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文学少年の恋物語 〜令和版源氏物語〜  作者: AYASAM
1年生1学期
5/51

やっとメインヒロインと出会います。ワクワク。

 北高に入学して次の週。

自転車で正門の近くまで漕いでくると、一人の女子生徒の姿がなんとはなしに目についた。

見栄えの良い金髪を黒色のカチューシャで留めていて、手持ちのカバンには動物か何かのキーホルダーがぶら下がっていた。


周辺には沢山の生徒がいるのに、なぜ彼女に目が引かれたのかと疑問を抱きながら彼女が正門に入って行くのを見届け、自分もその場を後にした。



 自分の席について、カバンを机の脇のフックにかけた。教室のデジタル掛け時計を見て、まだ朝のHR(ホームルーム)までは時間があるなと思うと、窓から校庭を眺めて、今朝の妹との会話を思い出した。


~~~~~~~~


「中学はどうだ? 慣れたか?」

「はい、だいぶ慣れて、友達も数人できました」


明里は笑顔で応えた。


「すごいな。俺は全然だ。中学生のときは運よくできてたけど、今回はうまくいくかどうか」


中学では偶然にも数人に話しかけられたおかげで友達ができたが、普通に考えたら話しかけられるのは恵まれた話だ。そして、受け身では得られるものは最低限のもの。


「ぱっと見で気になったことを話しかければOKです」

「例えば……?」

「相手の持ち物が一番わかりやすいですかね」


明里は得意げな表情をするでもなく、機械的に教えてくる。


「ふむ、アクセサリーとか筆記用具とかか」

「はい。もし気になる相手が同じシャーペンを持っていたら、


私 :『そのペン私も同じの持ってます。良いセンスですね。どこで買ったんですか?』

相手:『○○って店。駅の近くの』

私 :『あっ、あの店。私もよく行きます!』

相手:『え、そうなの?』

私 :『うん。他にはどんなの使ってる?』

相手:『これとか。他にはこんなのもあるよ』

私 :『えーいいね。私も欲しくなってきた。ねえ今度一緒にショッピングに行かない?』


とこのようにもっていくわけです」


明里は一人二役で会話例を捲し立てた。


「なんと恐るべきコミュ力」

「……これくらい誰でもやってますよ?」


明里は頭を傾けて、不思議そうに言う。


「うそー!? 別世界の住人の会話かと思った」


驚きを通り越してもはや尊敬する。不思議そうな顔をしているあたり、日常生活で自然と身に付いたスキルのようだ。経験に乏しい人はなかなか真似できない。


「大げさです。話しかける内容なんて、ほんとになんでもいいんですよ」

「うーん」

「持ち物に限定せず、体格や態度、立ち振る舞い、言葉使い。相手が他の人と話すのを聞き耳を立てるのも一つの手ですし」

「なるほど。言われてみれば方法は結構あるんだな」


明里に言われて他人に話しかけるハードルがかなり低くなった気がする。


「はい。経験を積めば自然とできるようになります。結局はお兄さんのやる気次第です」

「……頑張ってみよう」

「はい。お兄さんなら大丈夫です。すぐに友達ができますよ」


明里はニコリと笑った。


~~~~~~~~


明里は俺にすぐ友達ができると言っていたけれど、本当にそうだろうか。

近くの席のひとたちが話しかけるなオーラを纏った生徒たちだったらどうするんだ。


「あ、自分も同じペン持ってますよ」

「は? キモ! 話しかけんな」


みたいな展開になったら最悪なんだが。


「あの、すみません……」


ハッと我に返り、声のした方を振り向くと、ついさっき正門の近くで見かけた金髪の少女が立っていた。

まさか同じクラスだとは思わなかったので、俺は内心激しく驚きながらもそれを顔には出さず、彼女へと視線を向けた。


すると、俺の目は真っ先に、彼女の真っ直ぐな青い瞳に引き付けられた。すべてを見透かしているかのようなその目は、まるでサファイアように光り輝いていて、その瞳の奥には果てしない銀河が広がっているかのようだ。

そして今度は、肩まで伸びる金色の髪に目が行った。一本一本艶のあるその髪は、焼き立てパンのようフワフワしていて、もし理性がなかったら、俺の手は確実にその髪を捉えていることだろう。


「私、隣の席の琴吹実(ことぶき みのる)と申します。よろしくお願いします」


丁寧でお淑やかな自己紹介だ。


「あっ、えっと俺は古暮和人です。こちらこそよろしくお願いします」


たどたどしい自己紹介だったが、少女は柔らかく微笑んで、隣の席に座った。


その後まもなくチャイムが鳴り、一ノ瀬先生が教室に入ってきた。


「皆さん、おはようございます。席に座ってください」


先生は全体を見回して、ニコッと笑った。


「今日は全員揃いましたね。それでは今日の予定ですがーー」


先生は今日の予定についてペラペラ話していくが、俺はぼーっとしていてほとんど聞いていなかった。

理由は簡単、隣に座る彼女が気になったからだ。


ジッと先生を見つめ話を聞いている彼女の横顔。

これ以上の素晴らしい光景は他にはないだろう。



前は欠席でいなかったけれど、まさかこんな美人さんが俺の隣の席だなんて。

周りの人たちは……うわー全員歯を食いしばってらっしゃっるよ。





昼休みになり、早速琴吹さんに話かけようと横を向くが、女子たちがより速い動作で彼女のもとへドッと集まって話し始めたので、俺は諦めて教室から退出した。


さて、これから初めて食堂を利用してみる。

学校のアプリの公共チャットや周りの生徒たちの噂話から、この学校の食堂の料理が安くて美味しく、昼は食堂がものすごく混むらしいことがわかった。

いったいどんなものかと想像しながら食堂に来てみると、案の定混んでいた。


俺は続く長蛇の列に並び、注文口近くに貼ってあるメニューを見ながら、どれを注文するか考えた。


うわー、選択肢多すぎて困るな。


食べたいものを何とか決めて注文口まで行き、定番らしい日替わり定食を注文した。

受け取り口に移動すると、速攻で料理が出てきたので、仕事速いなと感激しながら会計口へと移動した。


スマホでさっと会計を済ませ、適当な場所に腰掛けた。日替わり定食を口にしながら、あれこれ雑多なことを考える。


この学校に入学できたのはとても幸いなことだ。

中学で、俺の成績はたいていは中の上だった。

進路相談の時、先生に特にやりたいことはないと伝えたところ、それならレベルの高い学校へ行くべきだと紹介されたのがこの学校だ。


県内で、大学進学するなら即座に名が挙がる。テレビでも様々な活動が取り上げられ、度々話題になっている。設備も人材も充実している。とにかくすごい学校だと、先生に熱弁された。


その言葉を真に受けた俺は、やる気を出して受験勉強した。

部活に向けていた情熱を、試験勉強と面接対策に向けたわけだ。

その結果、試験ではボーダーラインギリギリの点数を取ることができた。

また、面接でも人当たりの良さそうな面接官に、緊張もそこそこにうまく対応することができた。


そして先日、この県立北高校に足を踏み入れた。

話や噂で聞いていた通り、県でトップの進学高の名は伊達ではないようだ。


IT技術が完備されていて、学校専用の情報網が形成されており、それを統括するための施設:情報統括センターが敷地内に連立している。

学生の様々な情報がスマホアプリによって管理されている。例を挙げると時間割や出欠確認、各施設の利用割り当て情報などだ。

出欠に関して具体的に述べると、学校のアプリと個人の端末と紐づけたスマホを出席確認用の機械にかざすだけで済む。

電車の改札を通る要領で、登校した順番にワンタッチするだけなので、一々点呼する必要がなくて便利である。ただしスマホを忘れたら直接先生に出席報告しに行かなければならないので、その点は注意が必要なのだが。


話は変わり、この学校の敷地は広い。広いということは掃除が大変ということになるわけだが、校内はもちろん学校の敷地内はいつも清潔である。まだお目にかかることはできていないが、お掃除ロボットが大活躍しているらしい。

学校の敷地内にある設備は、手始めに食堂、情報統括センター、総合会館、花壇。

次に陸上トラック、野球場、サッカーコート、テニスコート3面、ハンドボールコート2面。大中小の合わせて3つの体育館。そして10レーンの屋内プール。

そして3階建てで蔵書の多い大図書館。

また、校舎内には中庭があってくつろぐことができるし、屋上は頑丈なフェンスが囲っていて生徒が自由に景色を堪能することができる。


とまあ、フルコース料理のように素晴らしい学校の設備について考えるのはこれぐらいにする。今度は俺の今までの暮らしを振り返ってみる。


俺は父の勧めで、3歳から中学3年までの13年ピアノを習った。今はもう習っていない。

小学3年から6年の4年間は剣道をやっていたが、卒業すると同時にやめて、中学ではサッカー部に入った。

我ながらいろいろなことを経験してきたという自負がある。

また、小学校くらいから少年漫画、そして中学からライトノベルやなろう小説、少女漫画とジャンルを広げ、最近は推理もの、歴史ものも読むようになった。

中学を卒業した今となっては、興味が湧いたことなら、どんな分野の本でも手に取るようになった。


小中と運動をしてきたので、高校では体力をつけるよりも、知識向上を目標にしようと思う。本を沢山読んでいきたいところだ。

 


昼飯を食べた後は、中庭のベンチに座って休憩した。

とりあえず定番の日替わり定食を頼んでみたけど、結構美味かった。お手頃価格な割に味がしっかりしていて俺の舌にはとても合った食事だった。

初学食飯の美味しさを振り返りながら日向ぼっこをしていると、キンコンと授業開始五分前のチャイムが鳴った。教室に戻ろう。


隣の席の彼女は授業開始前ギリギリに戻ってきたので、結局話しかけることはできなかった。


それから五時間目、六時間目と行動を起こせずに時間が過ぎ、彼女にろくに話かけることができないまま放課後になってしまった。

よし今だ! と決心したのだが、いかんせん彼女の周りに直ちに女子が集まってくるので、話しかけるタイミングが全くなかった。そのあとすぐどこかに行ってしまうし……。

仕方ない、今日は諦めることにしよう。


〜〜〜〜〜〜〜〜


文芸部に顔を出すと、篠原さんと先輩がすでに来ていた。この一週間、俺も彼女も文芸部に顔を出していた。

先生の話によると、正式な入部は四月の下旬だそうだ。部活選びに悩む生徒も少なからずいるのだろう。


篠原さんは顔を見せたが、すぐに帰った。

俺と先輩は雑談をして、刻限になったら帰る。この一週間、毎日これの繰り返しだった。それを活動と言っていいのか定かではないが、まだ入部したわけではないので仕方がない。

今日もこのくらいで帰ることにした。




 俺は帰り道、琴吹さんのことを思い浮かべていた。


話したいけどすぐに阻まれる。それは非常にもどかしかった。もしこの調子でいけば、彼女と話せずに終わるなんてことにならないだろうか。

ネガティブな考えで脳内を満たされそうになる。

ここは気持ちを切り替えよう。

彼女は隣の席なのだから、チャンスはいくらでもあるはずだ。よし、明日は頑張る!


そう決意して、前へ足を踏み出した。


執筆は大変ですが頑張ります。

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