66話 どうしたものか
綺麗な石畳を踏みしめる瑠香。
周囲を行き交う人々の髪はとてもカラフルだ。
ここは恐らく別の異世界だろう。
あの『ソル』という男が言っていた『魔術世界』なのかはわからないが。
「ねえ、皆……」
瑠香は皆の方を見やる。
そこで言葉を止める。
仲間たちはそこにいた。
手を口に当て大きくあくびをしている隼人。
そんな隼人を呆れたように見ている日和。
木刀を背負っている一華。
周囲を不安げに見まわしている茉菜。
辺りを物珍し気に見ているリー。
尻尾と耳をぴょこぴょこと動かしているティア。
だが、それ以外の姿が見えない。
充、凛、珠輝、心、実辰、スズがいなかった。
「あれ、皆は……」
「あ? もしかして、はぐれのか?」
瑠香が声を出そうとするが、それよりも先に隼人がそう言う。
「あ、あれ、実辰?」
焦ったように辺りを見渡す日和。
「あれ、珠輝もおらんな」
さほど心配してないように軽い口調で言うリー。
「凜も、いませんね」
不安そうに茉菜が言う。
「心とスズもいない」
ぐるりと周囲を見る一華。
「あとは充もいないのにゃ」
最後にティアが肩を竦めて言う。
「参ったな。半分位いない」
顔を顰めて隼人が言う。
周囲を見回しても充たちの姿は見えない。
「ど、どうしよう……」
焦ったように日和が言う。
「あの、まずはここを離れませんか……?」
その時、茉菜が片手を上げて言う。
その視線は周囲に向けられている。
それにつられて辺りを見渡す瑠香。
そして気付く。
道を行き交う人々から奇異の視線を向けられていることに。
それはそうだ。
なぜなら、瑠香たちは往来のど真ん中に転移したのだ。
いきなり道の真ん中に集団が現れたら、驚きもするだろう。
「そ、そうだね……」
急に居心地が悪くなって瑠香は頷いた。
「うん。話しにくいし、行こう」
そう言い歩き出してしまう一華。
瑠香たちもそれに続く。
「ここなら大丈夫か」
先程の大通りとは打って変わった、狭く人通りのない道に移動した瑠香たち。
「だめだ、誰も出ない」
瑠香は首を振る。
先程から、はぐれたメンバーと水晶指輪で連絡を取ろうとしているのだ。
だが、誰かが出る気配はない。
他のみんなも首を振っている。
「まず、情報を整理しよか」
腕を組みリーが言う。
「ボクらはユナイテッドの本部から転移してここに来た。で、気付いたら半分がはぐれてた」
リーの言葉に頷く瑠香たち。
「はぐれたメンバーが一緒にいると仮定して、みんなはどこにいるんやろな」
「いくつか、考えられます」
リーが首を傾げると、茉菜が手を挙げて言う。
「まず、『異能世界に取り残されている可能性』があります」
「なるほど、確かに」
茉菜の言葉に一華が頷く。
「あとは、『この世界に転移している可能性』だね」
少しは冷静さを取り戻したのか、落ち着いて日和が言う。
「あと最悪の場合やけど、『他の異世界に転移した可能性』やな」
「それは、考えたくねーな」
リーの言う最悪の可能性を聞き、顔を顰める隼人。
「で、これからどうするかやけど……」
リーが頭を掻く。
「あっちが『異能世界にいる場合』やけど、これに関してはあんま気にせんでええやろ」
「なんで?」
リーの言葉に首を傾げる日和。
「向こうが今も『異能世界』にいるなら、充や珠輝が転移するのを止めるやろ。向こうで待ってた方が合流しやすいからな」
「……なるほどね」
納得したように頷く日和。
「でも、充とか珠輝が一緒じゃない場合は? 特に心がその二人と一緒じゃない場合……」
そこまで言い口をつぐむ日和。
「それは、あんま想定したないなぁ」
日和の言葉にやれやれと首を振るリー。
「やけど、それは考えても仕方ないやろ。最悪へ最悪へと考えて行ったら何も出来ん」
「それも、そうだね」
リーの言葉に頷く日和。
「で、話を戻すけど、『この世界に転移してる場合』やけど……」
そう言い瑠香たちを見回すリー。
「その次の『別の異世界に転移してる場合』も含めて、ボクは元々の目的地に向かうべきやと思っとる」
「元々の、って言うと『バベル魔術帝国』のこと?」
「そうや」
一華の問いに頷くリー。
「どうして?」
日和が眉をひそめて訊ねる。
「この二つの場合、向こうもボクたちも目的地がはっきりしとる」
「ああ、そういうことですね」
リーの言葉に頷く茉菜。
「どういうこと?」
日和が茉菜の方へ顔を向ける。
「雷門さんなら、誰かとはぐれてしまった時、どうしますか?」
「え、探そうとするけど……」
「そうですよね」
日和の言葉に頷く茉菜。
「でも、むやみに探し回っても余計見つかりにくくなるだけですよね」
「それは、確かに」
「だから、探さずに目的地に行ってしまうんです」
丁寧に説明する茉菜。
「そこでもう片方が来るのを待てば、合流出来るはずです」
「ああ、そういうことね」
納得したように手を打つ日和。
しかし、すぐに眉を顰める。
「でも、そんな簡単に行くかな……」
「大丈夫やろ」
すかさずそう言うリー。
「向こうには充と珠輝がおるし、心にもイチヤがついとる。それほどかからずに合流出来るはずや」
「そっか」
リーの言葉を聞き、そう言い安心したように頷く日和。
「ま、つまり、今後の方針は決まったわけや。取り敢えず『バベル魔術帝国』ってとこに行く。それでええか?」
ぐるりと皆の顔を見るリー。
瑠香たちは頷く。
「お、決まったか」
「あんた、ちゃんと聞いてた?」
そこで我に返ったように言う隼人。
呆れたように日和が言う。
「よし、そんなら──」
そう言い掛け、リーは言葉を止める。
「ちょっといいですか?」
いきなりそう声を掛けられ驚く瑠香。
瑠香の背後に、誰か立っていた。
振り向く瑠香。
そこにいたのは、警備隊のような服を着ている男だった。
「あなたたち、通行証は持っていますか?」
「え」
ぽかんとする瑠香。
「通行証を提示できますか?」
再度訊ねる男。
もちろん、そんなものは持っていない。
「通行証を提示できない場合、ご同行を願いたいのですが……」
目を細めて瑠香たちを見る男。
「──マズいなぁ」
後ろでリーが呟く。
「どうする? 逃げるか?」
小声で言う隼人。
「やめとこ。追われるのは勘弁や」
首を振るリー。
瑠香たちは素直に男に従うことにした。
異世界に来てから、初めての強制連行である。
──いや、もちろん地球でもされたことはないのだが。




