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67話 イカれた奴

 

「はぁ、異世界から、ねえ」

 瑠香の前に座った女性が、困ったように首を傾げ言う。


 警備隊のような服装の人に連行され、拘留所のような場所に連れていかれた。

 やはり、警察のようなものだったのだろう。

 逆らわなくて正解だった。


 個室で取り調べを受ける瑠香。

 隼人たちは傍にいない。

 恐らく、別の場所で同じように尋問されているのだろう。


 瑠香の担当をしている女性が初めに訊いてきたのは、『どこから来たのか』だった。

 その問いに何の捻りもなく『異世界』と答えた瑠香。


 しかし、これはマズかったかもしれない。

 異世界の概念がない世界では、頭がおかしい人だと思われる可能性もあるが──


「異世界から来た、と言われてもすぐに信じるわけにはいきませんが……もしそうだとすれば通行証なしで入国できたことに説明が行きますね……」

 困ったように言う女性。


 どうやら、異世界に関しての知識はあるようだ。

 ひとまず安心する瑠香。


 異世界の概念があるなら、スムーズにこの場を潜り抜けられるだろう。


「あの、通行証っていうのは……」

 瑠香は気になったことを聞いてみる。


「ああ、通行証はこの国に入国する場合に必要となるものですよ。厳重な審査の後に発行されるんです」

 丁寧に説明してくれる女性。


「それを持っていないと不法入国扱いで逮捕されます」

「げ、た、逮捕……?」

「はい」

 瑠香の言葉に女性が頷く。


「あの、私たちって……」

「通行証を持っていないのであれば、不法入国ですけど……異世界から来たのであれば、話は別です。審査を合格していただければ通行証を発行いたします」

 その言葉に胸を撫で下ろす瑠香。

 どうやら、大丈夫そうだ。


「じゃあ、審査に移らせていただきますね。えっと、お名前は──」

 女性がそう言い掛けたその時。


 爆発音が響いた。


 振動が伝わって地面が揺れる。

 遠くから悲鳴が聞こえてくる。


 すぐに、けたたましくサイレンが鳴る。 

 女性が驚いたように立ち上がる。


「そんな、まさか、官邸が──!?」

 顔を青くして女性が言う。


 瑠香は素早く立ち上がる。

 そして部屋の扉に向かう。


「あ、どこへ行くんですか! まだ審査が終わってません!」

 瑠香は止めようとする女性の方を振り返る。

 そして口を開いた。


「私、助けに行きます」

「へ?」

 瑠香の言葉に唖然とした顔をする女性。


「あ、あなた、何を言って──あ、ちょっと!」

 扉を開ける瑠香。

 女性は止めようとするが、瑠香はすぐに走り出す。


 出口を探して廊下を猛スピードで走る瑠香。


『見ず知らずの人間を助ける、か』

 くつくつと笑いそう言う世界軸。


「何? そんなにおかしい?」

『ああ、おかしいさ。あそこで、お前みたいに走りだせる奴はそういないぜ。何がお前をそこまでさせる?』

 そう訊いてくる世界軸。


「わかんない」

 その問いに、簡潔に答える瑠香。

 自分でもわからない。

 だが、『助けたい』と思うのだ。


『──イカれてるな』

「失礼な」

 笑い声を上げる世界軸に口を曲げる瑠香。


『おっと、イカれた奴はお前だけじゃないみたいだぜ』

 そこで世界軸が言う。

 瑠香も目の前から走ってくる集団を見つける。


「みんな!」

 こちらに向かって走る隼人たちに声を掛ける瑠香。


「お、瑠香か!」

 瑠香に気付いた隼人が足を止める。

 その後ろにいるリー達も足を止めた。

 隼人たちに駆け寄る瑠香。


「お前もさっきの聞いたのか」

「うん」

 隼人の言葉に頷く瑠香。


「ティアちゃん、野生の勘がビビッと来たのにゃ! これは緊急事態だにゃ!」

「そんなん誰でもわかるわ」

 ティアとリーがそんなことを言っている。


「ね、ねえ、ほんとに行くの?」

 不安そうに日和が訊く。


「きっと誰かが困ってる。助けなきゃ」

 抜身の木刀を携えて一華が言う。


「皆さん、出口はこっちみたいです」

 一つの扉を指す茉菜。


「よっしゃ、行くぞ!」

 そう言いその扉の向こうへ走って行ってしまう隼人。


 それに続くリー達。


「ほら、私だけじゃないよ」

『お前ら、全員がイカれてんだよ』

 瑠香の言葉にそう返す世界軸。


「またそんなこと言って。じゃあ、なんで私に力を貸してくれるの?」

『さあな』

「……もう」

 呆れて溜め息をつく瑠香。

 そして走り出す。



『──お前を見てると、似たようなイカれた奴を、思い出すんだよ』

 その小さな呟きは、瑠香の耳には届かなかった。


 



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