24話 第三次試験
瑠香は控室で軽く伸びをする。
今、リングでは充がいるIブロックの試合が行われているのだろう。
その次に出番を控えている瑠香は、控室で入場を待っているのだ。
なので、充の試合を見ることは出来なかった。
準備に向かった時の充の様子が変だったので少し気掛かりだが、充ならきっと大丈夫だろう。
リングの方から歓声が聞こえてくる。
「──充かな?」
瑠香は一人呟く。
控室は個室のため瑠香以外に人はいない。
『さあなー』
だが、その呟きに答える声が一つ。
『もう喋ってもいいだろ? 誰もいねーし』
「うん。いいよ」
瑠香は世界軸に二つのお願いをしていた。
まず、人前では腕輪に扮していること。
そして、人前で話しかけないこと。
『ったく、ずっと黙ってるのマジでキツいんだぜ?』
「だって、一人で喋ってる変な人だと思われたくないし……」
『けっ、ひっでーな』
カラカラと笑う世界軸。
「ねえ、世界軸。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『あん? なんだ、言ってみろよ?』
「充の様子が変だった理由、分かる?」
『は? お前、わかんねーのかよ。俺でもわかったってのに?』
その言葉に首を傾げる瑠香。
「え、わからないけど……わかってるなら教えてよ」
溜め息を吐く世界軸。
『マジで素なんだな……あいつも苦労するぜ……』
「え? どういうこと?」
『さあな。これ以上は俺からは言えねーよ』
そう言って世界軸は口をつぐんでしまう。
「えぇ、いじわる……」
瑠香は口を尖らせるが、それ以上の追及はしないことにする。
『Jブロックの受験者の皆様はリングにお越しください』
その時、アナウンスが入る。
「あ、そろそろ行かなきゃだね」
『おう、腕が鳴るぜ』
「──腕あるの?」
『例えだ、例え』
軽口を叩きながらも席を立つ瑠香。
「わぁ、結構広いんだね」
リングに立ちぐるりと辺りを見渡す瑠香。
『おい、あんまフラフラすんなよ。舐められるぞ』
世界軸が言う。
「舐められる?」
『そうだ。ただでさえガキっぽいんだから』
「なっ! が、ガキじゃないもん!」
『そういうところだぜ?』
激しく抗議する瑠香に意地悪く笑う世界軸。
『これより、Jブロックの試験を始めます』
そこでアナウンスが告げる。
『おい、始まるぞ』
「もう、怒ってるんだからね!」
頬を膨らませる瑠香。
『──試験開始!』
試験開始の合図と共に、周囲の受験生たちが一斉に走り始める。
『めんどくせーな。いいから、さっさとやるぞ』
「わかってるってば、もう!」
不満げな顔をしながらも目を閉じる瑠香。
瑠香を狙って数人が走り寄ってくるのを感じ取る。
だが、目は開かない。
瑠香に足りないもの。
充には『銃』。
凜には『光』。
隼人には『風』。
一華には『火』。
珠輝には『砂』。
ならば瑠香には?
何が、あるだろうか。
何もない。
今は、まだ。
ならば、作り出せばいい。
みんなに追いつけるように。
みんなに置いて行かれないように。
『それで、いいんだな?』
それで、いい。
『他にも色々あるんだぜ?』
これが、いい。
『忘れんなよ。お前にはこの俺が付いてんだぜ?』
うん、ありがとう。
大切に、するね。
瑠香は、目を開く。
そして、地面に触れる。
蠢く砂と化す地面。
空に手をかざす。
突風が吹き荒れる。
両手を見る。
光が瞬き、火が灯る。
『お前にやるぜ!〝比類なき贋作〟!』
瑠香は周囲の受験者たちを『風』で吹き飛ばす。
吹き飛んでいったその先には『砂』が待ち構え、その動きを奪う。
瑠香の腕輪が光る。
合格だ。
『やるじゃねーか!』
「──すごい」
『お前の力さ!』
「ううん」
興奮して言う世界軸に首を振る瑠香。
「私たちの、力だよ」
『──そうだな。俺と、お前の力だ』
瑠香は大歓声に包まれながらリングを降りた。
「合格おめでとうございます」
廊下や階段を歩き、とある一室に案内された瑠香。
「神条瑠香様ですね。こちらをどうぞ」
係の者は、防護服を回収するのと同時に、指輪のようなものをくれる。
「あの、これは?」
瑠香は指輪を見て、尋ねる。
「こちらの指輪は『強制帰還装置』になります」
「強制帰還装置……?」
「はい、瑠香様にはこれよりユナイテッド本部に向かっていただきます。その際にこちらの『転移結晶』をお使いいただくのですが、万が一、別の場所に転移してしまった場合に備えてお渡ししておきます」
スーツを着た係の人は、部屋の中央にある水晶玉のようなものを指して言う。
「では、準備がお済でしたらお声掛けください」
そう言い頭を下げるスーツの男。
「もう大丈夫です」
「それでは、『転移結晶』にお触れください」
その言葉に従い艶々とした水晶玉の表面に触れる瑠香。
視界が光に包まれていく。
そして──
真っ暗だった。
「へ?」
『あ?』
間抜けな声を上げる瑠香と世界軸。
足を一歩踏み出そうとして、瑠香は気が付く。
地面がない。
空を切る足。
「あ、なんか、やばいかも……」
そのまま落下し始める瑠香。
「きゃぁぁぁぁぁあああああああ、がぼっ!?」
真っ暗な中の自由落下は思っていたより早く終わった。
何かに突っ込む瑠香。
固い地面では、ない。
取り敢えず、それは幸運──
「冷たぁ! ペっ、しょっぱ!」
瑠香が激突したのは水面だった。
このしょっぱさは、まさか──
「う、海!?」
『おい、瑠香、あれ見ろ!』
そこで世界軸が叫ぶ。
「なっ!」
真っ暗な中、ふいに雷鳴が轟く。
辺り一帯が一瞬明るくなる。
一瞬見えた『それ』。
海に浮かぶ巨体。
広げられた帆。
その帆に描かれた『ドクロマーク』。
まさか──
「海賊船!?」
驚愕する瑠香。
その時、大きな波が瑠香を襲う。
「きゃっ!」
波に呑まれる瑠香。
『おい、大丈夫か!』
──マズい。
世界軸の声が遠く聞こえる。
徐々に瑠香の意識は途切れ途切れになっていき。
──そして完全に真っ暗になった。




