるのって、難しいんだよ。だから、ノワの側にいて、止めてもらわないと、怖い」
分かってる。ノワがミアを餌として飼うなら、私が側にいるといろいろやりづらいだろうって事。
でも、私もノワに飼われていたんだと思う。それを今から、1人で生きるなんて出来ない。
「ノワ、約束してくれたもん。一緒にいて、必ず止めてやるって。だから、ノワと一緒にいる。……もう、やだ」
何がなんて、言いたくない。これ以上何も言われたくなくて、私は耳を強く塞いで、ぎゅっと目を閉じた。
マスターが立ち上がって、近付くのが分かった。ぶたれる、そう思った。
ふわっと、温かい手が頭の上に乗った。目を開けると、マスターがすまなさそうな顔で、笑っていた。
「……そうだな、儂が悪かった。年甲斐もなく、弟子の身に起こった事で、少なからず動揺していてな。忘れてくれ。……ごめんな」
「……うん」
頷いて、私は立ち上がった。
「ミアのお手伝いしてくる。ノワが起きたら出来るだけ早くここを離れられるように、荷物纏めてるんだって」
「そうか。邪魔にならないようにな」
「手伝うんだよ。重い荷物運んだりして、感謝されてるもん」
マスターに言い返して、私は部屋を走って出て行った。




