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70話 魔術世界

 

「なるほど、異世界から……」

 瑠香たちの説明を聞き、思案気な顔をするテリア。

 瑠香たちはソファに座り、自分たちの状況をテリアたちに説明したのだった。


「あぢっ!」

「ちょっと!」

 出された紅茶を飲もうとして隼人が悲鳴を上げる。

 隼人の隣に座った日和が驚いたように叫んだ。


 その様子を微笑みながら見るテリア。


「バベル魔術帝国、か」

 顎に手を当てウィスターが呟く。


「知ってんのか!? バベル魔術帝国!」

 その呟きに隼人が反応する。

 身を乗り出す隼人を、ウィスターの背後に立っているフェイルが睨み付けた。


「あなた、いい加減に……」

「いいんだ、フェイル」

 隼人を睨み付けるフェイルをウィスターが諫める。


「ですが──」

「フェイル」

 それでも抗議を続けようとしたフェイルをウィスターが遮る。

 その強い口調に身を固くするフェイル。

 そしてゆっくりと頭を下げる。


「……申し訳ございません、ウィスター様」

「ああ」

 その言葉に頷き、ウィスターは瑠香たちの方を見る。


「失礼した。それで、バベル帝国のことだったかな? もちろん知っている。この世界にある国だ」

「その国、どこにあるんだ?」

 隼人がウィスターに問う。


「それについては私が説明しよう」

 テリアがそう言い立ち上がると歩き出す。 

 そして壁に掛けられた大きな地図の前で止まる。


「これはこの世界の世界地図だ。この国はアルセア共和国という」

 世界地図の中央に位置する、海に囲まれた大きな島国を指してテリアが言う。


「にゃ、アルセア共和国?」

 そこでティアが驚いたような声を出す。


「どしたの?」

 ティアの隣に座っていたリーが、その顔を覗き込む。

「どーしたもこーしたも、私この世界の出身だにゃ」

「え」

 ティアの言葉に瑠香は驚く。


「そうか、君はもしかしてアニマーレ亜人王国の?」

「そうですにゃ」

 テリアの言葉に頷くティア。


「じゃ、じゃあ、ティアはこの世界の出身だったってこと!?」

「そうだにゃ」

 日和が驚いたように訊くとあっさりとティアは頷く。


「なんで最初わからんかったの?」

「いやぁ、この国来たの初めてで……」

 呆れ顔でリーが言うと、ティアは頭に手を当てて舌を出す。

 その言葉に溜め息をつく瑠香たち。


「さて、彼女がこの世界の出身なら話は早い。この『魔術世界』には、二つの大きな大陸がある。合っているかい?」

「間違いないにゃ」

 地図の左右を指してテリアが言う。

 その言葉にティアは同意する。


「彼女の出身であるアニマーレ亜人王国は、東大陸の南部にある」

 地図の右下辺りを指してテリアが言う。


「次にバベル魔術帝国だ。この国は、西大陸の南部にある国だ」

 今度は地図の左下あたりを指すテリア。


「ん? 他の国は?」

 そこでリーが首を傾げる。

 その言葉にウィスターとテリアが渋い顔をする。


「ああ、東大陸北部にアスベラン帝国、西大陸北部にエドランド帝国という国がある」 

 苦い顔をしてテリアが言う。


「あれ、何かマズいこと訊いた?」

「アスベラン帝国は人間至上主義だにゃ。だから亜人王国のアニマーレとは仲が悪いのにゃ。東大陸の南北で戦争してる感じだにゃ」

 ティアも顔を顰めて言う。 


「その通りだ。更に、エドランド帝国は数十年前、バベル帝国と戦争を起こしている」

「せ、戦争……?」

 テリアの言葉に不安そうに眉をひそめる日和。


「と、すまない。君たちに関係のないことまで話してしまった」

 そこでテリアが我に返ったように言う。


「しかし、今バベル帝国に行くのはあまりお勧めできないな」

「え、な、なんでだよ?」

 テリアのその言葉にテーブルに手を突いて隼人が慌てたように言う。


「本当は極秘情報なのだが……あの国では、近々『革命』が起きる」

「は? か、革命?」

 その単語にぽかんと口を開く日和。


「なんでそんな……」

「なるほどにゃあ……」

 その時ティアが訳知り顔で頷いた。


「ティア、何か知ってるの?」

「もちろんだにゃ」

 瑠香の問いに頷くティア。


「バベル帝国は数十年前の『魔術大戦』でエドランド帝国に敗れて保護国化されてるのにゃ」

「保護? 戦争に負けて保護されてるのか?」

 隼人が首を傾げる。


「『保護』という言葉に少し違和感を覚えるだろう。それも当然だ」

 テリアが頷きながら言う。


「そうなった理由は、エドランド帝国との戦時中バベル帝国の皇宮が炎上する事件が起き、皇族が全員逝去してしまったことにある」

「え、そんなのって……」

 テリアの説明を聞き眉を顰める日和。


「そうだにゃ。絶対エドランド帝国の仕業なのにゃ」

 ティアが頷きながら言う。


「だが、犯人は捕まっていない。事件は迷宮入りしてしまったんだ」

 顔を顰めるテリア。


「そんな……」

 苦い顔をして日和が呟く。


「皇族がいなくなってしまったバベル帝国はエドランド帝国に降伏した。エドランド帝国は皇族のいないバベル帝国を保護国と言う形で支援すると表明した」

「あれ、それだけ聞くとそんなに悪くないかも」

 テリアの言葉に日和が首を傾げて言う。


「そう、言葉だけ聞けばな。……実際は『保護』ではなく『侵略』と『支配』だったが」

 ウィスターが顔を歪めて言う。

 その顔に息を呑む瑠香。


「現在、バベル帝国の国民は酷い重税に苦しんでいる。民衆による暴動が頻発しているという噂も聞く。もうそろそろ限界が近いんだ」

 物憂げな顔をしてテリアが言う。


「だから、今あの国に行くのは非常に危険なんだ」

「それでも、行かなきゃいけないんです」

「どうしてだい?」

「仲間が、待ってるからです」

 テリアの問いに瑠香は答える。

 真正面からテリアを見据える瑠香。


 しばらく沈黙が続く。


「……そうか」

 やがて諦めたように小さく呟くテリア。


「元々、ウィスター君たちをバベル帝国へ送るために飛空艇を一便飛ばす予定だったんだ。それで良ければ使ってくれ」

「え! 良いんですか!?」

 テリアの言葉に瑠香は目を見開く。


「ああ。ウィスター君、いいかい?」

「ええ、構いませんよ」

 あっさりとウィスターは頷く。


「やった! これでバベル帝国まで行けるね!」

「ああ!」

 瑠香の言葉に嬉しそうに頷く隼人。


「さて、そうと決まれば、善は急げ、だ。すぐに搭乗準備を済ませよう」

 テリアが手を叩いてそう言った。



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