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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
8/52

文芸部入部 後編

初めての詩の創作です。

「詩を作ってもらいます」


 一ノ瀬先生の唐突な提案に、俺は困惑する。

他の二人を見ると、彼女たちも突然のことに首を傾げている。



「まあそんなに大したもんじゃないよ。自己紹介をやった後で、即興の詩をお披露大会するだけ」


自己紹介は予想してたけど、まさか詩を作らなきゃいけないとは。文芸部入って早々試練がやってきたな。


「じゃーまず自己紹介から。学年・クラス・名前と、趣味を発表してください」


先生は指を折りながら数える。


「好きな作品、創作物、もの・人。とにかく興味のあるものなら何でもいいよ。では一年生から!」


先生は少し興奮気味に言い放った。

そんなにテンションを上げる場面なのか。まだ心の準備ができていない。


「誰からやります? 古暮さん……?」


琴吹さんが俺の方を向いて訊いてきた。


「いやー、ちょっと……」


俺はそう言い淀みながら目を伏せた。

すると、篠原さんが「じゃ、あたしからやる」と名乗り出た。あらま、思ったより積極的なのね。


「1Aの篠原(しのはら)栄子(えいこ)です。漫画とアニメ全般好きです。あと、ファッションにも興味あります。よろしくお願いします」


ふむふむ。ファッションに興味ありというのは見かけ通りだが、漫画・アニメが好きとは意外。同士になる可能性が見えてきたな。


よし、篠原さんの自己紹介の次はーー俺は琴吹さんの方に目を向けた。


「えっと、俺は最後で。お先にどうぞ」

「わかりました」


琴吹さんと目線で会話する。


「じゃあ次は私が。私は一年B組の琴吹(ことぶき)(みのる)です。趣味は旅行と読書で、好きな文学のジャンルは純文学です。あと、ホラーやサスペンスも好きです。よろしくお願いします」


へえ、旅行好きか。

世界各地の絶景スポットを訪れているなんて、なんと羨ましいことか。俺もどこかに連れて行ってください。


それに、ホラー好きって意外だったな。

純文学が好きそうなイメージはなんとなくあったけど、まさかのホラー好きとは。

かくいう俺も、ホラーとかサスペンス系は好きだから、話にはついていけそうだ。


「俺の番ですね。では……、一年B組の古暮(こぐれ)和人(かずと)です。

趣味は読書で、ライトノベルが好きです。あとミステリーも好きです。それと、評論とか実用書もたまに読みます。よろしくお願いします」


ラノベとミステリー、同じくらい好きだけど、どちらか選べと言われれば、ラノベの方を選ぶ。コメディ路線が一番の嗜好。


「それじゃー霞ちゃんどうぞ!」


一ノ瀬先生は張り切りながら、いつもより声を大にして進行した。先輩のことを『ちゃん』呼びしているあたり、彼女らはとても仲が良いと察せる。


「はい。私は二年A組の高橋(たかはし)(かすみ)です。私も趣味は読書で純文学とミステリーをよく好んで読みます。一応文芸部の部長なので、何かあれば私に言ってください」


霞先輩は淀みない声で、流れるように話した。


先輩はミステリー好きか。これまた同士を発見ですな。

今度、それぞれのお気に入りのミステリー作品について語り合いましょうね!



「それじゃー最後に私ね。

顧問の一ノ瀬(いちのせ)涼子(りょうこ)です。好きな科目は国語です。好きな本のジャンルは……特にこれと決まったものはないかな……うん、面白ければなんでもオッケーです」


好きな科目が国語って、別に言わなくてもいい気がする。好きなジャンルがないのはなんというか、読書量が怪物級なのだろう。


「三人が文芸部に入ってくれてとても嬉しいです。私は文芸部顧問として皆さんのサポートをしていきたいと思います。国語関連で何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてください。日本語や本に関することなら大抵のことはわかると思います! 皆さんこれからよろしくお願いします」


担任で国語の先生で、さらに顧問の先輩か。ここまで一緒だと何か縁があるように感じるな。何か困ったときは存分に頼りにさせてもらおう。これからよろしくお願いします。



「では改めて、文芸部の説明をします。文芸部は詩や俳句、小説などの創作や読書を日常的な活動としています。活動曜日は月・木と決められていますので、月木で休む場合は事前に連絡してください。現状私は毎日活動していますが、火・木・金については任意ですので、休む場合に連絡の必要はありませんからね」


なるほど、本来は週二日が活動日なわけだ。

決まっている曜日意外の日に活動して良いのか心配ではあるが、毎日ここに来てみて一度も怒られたことはなかったので、特に問題はないのだろう。


俺や篠原さんは、霞先輩にいろいろと話を聞いてきたから、別に説明されるまでもない。これは主に、琴吹さんへの説明といったところだろう。


「日常活動意外の定期活動として、一ヶ月に一回、読書会や評論会を行っています」


これらのことも事前に先輩から聞いていた。三人も部員が入ったんだから、三者三様といった形で意見が違うだろうから、それは楽しい評論会になることだろう。


「そして、文芸部の大きな活動としては、文芸コンクールを始めとする各大会と、学校行事の文化祭です。特に文化祭は展示会を開くこともあって忙しくなります」


ほう、文化祭は忙しくなるか。まあ文化部の花といったら文化祭だから当然か。


「秋はいろいろと忙しいですが、それ意外のシーズンではゆったりしているので、臆することないです。気楽に行きましょう」


文学知識を向上を目指して、これから三年間楽しくやっていけると良いな。


「Okay. So, do you have any questions? 」


先生は説明を満足したかと思うと、いきなり英語で質問してきた。ネイティブ・スピーカーの発音そのものだ。なんだ先生、英語も得意なのか?


俺は面食らいながらも、


「いいえ、特にはないです」


とあくまで日本語で答えた。


「それじゃー本題の詩の作成、いってみよー!」


先生は大袈裟に手を高く突き上げた。すごく古いコメディー番組の司会がこんな進行をしていたな。


「お題は『春』にします。詩の作り方は簡単で、与えられたキーワードから、思い浮かんだ単語をつなげて、ストーリー風にすればそれで完成! 短くて結構! 制限時間は十分! では、張り切ってどうぞー!」


先生の勢いはとどまることを知らない。

全く人の気も知らないで。公開処刑される俺たちの皆もなってみろ。


「裏紙がここにあるので一人一枚取ってください」


霞先輩がさりげなく言った。こちらは先生に比べてあまり気分上々ではない様子だ。平常運転で結構。



先生と先輩の温度差を比較しつつ、俺は紙を受け取った。


そんないきなり言われても作れないでしょ、と思い、みんなの方を見ると、それぞれ真剣に考えているようだった。やばいな。俺も真面目に考えないと。


青春、制服、雪解け……。




 それから十分後。

机に両肘を置いて頭をフル回転すると、意外にキーワードが浮かんでくることが分かった。

はじめて『詩』と呼べるものを作ったわけだが、これが周りにどう映るか。


「十分経ったけど、どう? みんなできた?」


「はい、できました。自信はないですけど」


「そう、じゃー自己紹介した順に発表してください」


篠原さん、琴吹さんの順に即席の詩が披露された。


二人の作品はどちらも、俺の書いた作品よりも優れているようだった。

栄子の方はなんというか溌剌とした雰囲気のものだったが、琴吹さんの作品は綺麗な感じの作品で、響きが綺麗だった。

『春』というお題で、こんなにも二人の作風が違うとは見ていて驚きだった。


そしてついに、出番が来た。俺のターン。ドロー!


==============


「春」


雪が解け


 桜が咲いた道を


   新たな制服を着て進んでいく


新たな出会いと


新たな発見を求めて


  私は今


青春の舞台へと立ち上がる


=============


「……どうですか?」


俺は恐る恐る尋ねた。自信を持って発表したけど、他人からの評価は……?


「うん、いいんじゃない。初めてにしては上出来だよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「より上手な詩が作れるよう、これからもっと勉強しよう」


全くの初心者だから、上手というのがよくわからないが、先生は褒めてくれたのでよしとする。


「じゃー、三人の中で一番良かった人に投票をします。全員が三人の作品にそれぞれ一票ずつ投票してください。ただし、三人は自分以外の人に投票してください」



 投票後。


「結果を発表します。優勝は四票、満場一致で琴吹さんの優勝!」


パチパチ。乾いた拍手が教室内に響く。


どうやら全員が琴吹さんに投じたようだ。

彼女の発表を聞いた時点で、投票するまでもないと思ったが、案の定琴吹さんが優勝しました。


「ありがとうございます」


彼女は頭を少し下げて控えめな声で言った。


「これから一緒に頑張ろう」

「はい!」

「古暮君も篠原さんもこれからよろしく」

「「よろしくお願いします」」

「それじゃ、今日はここらで解散!」


こうして、文芸部の新入部員歓迎会は幕を下ろした。


 部活後、俺は琴吹さんと途中まで一緒に帰ることにした。空には夕焼け雲が広がっている。


「あの、古暮さん」

「はい、何ですか?」


俺は、隣を歩く琴吹さんをちらりと見た。琴吹さんの方から話題を振ってくるなんて。なんか嬉しい。


「あの詩、私はとても良いと思いました」


何と? 俺が歓迎会で披露したあの詩に感動してくれただって? それはそれは、


「え、そうですか? ありがとうございます。琴吹さんの詩は、玄人っていうか洗練されてましたね」

「そうですか?」

「はい。素人の目からしても上手いと思いました」

「ありがとうございます」

「あの、琴吹さん。良ければ明日から一緒に部活に行きませんか?」

「えーと、はい。いいですよ」


彼女は少し戸惑う様子を見せたが、すぐに了承してくれた。

やった。これで、琴吹さんともっと話ができる。


「あ、俺こっちなんで。また」

「はい。さようなら」


俺が手のひらを向けると、琴吹さんは微笑んで、軽く会釈してくれた。俺は「じゃあ」と言って別れ、岐路に就いた。



家まで帰ってきて、ふと彼女を家の前まで送るべきだったと気づいたが、時既に遅し。

明日からはちゃんと送ろうと決意して、俺は家の中に入った。




ロマンティックな恋に憧れます。これからも頑張ります。

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